【公演レポ】新国立劇場バレエ団 木村優里、ライト版『白鳥の湖』<新制作>オデット&オディールの二役

10月31日、吉田都芸術監督率いる新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』<新制作>を新国立劇場オペラパレスで観賞した。10月23日の開幕公演は、10月20日にご逝去された、新国立劇場バレエ研修所所長、元舞踊芸術監督の牧阿佐美氏への追悼公演として上演された。

2020年10月からの延期が余儀なくされたピーター・ライト版『白鳥の湖』<新制作>は、英国的な演劇要素が強く、ドラマティックな展開が随所に散りばめられている名作。ライト版は共同振付のガリーナ・サムソワの協力のもとプティパ=イワノフ版を基本としつつ、ロジカルでわかりやすく、舞台上のダンサーの役柄が細かく定められている。

結婚相手を決めなければならないジークフリード王子と、白鳥に姿を変えられたオデット姫が、“永遠の愛の世界”で結ばれる様子が描かれたライト版『白鳥の湖』は、ダンサーたちの類まれなる演技力と表現力、確固とした技術に基づいた踊りによるところが大きい作品。

新調された衣裳は、バーミンガムやロイヤルバレエで使用されたデザインが再現されており、非常に美しいものだった。舞台美術も英国調で上品かつ重厚感があり、シェイクスピア劇をみているようなイメージを創出し、作品全体の芸術性を高めていた。

第3幕で使節に身を扮した悪魔ロットバルトとその娘オディールが現れ、オディール役の木村優里が披露した32回転(グランフェッテ・アン・トゥールナン。一般的には、“グラン・フェッテ”と省略)は圧巻だった。片脚を軸に回転し続ける最高難度の大技は、観客を興奮と感動の世界へと誘い、喝采を受けていた。

可憐な容姿と研ぎ澄まされたテクニックを持つ木村が、王子を誘い惑わせる表現力も白眉。王子と出会ったロマンティックなアダージョで、透明感が溢れ美しさが光るオデット(白鳥)役と、大胆で妖艶な魅力を持つオディール(黒鳥)役を見事に演じ分けた。

甘いマスクと端正な踊りが魅力の渡邊峻郁によるジークフリード王子は、踊りに力強さが見られ、安定感があった。

ロットバルト男爵役の貝川鐵夫と王妃役の本島美和の迫真の演技は見ごたえがあり、引き込まれた。

新国立劇場バレエ団の一糸乱れぬコール・ド・バレエ(群舞)に圧倒された。はっとさせられる、この世のものと思えないような美しさは、ピーター・ライト版『白鳥の湖』の大きな見せ場となっていた。

幻想的な世界に誘う音楽は、東京フィルハーモニー交響楽団が担当。第二幕ハープのカデンツァの後の哀愁に満ちたヴァイオリン・ソロ(オデットと王子の愛の踊りの場面)や美しい”情景”のオーボエ・ソロは、観客の涙を大いに誘った。

『白鳥の湖』をまだ見たことがない人も、劇場でぜひ一度この名作に触れて魅力を味わってほしい。

撮影:鹿摩隆司

◆新国立劇場バレエ団
白鳥の湖<新制作>
Swan Lake
2021年10月31日(日) 14:00
会場:新国立劇場 オペラパレス

Staff&Cast:

【振付】マリウス・プティパ/レフ・イワーノフ/ピーター・ライト
【演出】ピーター・ライト
【共同演出】ガリーナ・サムソワ
【音楽】ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
【美術・衣裳】フィリップ・プロウズ
【照明】ピーター・タイガン
【指揮】冨田実里
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

出演主要キャスト:

オデット/オディール:木村優里
ジークフリード王子:渡邊峻郁
王妃:本島美和
ロットバルト男爵:貝川鐵夫
ベンノ:木下嘉人
クルティザンヌ(パ・ド・カトル):飯野萌子、廣川みくり
ハンガリー王女:細田千晶
ポーランド王女:池田理沙子
イタリア王女:五月女遥

白鳥の湖
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