【公演レポ】開場25周年を迎えた新国立劇場、ムソルグスキー歌劇『ボリス・ゴドゥノフ』を初上演!


開場25周年を迎えた新国立劇場で11月17日、ムソルグスキー作曲の歌劇『ボリス・ゴドゥノフ』を観賞した。同作はロシアの実在した君主ボリス・ゴドゥノフ(1551年 – 1605年)の生涯をオペラ化したムソルギスキーの唯一のオペラとなっている。

新国立劇場にとって、「エウゲニ・オネーギン」「夜鳴きうぐいす/イオランタ」に続くロシア・オペラの新制作。ロシア五人組の中にあって、ひときわロシア民族色が強いと評価されるムソルグスキーが完成させた『ボリス・ゴドゥノフ』を、ポーランド国立歌劇場との共同制作により、上演された。

ロシア動乱期に実在した皇帝ボリス・ゴドゥノフを題材にしたプーシキンの史劇を元に、有力者の策謀、権力者の孤独や苦悩など、ロシアの様々な階層の姿を重層的に描いた傑作です。

ボリス・ゴドゥノフは下級貴族の出身で、16世紀後半、モスクワ公国のイヴァン4世(雷帝)の親衛隊長。雷帝死後の混乱に乗じ、1599年にツァーリとなる。先祖は14世紀にモスクワ大公国に臣従したタタールといわれる。ボリスは皇帝になるために7歳のドミトリー皇子を殺害。それが原因で長男フィールドが障害を抱えてしまったとする演出。

ロシアの歌手たちが政治的な状況から来日不可能になった中で、ボリス・ゴドゥノフ役のギド・イェンティンス(バス)は、自ら犯した罪の重さゆえに悩み苦しむ役柄を好演。罪悪感にさいなまれ、錯乱気味という難しい役柄だが聴き応えある低音の魅力に引き込まれた。

ヴァシリー・シュイスキー公を担ったのアーノルド・ベズイエン(テノール)は、堂々とした輝きがある歌唱を披露。

ピーメン役のゴデルジ・ジャネリーゼ(バス)は、深々とした渋味溢れるバスが最高の出来で、舞台の重要な場面を牽引し、観客を大いに魅了した。

新国立劇場合唱団は、第一幕ポリスを褒めたたえる戴冠式の”栄光あれ”、第四幕フィナーレの力強い民衆合唱”大空を飛ぶ鷲ではなく” や 農民合唱”農奴の軛を投げ捨てて”などで聴き応えがある堂々とした素晴らしい合唱を披露。新国立劇場合唱団の隙の無い合唱は、民衆が主役である同オペラで際立った存在感を放っていた。

新国立劇場ではお馴染みのTOKYO FM 少年合唱団は歌と演技で舞台をサポート。

大野和士が指揮をする東京都交響楽団は、熟成と技量の高さを感じさせる音色。《ボリス》の悲劇性を際立たせ、抒情性を強調した格調高い演奏はさすがだった。

壮大な歴史絵巻・ムソルグスキー作曲の歌劇『ボリス・ゴドゥノフ』初上演に挑戦した新国立劇場の勇気と功績に拍手を送りたい。

撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場

■新国立劇場 開場25周年記念公演
モデスト・ムソルグスキー
ボリス・ゴドゥノフ<新制作>

日時:2022年11月17日(木)19:00
会場:新国立劇場オペラパレス

スタッフ:

【指 揮】大野和士
【演 出】マリウシュ・トレリンスキ
【美 術】ボリス・クドルチカ
【衣 裳】ヴォイチェフ・ジエジッツ
【照 明】マルク・ハインツ
【映 像】バルテック・マシス
【ドラマトゥルク】マルチン・チェコ
【振 付】マチコ・プルサク

キャスト:

【ボリス・ゴドゥノフ】ギド・イェンティンス
【フョードル】小泉詠子
【クセニア】九嶋香奈枝
【乳母】金子美香
【ヴァシリー・シュイスキー公】アーノルド・ベズイエン
【アンドレイ・シチェルカーロフ】秋谷直之
【ピーメン】ゴデルジ・ジャネリーゼ
【グリゴリー・オトレピエフ(偽ドミトリー)】工藤和真
【ヴァルラーム】河野鉄平
【ミサイール】青地英幸
【女主人】清水華澄
【聖愚者の声】清水徹太郎
【ニキーティチ/役人】駒田敏章
【ミチューハ】大塚博章
【侍従】濱松孝行
※本プロダクションでは、聖愚者は歌唱のみの出演となります。

【合唱指揮】冨平恭平
【合 唱】新国立劇場合唱団
【児童合唱】TOKYO FM 少年合唱団
【管弦楽】東京都交響楽団
共同制作:ポーランド国立歌劇場
Co-production with Polish National Opera

ボリス・ゴドゥノフ
新国立劇場のオペラ公演「ボリス・ゴドゥノフ」のご紹介。 新国立劇場では名作から世界初演の新作まで、世界水準の多彩なオペラを上演しています。

▽オペラ『ボリス・ゴドゥノフ』オーケストラ歌合わせより

▽『ボリス・ゴドゥノフ』の演出家、マリウシュ・トレリンスキにより演出コンセプト説明

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