【公演レポ】イタリア・オペラの名匠マウリツィオ・ベニーニが牽引した新国立劇場プッチーニ歌劇『トスカ』

7月6日(土)。東京・新国立劇場ジャコモ・プッチーニ『トスカ』初日公演を鑑賞した。
ヴィクトリアン・サルドゥの戯曲に基づくジャコモ・プッチーニ5作目のオペラとして書かれた『トスカ』は、19-20世紀を代表するヴェリズモ・オペラで見せ場の多さとスリリングな響きが次々現れるオペラ史上、燦然と輝く最高傑作の一つと評価されています。


撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場

タイトルロールのトスカ役を務めたジョイス・エル=コーリーのソプラノは、ドラマチックかつ情感豊かなソプラノ。やや癖がある歌い回しながら、名アリア「歌に生き、愛に生き」では、トスカの心情を迫真の歌唱と演技で演じ切った。しばらくの沈黙の後、長い拍手が贈られた。


撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場

カヴァラドッシ役 テオドール・イリンカイのテノールも上々の出来で高音域の伸びよい美声を披露した。教会の壁画を描く画家カヴァラドッシが歌う名アリア「妙なる調和」では、「唯一のわが心はトスカに」と熱烈な愛の歌を披露し、聴き手を陶酔させた。


撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場

悪辣な警視総監スカルピアを代役として務めた青山貴の骨格がしっかりしたバリトンは技巧に優れ、重厚な歌唱と落ちつきがある演技で舞台を盛り立てた。


撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場

荘厳華麗なマダウ=ディアツ演出は、緻密な描写でトスカの愛と運命のドラマを鋭敏に描く新国立劇場屈指の人気プロダクション。ローマに現存する建築を移したかのような壮麗な舞台美術・装置は眩いばかりで場面転換も鮮やかだった。


撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場

同オペラ最大の立役者はオーケストラ・ピットで劇的凝縮力に優れた音楽を作り上げたイタリアの名匠マウリツィオ・ベニーニだろう。感情が揺さぶられる瞬間の連続であるオペラ『トスカ』において、純粋でデリケートな弱音から胸に迫るような強音・轟音までの輩出が白眉。


撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場

アリア「妙なる調和」では、東京フィルハーモニー交響楽団から例えようもない程、情感豊かな美旋律を紡ぎ出した。教会で鳴り響く王党派の戦時祝賀「テ・デウム」では、俗と聖、悪と善、無神論と信仰という同場面に必須な対照的なニュアンスを余すことなく聴衆に伝える指揮と手腕に舌を巻いた。カンタビーレの心と詞的抒情性に優れた指揮ぶりで聴き手を虜にし、緊迫感ある舞台を牽引した。


撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場

■新国立劇場 2023/2024 シーズン オペラ
ジャコモ・プッチーニ『トスカ』
Tosca / Giacomo PUCCINI

公演期間:2024年7月6日[土]
会場:新国立劇場オペラハウス

STAFF:

【指揮】マウリツィオ・ベニーニ
【演出】アントネッロ・マダウ=ディアツ
【美術】川口直次
【衣裳】ピエール・ルチアーノ・カヴァッロッティ
【照明】奥畑康夫
【再演演出】田口道子
【舞台監督】菅原多敢弘

CAST:

【トスカ】ジョイス・エル=コーリー
【カヴァラドッシ】テオドール・イリンカイ
【スカルピア】青山貴
【アンジェロッティ】妻屋秀和
【スポレッタ】糸賀修平
【シャルローネ】大塚博章
【堂守】志村文彦
【看守】龍進一郎
【羊飼い】前川依子

【合唱】新国立劇場合唱団
【合唱指揮】三澤洋史
【児童合唱】TOKYO FM 少年合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

公演情報 WEB サイト https://www.nntt.jac.go.jp/opera/tosca/


2024年7月新国立劇場オペラ『トスカ』Tosca New National Theatre, Tokyo