【公演レポ】若き俊英バッティストーニ&東京フィル、「マーラー5番」で忘れられない余韻を残す

9月15日東京フィルハーモニー交響楽団、9月の定期演奏会を東京オペラシティコンサートホールで聴いた。指揮は、首席指揮者のアンドレア・バッティストーニ。

コンサートマスターは、近藤 薫。

前半は、イタリアの文豪ダンテをモチーフにピアノの魔術師フランツ・リストが作曲した超絶技巧的なピアノ作品「ダンテを読んで」をバッティストーニが管弦楽のために編曲した作品。

巡礼の年 「第2年:イタリア」の「ダンテを読んで:ソナタ風幻想曲」は、他6曲に比べ遥かに規模が大きく、演奏時間は約17分に及ぶ大作。リストのピアノ作品の中でも演奏が大変難しいことで知られる難曲のひとつ。

今年、日本デビューから10年目を迎えたイタリアの俊英アンドレア・バッティストーニは、同難曲を類まれな編曲センスで、リストの心情を描写。聖と俗の両方を備えている迫力ある管弦楽曲へ昇華させることに成功した。

バッティストーニの身体全体を使った炎のような指揮は、オーケストラ各セクション特徴を見事に捉え、豪快にオーケストラ全体を咆哮させ、観客を大いに愉しませた。

後半のグスタフ・マーラー「交響曲第5番」は、ウィーン時代の「絶頂期」とも見られる期間に作曲された作品。音楽の進行は暗から明へという曲想で、マーラー屈指の人気曲ということもあり曲調は比較的明快で親しみやすかった。

バティストーニはテンポは早めながら、開放的にダイナミックにオーケストラ全体を豪快に鳴らしていった。東京フィルは金管奏者の巧さが炸裂。第一楽章冒頭のトランペットのソロに呼応するように強奏するオーケストラの三連符はベートーヴェンの「運命」を想起させるが、トランペット奏者のソロが卓越していた。

第三楽章は、ホルン首席の独奏が格別の出来。力強い4本のホルンに導かれ奏でられた木管奏者による主題が美しく、聴き応えがあった。

ハープと弦楽器による第4楽章「アダージェット」は、ルキノ・ヴィスコンティ監督による1971年の映画「ベニスに死す」で使われ、マーラーブームの火付け役となった。作曲当時マーラーは、22歳のアルマ・シントラーと出会い、12月には婚約を発表。翌年の1902年3月9日に結婚し、幸せの絶頂にあったとされる。

同楽章は、ハーブと弦の調べが緩やかな河の流れのような流麗さと気品さがあり、バッティストーニは「アダージェット」のみ指揮棒なしで指揮した。バティストーニはマーラーの幸福感を非常に巧く表現し、会場全体を温かな空気で満たしていった。


若き俊英アンドレア・バッティストーニ&東京フィルハーモニー交響楽団による指揮と演奏は、観客に忘れられない感動と余韻を残した。

撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団

■東京フィルハーモニー交響楽団
第149回東京オペラシティ定期シリーズ

日時:9月15日(木)19:00
会場:東京オペラシティコンサートホール

指揮:アンドレア・バッティストーニ(首席指揮者)

プログラム:

リスト(バッティストーニ編)/『巡礼の年』第2年「イタリア」より ダンテを読んで
マーラー交響曲第5番

第149回東京オペラシティ定期シリーズ | 東京フィルハーモニー交響楽団
2022年9月15日(木) 19:00 東京オペラシティコンサートホール
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