9月10日(日)藤原歌劇団公演ヴェルディ歌劇「二人のフォスカリ」(1844年作曲)を新国立劇場オペラパレスで観賞した。
オペラを28作品作曲したイタリアの国民的英雄ジュゼッペ・フォルトゥニーノ・フランチェスコ・ヴェルディ(Giuseppe Fortunino Francesco Verdi、1813年10月10日 – 1901年1月27日)の初期の作品。
「ナブッコ」(1842年作曲)「イ・ロンバルディ(第一回十字軍のロンバルディア人)」(1843年作曲)で名声を博したヴェルディがその後に作曲した6作品目のオペラである。15世紀ヴェネツィア共和国で実際に起こった史実をもとにイギリスの詩人バイロンが書いたドラマが原作となっている。
「フォスカリ」とは人名で、父フランチェスコ・フォスカリ(1373-1457)は、ヴェネツィアの総督を務めた実在の人物。その息子のヤコポ・フォスカリも実在したことが確認されている。
本オペラ「二人のフォスカリ」が上演されることは珍しく、日本で2回目の公演。歴史ある藤原歌劇団にとっても初演の公演。「二人のフォスカリ」は、日本オペラ振興会、新国立劇場、東京二期会の三団体共催という形で開催され、三団体による共催は今年で6年目を迎えた。
父フォスカリ、フランチェスコ・フォスカリ役を担った押川浩士(バリトン)は、強靭に響く力強い声でヴェネツィア共和国の総督としての威厳と父としての苦悩を表出させた。35年間、ヴェネツィアのために尽くし発展させてきた総督としての役柄と、息子を死に追いやった自責の念と悲しみを深みがあるバリトンで見事に対比させた。
もう一人のタイトルロールである息子フォスカリ、ヤコポ・フォスカリは海道 弘昭(テノール)が熱演。海道は、1幕前半のアリア「遠い流刑地から」~「恐ろしい憎しみだけが」で、愛するヴェネツィアへの想いと、今の境遇を歌う場面で輝かしく勇ましいテノールを披露。声量があり、力強く伸びがある歌声が会場全体に響き渡った。海道は、本オペラを待ちわびたファンから盛大なブラヴォーが贈られた。
ヤコポ・フォスカリの妻であるルクレツィア・コンタリーニ役は西本 真子(ソプラノ)が好演。西本は張りがあり、透明感があるソプラノで本オペラの要所を抑えた。西本の演技と歌は後半に従い迫真力が溢れているものとし進化。流麗なベルカント唱法で観客の胸を熱くした。
政敵役ヤコポ・ロレダーノの杉尾 真吾は、悪役としての冷酷さを渋味ある声と演技で鮮明に描いた。ベルカント様式の高度な要求に応える日本人歌手のレベルの高さは、特筆するべきものがあった。
合唱は、藤原歌劇団合唱部・新国立劇場合唱団・二期会合唱団の3団体混声からなる合唱団。3団体混声からなる合唱団は、統一とれた見事な合唱を披露し、劇的な舞台を盛り立てた。
田中祐子&東京フィルハーモニー交響楽団は、第一幕「ヤコポのテーマ」を組み込んだ劇的な前奏曲から最終章まで緊迫感に満ちた旋律を披露。テンポとキレのよい田中の指揮は、輝きと深みがあるサウンドを東京フィルハーモニー交響楽団から引き出した。
全体的にハイレベルで満足度が高いオペラ公演でオペラハウスはほぼ満員。早くも同作品の再演を望む声が聞かれる。
写真提供:公益財団法人日本オペラ振興会
■藤原歌劇団公演(共催:新国立劇場・東京二期会)
G.ヴェルディ作曲
「二人のフォスカリ」オペラ全3幕
ニュープロダクション(新制作)
日時:2023年9月10日(日) 14:00
会場;新国立劇場オペラパレス
指揮:田中 祐子
演出:伊香 修吾
CAST
フランチェスコ・フォスカリ 押川浩士
ヤコポ・フォスカリ 海道弘昭
ルクレツィア・コンタリー二 西本真子
ヤコポ・ロレダーノ 杉尾真吾
バルバリーゴ 黄木 透
ピザーナ 加藤美帆
ファンテ 井出司
セルヴォ 石井敏郎
子供 岡本瞬、普久原傑人
STAFF
合唱指揮:安部克彦
美術:二村周作
照明:齋藤茂男
振付:伊藤範子
舞台監督:菅原多敢弘
副指揮:山舘冬樹、大森大輝
演出助手:手塚優子
衣裳コーディネーター:小野寺佐恵
合唱:藤原歌劇団合唱部/新国立劇場合唱団/二期会合唱団
助演:加治屋章介、佐藤李敦、横山陽介、竹井佑輔
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
【主催】公益財団法人日本オペラ振興会
【共催】公益財団法人新国立劇場運営財団/公益財団法人東京二期会
【助成】公益財団法人三菱UFJ信託芸術文化財団/公益財団法人 ローム ミュージック ファンデーション
【後援】NPO法人日本ヴェルディ協会
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