【公演レポ】イム・ユンチャン、プレトニョフ指揮 東京フィルと奏でたベートーヴェンの『皇帝』

東京フィルハーモニー交響楽団 2月定期演奏会を東京・サントリーホールで観賞した。指揮は、東京フィルハーモニー交響楽団 特別客演指揮者でピアノの鬼才でもあるミハイル・プレトニョフ。


撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団

ピアノは、ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールに最年少で優勝したイム・ユンチャンが出演した人気の演奏会で、チケットは完売していた。


撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団

プログラムの前半は、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番『皇帝』。ベートーヴェンが生涯に完成させたピアノ協奏曲全5曲の中では最後となる作品であり、「傑作の森」(ベートーヴェンの生涯で傑作が多い中期10年)と評される時期に生み出された作品の一つとなる。

イム・ユンチャンのピアノは一つ一つの音を存分に際立たせながらも第一楽章と第三楽章のカデンツァは自由奔放に明るく愉しく演奏していた。


撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団

ベートーヴェンはしばしば古典派とロマン派の中間にある作曲家、またはロマン派を切り開いた作曲家として捉えられているが、イムの演奏は若々しく自由奔放にロマン派を切り開いた色彩感に溢れていた。

演奏後、ブラヴォーと歓声が凄まじく、韓国をはじめとする海外から聴きに来たファンが多かったのだろう。アンコールには、バッハの「ピアノ協奏曲第5番」の第2楽章と、マイラ・ヘス編曲の「主よ人の望みの喜びよ」のダブル・アンコールで満場の来場者の声援に応えていた。


撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団

後半は、チャイコフスキーのマンフレッド交響曲。チャイコフスキーの交響曲と言えば、第四番から第六番の「後期3大交響曲」の印象が強いが、番号なしのマンフレッド交響曲は、交響曲第4番と第5番の間に作曲されている作品となっている。

全曲を通した演奏は約55分にもなる大作。第一楽章「アルプスの山中を彷徨うマンフレッド」は、バス・クラリネットとファゴットによる主題が提示された。クライマックスは金管が劇的に咆哮し、この交響曲が持つ広大なロシアの大地を思わせるような雄大さ・スケール感といったものを見事に顕していた。


撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団

また、精霊に「不死の呪い」をかけられながらマンフレッドはアルプスの山中をさまよう様子をオーボエやフルートなどの木管奏者が非常に巧く描写していた。

第四楽章「アリマーナの地下宮殿」は激情的な起伏がスリリングで面白く聴けた。鬼才ミハイル・プレトニョフによる指揮は、東京フィルから驚くほど豊かな色彩感を導き出した。ロシア的な美しく華麗な響きに満ちており、プレトニョフの曲全体における音楽構築の見事さとセンスの良さが際立った演奏会となった。


撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団

チャイコフスキー《マンフレッド交響曲》は、後期三大交響曲と比べると演奏機会と録音が少ないが、感動的な標題交響曲として、ベルリオーズやリストに次ぐ重要作であることを思い起こせてくれる名演だった。


撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団

■東京フィルハーモニー交響楽団
第980回サントリー定期シリーズ 

日時:2月24日(金)19:00
会場:サントリーホール 大ホール

指揮:ミハイル・プレトニョフ(特別客演指揮者)

ピアノ:イム・ユンチャン
(2022年ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール優勝)

ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番『皇帝』
チャイコフスキー/マンフレッド交響曲

主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団

第980回サントリー定期シリーズ | 東京フィルハーモニー交響楽団
2023年2月24日(金) 19:00 サントリーホール 大ホール
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