【公演レポ】東京二期会 創立70周年記念公演 ジャコモ・プッチーニ歌劇『蝶々夫人』

9月8日 二期会創立70周年記念『蝶々夫人』公演を新国立劇場オペラパレスで観賞した。明治時代の長崎を舞台とし、名アリア「ある晴れた日に」など知られるジャコモ・プッチーニの名作『蝶々夫人』。

日本で最も多く上演されているオペラのひとつでアメリカ士官ピンカートンに一途な愛を捧げる蝶々さんの哀しい運命を描いた悲劇が、多くの人々の胸を打つ。

今回、二期会創立70周年記念公演とし、長年に日本のオペラ界を牽引してきた巨匠・栗山昌良による演出により上演された。

日本文化や時代に寄り添ったカラフルな美しい振袖、満開の枝垂れ桜に彩られた舞台装置、「さくらさくら」や「君が代」など、日本の楽曲の旋律がたくみに取り入れられており、日本の伝統と美の極致を感じさせてくれる名作だった。

2017年以来の待望の上演となり、タイトルロールの蝶々夫人は大村博美(ソプラノ)。大村は演技だけでなく歌も素晴らしく、伸びもある美声で観客を魅了。第一幕「天幸」、第二幕「苦境」、第三幕「消魂」と蝶々さんの移り変わる心情と境遇を綺麗なソプラノで描写した。

第二幕のアリア「ある晴れた日に」で、”あの人は必ず帰ってくる”と想いを込めて切々と歌い、観客の涙を誘った。第三幕ラストの栗山演出が見事で、大村の気持ちのこもった演技に魂が揺さぶられる思いがした。

蝶々さんに仕える女中スズキ役は山下牧子(メゾソプラノ)。しっかりと影から蝶々さんを支え、時には彼女を守る姿勢が伝わる役柄を好演。しっとりとしたメゾソプラノで独特の存在感を放っていた。

ピンカートンは、若手テノールとして脚光を浴びている宮里直樹。天に届くような若々しい力強いテナーは聞き応えがあった。声量・表現の奥深さともに十分で、非の打ちどころがない役柄を演じた。

シャープレス役はヴェルディ、プッチーニ作品で欠かせない今井俊輔(バリトン)。渋味と深味のバランスが絶妙な聴きやすいバリトンで観客を喜ばせた。今井のバリトンは1幕から3幕まで通して聴いても不思議と飽きるということがなく、ますます聴いていたいという欲求を増進する不思議な魅力に溢れていた。

男性歌手は類稀なカリスマ性を発揮し、女性歌手は演技と美声で観客を魅了。作品をさらに一段高いレベルへと昇華させていた。

合唱は二期会合唱団、新国立劇場合唱団、藤原歌劇団合唱部による合同合唱団。合唱団は安定した美しい歌唱で名舞台をサポート。

指揮はイタリアの若き俊英アンドレア・バッティストーニ。プッチーニ作品に対する深い洞察力とイタリア人ならではのカリスマ性で、同作品を的確に解釈。シンフォニーオーケストラと劇場オーケストラの両機能を併せもつ東京フィルハーモニー交響楽団からダイナミックで色彩豊かな美音を導き出していた。

バティストーニは鳴らす時は鳴らし、抑え時は抑えるバランス感覚が秀逸。音の出し方、テンポ、弱奏と強奏のバランスなどすべての面において比類なき才能を発揮し、同作品を至高の名作として昇華させた。東京フィルハーモニー交響楽団の演奏能力も見事で、指揮者の指揮に的確に反応し、オペラ演奏最良巧者として研ぎ澄まされた輝きを放っていた。

演出が日本の美を極めた栗山昌良によるものだったことと、ピットがバッティストーニ&東京フィルだったことが殊の外 大きな意味を持ったオペラ公演だった。

《二期会創立70周年記念公演》「蝶々夫人」
東京二期会オペラ劇場
オペラ全3幕
日本語字幕付き原語(イタリア語)上演

台本:ジュゼッペ・ジャコーザ、ルイージ・イッリカ
原案:デイヴィッド・ベラスコ『マダム・バタフライ』
作曲:ジャコモ・プッチーニ

会場:新国立劇場オペラパレス
公演日:2022年 9月8日(木) 18:30

スタッフ

指揮: アンドレア・バッティストーニ
演出: 栗山昌良

舞台美術: 石黒紀夫
衣裳: 岸井克己
照明: 沢田祐二
舞台設計: 荒田 良

合唱指揮: 佐藤 宏
演出助手: 奥野浩子

舞台監督: 菅原多敢弘
公演監督: 永井和子
公演監督補: 大島幾

キャスト

蝶々夫人: 大村博美
スズキ: 山下牧子
ケート: 青木エマ
ピンカートン: 宮里直樹
シャープレス: 今井俊輔
ゴロー: 大川信之
ヤマドリ: 畠山茂
ボンゾ: 斉木健詞
神官: 大井哲也

合唱:二期会合唱団、新国立劇場合唱団、藤原歌劇団合唱部
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

主催:公益財団法人東京二期会
共催:公益財団法人新国立劇場運営財団、公益財団法人日本オペラ振興会

オペラ公演ラインアップ「蝶々夫人」 - 東京二期会
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