【公演レポ】フアン・ディエゴ・フローレス テノール・コンサートが開催!

1月31日、フアン・ディエゴ・フローレス テノール・コンサートを東京文化会館で聴いた。超絶的なコロラトゥーラの技術と、その卓越した表現力とカリスマ性で、ベルカント・オペラ歌手として世界を席巻したスーパースター・テノール、ファン・ディエゴ・フローレスが、2022年に引き続き来日した。


ⒸKiyonori Hasegawa

コンサートの構成は、オペラの管弦楽曲を先に演奏し、それからフローレスの美歌を堪能させるという心憎い構成だった。「100年に一人のテノール」といわれるファン・ディエゴ・フローレスがステージに登場したとたんに、スーパースターのだけが持ちうる独特のオーラが輝いていた。

第一部序盤は、ウォーミングアップのように軽快に抑制気味に歌が披露された。歌劇『ドン・ジョヴァンニ』より “わたしの恋人を慰めて”から伸びがある声が魅力的。1部の後半のロッシーニになるとアクセル全開の歌唱となった。

十八番のロッシーニは、秀逸した出来だった。イタリア語版でなくフランス語版で歌唱されたが、フローレスは流暢なフランス語を披露した。テクニックと表現が丁寧かつダイナミック。フローレスの代名詞、高音域の細やかな音型を俊敏に歌うアジリタをたっぷりと堪能させてくれた。やわらかくエレガントな声の運び、輝かしく突き抜けるフレージングに驚かされた。熱狂的な拍手と歓声は怒涛の様に沸き起こった。


ⒸKiyonori Hasegawa

後半はオール・ヴェルディ・プログラム。フローレスが歌唱する前に東京フィルが歌劇「シチリア島の夕べの祈り」序曲を演奏した。強弱が明確に組み合わされた小気味よい演奏が披露。短い中にも緩急がついた、ヴェルディらしい劇的なオーケストレーションを堪能させてくれる後半幕開けだった。

それにしても、ヴェルディとロッシーニはこうした緩急あるオペラ序曲を作曲する技量は天下無双の妙味あり。この序曲のおかげでフローレス&ヴェルディの世界にスムーズに入ることができた。後半のヴェルディでフローレスは熟練された美声を披露。フローレスの代名詞である精緻な高音、柔らかなフレージングを堪能した。

フローレスと言えば、ドニゼッティ「連隊長の娘」のハイCを9回連続で歌う、至難のトニオ役で名を馳せた存在だが、声の熟成に伴って新たにレパートリーに組み入れられた役柄では、音楽性の高さが傑出。多才な歌と多様な管弦楽の響きで聴衆を楽しませたミケーレ・スポッティ&東京フィルとの大饗宴は、滞りなく成功裡に本編終了を迎えた。

ところが、ここからスーパー・ベルカント・テノールと謡われるファン・ディエゴ・フローレスの真骨頂が発揮された。アンコールはなんと5曲!フローレスはギターを持って登場。ペルー生まれのフローレスの父はラテン音楽の歌手であり、フローレス本人も若い頃はラテン音楽に夢中になり作曲もしただけあり、ギターはまずまずの出来。


ⒸKiyonori Hasegawa

ドニゼッティ作曲 歌劇『愛の妙薬』 “人知れぬ涙”は凄かった。ホールがビリビリ震えるような円熟味が増した声。弱音を絡ませることにより旋律を柔らかく美しく響かせていた。終演後は熱狂的なブラヴォーと観客総立ちの拍手が長時間続いた。フローレスは「現代最高のテノール」ともいわれることが多い存在だが、アンコール後は「現代最高のエンターティナー」としての輝きを放っていた。


ⒸKiyonori Hasegawa

■NBS旬の名歌手シリーズ2024-Ⅰ
フアン・ディエゴ・フローレス テノール・コンサート

日時:2024年1月31日(水) 19:00
会場:東京文化会館

指揮:ミケーレ・スポッティ
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

【第一部】

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト作曲
―歌劇「皇帝ティートの慈悲」
序曲
“皇帝の主権にとって、親しい神々よ”
“比類この上ない玉座の唯一の果実がこれなのだ”

—歌劇「イドメネオ」
バレエ音楽より“シャコンヌ”第三幕

―歌劇「ドン・ジョヴァンニ」
“わたしの恋人を慰めて”

ジョアキーノ・ロッシーニ作曲
―歌劇「イタリアのトルコ人」

序曲
―歌劇「ギヨーム・テル(ウィリアム・テル)」
“私を見捨てないでおくれ、復讐の希望よ~ “先祖代々の住処よ”~友よ、復讐に手を貸してくれ”

【第二部】

ジュゼッペ・ヴェルディ作曲

―歌劇「シチリア島の夕べの祈り」
序曲

—歌劇「リゴレット」
“あれかこれか”

―歌劇「仮面舞踏会」
“今頃は家に到着し、ようやく落ち着いたことだろう〜永遠に君を失えば”
前奏曲(第一幕)

―歌劇「二人のフォスカリ」
“生まれ故郷の微風よ~委員会へはやく出て真実を明かすように〜憎しみだけが、それも凄まじい憎しみだけが”

―歌劇「椿姫」
前奏曲 第1幕
―歌劇「アッティラ」
“おお、苦しみよ!私は生きてきた”

―歌劇「ルイザ・ミラー」
“ああ!自分の目を信じるにいることができたら!〜穏やかな夜には〜用意されているのが祭壇であろうと墓であろうと”

アンコール:

CHABUCA GRANDA “JOSE ANTONIO”
CARLOS GRADEL “EL DIA QUE ME QUIERAS”
TOMAS MENDEZ “CUCURRUCUCU PALOMA”

ガエターノ・ドニゼッティ作曲 歌劇『愛の妙薬』 “人知れぬ涙”
アグスティン・ララ作曲 ”グラナダ”

CULTURE

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