3月11日、リヒャルト・ワーグナーの楽劇『トリスタンとイゾルデ』のゲネプロ(個人賛助会員特別舞台稽古見学会)を新国立劇場オペラパレスで鑑賞した。
「トリスタンとイゾルデ」(Tristan und Isolde)は、ドイツ後期ロマン派の作曲家リヒャルト・ワーグナーが円熟期に作曲した楽劇。ワーグナーは自らのオペラ作品を楽劇と呼び、ひと幕中にメロディーがとまることなく終幕まで流れつづける“無限旋律”や特定の登場人物や状況を示すための“ライトモチーフ”が多用されている。
ワーグナー作品に共通するテーマとなっている「愛による世界の救済」の思想が詰まった壮大な恋愛悲劇となっており、身を焦がすような愛と苦悩が大胆に歌いあげられ、ワーグナーの魔力のような魅力を全身で感じることができる作品だった。
物語は、ケルトに起源を持つと考えられている古代トリスタン伝説がベースとなっており、ゴットフリート・フォン・シュトラースブルク(1170 – 1210)の叙事詩を土台となっている。
歌手陣は、世界トップクラスの藤村実穂子をはじめ、強力な布陣が揃った。騎士トリスタン役のゾルターン・ニャリは、英雄的なヘンデン・テノールとは異なる風格ながら、機敏な役作りと明快で伸びやかな歌唱に惹きつけられた。
イゾルデ姫役のリエネ・キンチャは、迫力ある美声が魅力。第2幕まで抑え気味の歌唱だったが、「愛の死」の絶唱はまさに至芸。ワーグナー楽劇にふさわしい強靭な歌唱と体現力により、禁断の「愛と死」の世界観を際立たせた。
ブランゲーネの藤村美穂子は、バイロイト連続9シーズン出場歌手だけあって、明瞭な声とイゾルデ姫を誠心誠意、世話をする細やかな演技が巧みだった。
今従者クルヴェナール役のエギルス・シリンスは、ワーグナー楽劇にふさわしい鋼のようなバスで同オペラを重厚かつ格調高いものへと昇華させた。
マルケ王の伊藤貴之は、王の苦悩や後悔が伝わる様子を歌と演技で的確に描写。
海外歌手の代役が多いゲネプロだったが代役とは思えないほど完成度が高い歌唱が続き、会場は熱気に包まれた。
初演(2010/2011シーズン)も指揮した大野和士が、音楽監督を務める東京都交響楽団をピットに迎えての上演だったが、豊潤で輝かしい響きが白眉。2回の休憩を含め5時間半におよぶ長丁場だったが、全く飽きることなくワーグナーならではの雄弁・精強な管弦楽の世界へと誘われ、至福の時を共有した。
■新国立劇場 2023/2024シーズンオペラ
リヒャルト・ワーグナー
トリスタンとイゾルデ
Tristan und Isolde / Richard Wagner
日時:2024年3月11日(月)14:00
会場:新国立劇場オペラパレス
STAFF:
指 揮:大野和士
演 出:デイヴィッド・マクヴィカー
美術・衣裳:ロバート・ジョーンズ
照 明:ポール・コンスタブル
振 付:アンドリュー・ジョージ
再演演出:三浦安浩
舞台監督:須藤清香
CAST:
トリスタン:ゾルターン・ニャリ(トルステン・ケールから交代)
マルケ王:伊藤貴之(ヴィルヘルム・シュヴィングハマーから交代)
イゾルデ:リエネ・キンチャ(エヴァ=マリア・ヴェストブルックから交代)
クルヴェナール:エギルス・シリンス
メロート:秋谷直之
ブランゲーネ:藤村実穂子
牧童:青地英幸
舵取り:駒田敏章
若い船乗りの声:村上公太
合 唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京都交響楽団
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