5年ぶりのローマ歌劇場(Teatro dell’Opera di Roma)日本公演が東京文化会館で開催された。ローマ歌劇場は2022-2023シーズンより音楽監督としてミケーレ・マリオッティを迎え、イタリアが誇る伝統芸術であるイタリア・オペラを上演している。イタリアオペラで最高峰と名高いジュゼッペ・ヴェルディ歌劇『椿姫』とジャコモ・プッチーニ歌劇『トスカ』が日本で上演された。
演出家フランコ・ゼッフィレッリの生誕100周年に当たる今年、ジャコモ・プッチーニ『トスカ』を9月21日(木)東京文化会館で観賞した。
元イタリア元老院議員で「オペラの舞台を変えた」と称されるフランコ・ゼッフィレッリの演出・美術は、オーソドックスかつ豪華絢爛。さすがはゼッフィレッリ演出による舞台をそのまま東京に持ち込んだ引越興行である。作品の細部にまで神経が行き届いている至高のオペラを堪能した。
ゼッフィレッリの演出は豪華絢爛でスケールが大きく、壮大なスペクタクルといわれがちだが、大学で建築学を学び、若き日に美術スタッフとして働いた経験があり、オペラの衣裳や小道具に至るまで師匠ヴィスコンティゆずりの本物志向で細部まで神経が行き届いたものだった。ゼッフィレッリ本人は「作曲者の意図を正しく聴衆に伝えていくことが演出の鉄則だ」と語っている。
音楽とドラマを視覚的な美しさで見せることができるプッチーニにうってつけの演出家だということが証明された豪華絢爛な名舞台だった。
歌手陣は大変恵まれた布陣で、世界を代表するスーパースター・クラスが来日した。
タイトルロールであるフローリア・トスカ役を務めたのがブルガリア出身で世界を席巻しているソニア・ヨンチェヴァ(ソプラノ)。
©Kiyonori Hasegawa
世界の超一流歌劇場で圧倒的な存在感を放っているヨンチェヴァのソプラノは、スケールが大きく、彼女特有の深みがある美声が白眉。アリア「歌に生き、恋に生き」では、心に染みいる抒情性極まる歌唱で、万雷の喝采を浴びた。
三大テノール ルチアーノ・パヴァロッティの後継者、世界最高峰のスーパースターテノールとして知られるヴィットリオ・グリゴーロは、画家でトスカの恋人であるマリオ・カヴァラドッシ役を熱唱。
グリゴーロが歌唱した冒頭のアリア「妙なる調和」では度肝を抜かれた。舞台上のオーラが半端ではなく演技が驚くほど勇ましい。「妙なる調和」は、『トスカ』第1幕、教会の壁画を描く画家カヴァラドッシが歌うアリアだが東京文化会館の天井を揺らすほどのダイナミックな声量と役者としての表現力が豊かで卓越。声の強弱を完璧にコントロールし「わが心のすべてははトスカに!」とありったけ愛を熱唱した。そして最後は「トスカよ、ただ一人、君だけに!」とイタリア語で熱く歌唱。スーパースターと呼ぶに今、最もふさわしいカリスマ・テノールであることが実感させられた。
©Kiyonori Hasegawa
『トスカ』第3幕で、間もなく銃殺される画家カヴァラドッシ(テノール)が、明け方の星に、トスカとの愛を回想し、むせび泣き歌うアリア「星は光りぬ」では観客の涙を大いに誘った。
悪漢 スカルピア男爵役のロマン・ブルデンコ(バリトン)は、冷徹で堂々とした立ち振る舞いが重厚で聴き応え・見応えがあった。
©Kiyonori Hasegawa
第一幕フィナーレで歌われる宗教曲「テ・デウム」では、スカルピアがトスカを陥れようと計略をめぐらし一人つぶやき続けるところから始まり、やがて自分の企みが悦に入り気持ちが最大限に高揚。合唱と共に最高潮に達したところで、鐘や大砲が響くという壮大な幕切れになった。
イタリア本場の大合唱とスカルピアの悪漢としての冷徹なバリトンに圧倒された。教会の大聖堂で演じ歌われるシーンは、壮大・壮麗の極致で一生に一度は観ておきたい名場面と言えるだろう。
©Kiyonori Hasegawa
2022年11月の新シーズンから音楽監督を務めるミケーレ・マリオッティは、イタリアの伝統を大切にするような指揮ぶりでローマ歌劇場管弦楽団に生き生きとした命を吹き込んだ。オーケストラの鳴りが非常によく、音色が極めて濃厚かつシンフォニック。
第一幕フィナーレの「テ・デウム」ではイタリアの伝統を感じさせる重厚な管弦楽が白眉。イタリアの伝統に基づいたドラマ性を重視した演奏は日本の聴衆に鮮烈な感動を与えた。終演後は、割れんばかりの拍手喝采と観客総立ちのスタンディングオベーションが盛大に行われた。
■2023年日本公演 ローマ歌劇場
Teatro dell’Opera di Roma
ジャコモ・プッチーニ
『トスカ』 全3幕
日程;9月21日(木)15:00
会場:東京文化会館(上野)
STAFF:
指揮:ミケーレ・マリオッティ
Direttore:Michele Mariotti
演出・美術:フランコ・ゼッフィレッリ
Regia e Scenografia:Franco Zeffirelli
合唱監督:チーロ・ヴィスコ
Maestro del Coro:Ciro Visco
衣裳:アンナ・ビアジョッティ
Costumi:Anna Biagiotti
照明:マルコ・フィリベック
Luci:Marco Filibeck
再演演出:マルコ・ガンディーニ
Ripresa della regia:Marco Gandini
舞台美術補:カルロ・チェントラヴィーニャ
Ripresa della scenografia:Carlo Centolavigna
CAST:
フローリア・トスカ:ソニア・ヨンチェヴァ
Floria Tosca:Sonya Yoncheva
マリオ・カヴァラドッシ:ヴィットリオ・グリゴーロ
Mario Cavaradossi:Vittorio Grigolo
スカルピア男爵:ロマン・ブルデンコ
Il Barone Scarpia:Roman Burdenko
堂守:ドメニコ・コライアンニ
Sagrestano:Domenico Colaianni
チェーザレ・アンジェロッティ:ルチアーノ・レオーニ
Cesare Angelotti:Luciano Leoni
スポレッタ:サヴェリオ・フィオーレ
Spoletta:Saverio Fiore
シャルローネ:リオ・ポール・シャロット
Sciarrone:Leo Paul Chiarot
看守:ファビオ・ティナッリ
Un Carceriere:Fabio Tinalli
牧童:末光朔大
Pastorello:Sakuhiro Suemitsu
ローマ歌劇場管弦楽団、ローマ歌劇場合唱団
Orchestra e Coro del Teatro dell’Opera di Roma
NHK東京児童合唱団
NHK Tokyo Children Chorus
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