9月2日、牧阿佐美バレエ団牧阿佐美追悼公演『飛鳥 ASUKA』(全幕)ゲネプロを東京文化会館で観賞した。初日である9月3日と同じ配役で行われた。
本作は長年にわたり日本バレエ界を牽引してこられ2021年10月に世を去った故・牧阿佐美の追悼公演として上演された。牧阿佐美バレエ団・橘バレヱ学校のほか、新国立劇場バレエ団芸術監督、新国立劇場バレエ研修所所長を務めるなど、日本バレエ界の隆盛に多大な功績をしてきた牧阿佐美。昨年、バレエ界から初めて文化勲章を受章した。
「飛鳥」は1957年に牧阿佐美の母であり「日本バレエ界の草分け」といわれる橘秋子が、日本初の全幕バレエを世界へ発信しようと振付・初演した作品を元に、改定・磨きかけられた作品。
2019年にはロシア・ウラジオストクのマリインスキー劇場プリモルスキー・ステージで初の海外公演を行い、3日間にわたる上演は満員の観客で埋め尽くされ、大成功を収めた。
ボリショイ・バレエ団(Bolshoi Ballet)のトップバレリーナの1人だった、スヴェトラーナ・ルンキナは「『飛鳥 ASUKA』は、私が踊る機会に恵まれた最も美しいバレエの一つです。私はすがる乙女役で初めて舞台に立った時、身震いするほどの感動を覚えました」と同作品に関わった思い出を振り返った。
日本を代表する洋画家、絹谷幸二氏が「飛鳥 ASUKA」のために描いた竜と、絵画作品を映像化した美術演出によって、いにしえの都とファンタジーの世界が繋がる、壮大な舞踏絵巻が構築。
物語は第1幕が人間の住む飛鳥の都、2幕は竜神が君臨する竜の国という設定。プロジェクションマッピングが使われた舞台芸術が華やかに映し出された。映像演出が創り上げた日本の美が白眉。日本美を愛するバレエファンなら一度は見ておくべき作品です。
音楽に雅楽、舞踊に舞楽の優雅さを取り入れ、日本伝統文化の善さをバレエの中で発展させた点が秀逸。
春日野すがる乙女(かすがのすがるおとめ)役の青山季可は、凛とした透明感がある綺麗なバレエで芸に身を捧げる巫女役を快演。
岩足(いわたり)役の清瀧千晴は、すがる乙女に思いを寄せる役柄を好演。音楽に寄り添う演技とテクニックひとつひとつからも春日野すがる乙女にブレずに寄り添うまっすぐな想いが伝わった。
菊地研は、芸の神の象徴である竜神役を立派に務め上げた。カリスマ性溢れた立ち振る舞い、物語の核となる孤高の演技が見事で、同作品を牽引する象徴的な存在だった。
竜剣の舞を踊った阿部裕恵の優雅で雅な踊り、竜神の使い役のラグワスレン・オトゴンニャムの存在感が強い踊りも印象的だった。
第2幕は新たな竜妃を迎える華やかな「竜の世界の祝祭」。古典バレエの様式を踏襲したかのような華やかさ、優雅さ、美しさに加えて、日本の美ならではの雅さ、奥ゆかしさ、潔さといったものが感じされた。
テクニックと表現力を兼ね備えた牧阿佐美バレヱ団ダンサーたちによる群舞もめくるめく時代絵巻を見ているような壮大で幻想的な世界観に華を添えた。
撮影: 鹿摩隆司
■牧阿佐美追悼公演
「飛鳥 ASUKA」(全幕)
日時:2022年
9月3日(土)15:00 開演
会場:東京文化会館 大ホール
指揮:デヴィッド・ガルフォース
演奏:東京オーケストラMIRAI
改訂演出・振付:牧阿佐美(「飛鳥物語」 1957年初演 台本・原振付:橘秋子)
作曲:片岡良和
美術監督:絹谷幸二
映像演出:Zero-Ten
照明プラン:沢田祐二
衣装デザイン:石井みつる(オリジナルデザイン)、牧阿佐美
芸術監督:三谷恭三
CAST:
春日野すがる乙女(かすがのすがるおとめ):青山 季可
岩 足(いわたり):清瀧 千晴
竜 神:菊地 研
黒 竜:佐藤 かんな
竜神の使い:ラグワスレン・ オトゴンニャム
竜剣の舞:阿部 裕恵
指揮 デヴィッド・ガルフォース
演奏 東京オーケストラMIRAI
▽牧阿佐美バレヱ団 2022年9月公演「飛鳥 -ASUKA-」公演前日リハーサル映像
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