【公演レポ】東京二期会 創立70周年記念公演 リヒャルト・ワーグナー歌劇『パルジファル』

東京二期会がフランス国立ラン歌劇場と共同制作したリヒャルト・ワーグナーの最後のオペラ・舞台神聖祝典劇『パルジファル』(Bühnenweihfestspiel “Parsifal” )初日公演を7月13日東京文化会館で観た。

『パルジファル』は、ワーグナーがバイロイト祝祭劇場での上演を前提にして作曲された唯一の作品。ワーグナーの死後30年の1913年まで、バイロイト祝祭劇場のみ独占上演されたが、その後は世界の劇場で上演された。

初演は1882年7月26日、バイロイト祝祭劇場。日本初演は1967年。東京二期会としては、2012年東京二期会創立60周年記念公演以来、10年ぶりのお披露目となった。

アムフォルタス役の黒田博(バリトン)は、奪われた聖槍で指された傷と病に苦しむ王役を優れた演技で好演。王としての風格に溢れた渋味があるバリトンで、贖われることのない罪に対しての精神的な痛みと苦しみを延々と見事に歌いあげていた。

聖杯城の老騎士グルネマンツ役の加藤宏隆(バス・バリトン)は、語り部的な役柄ながら、キレのよい発音とどっしりとした歌唱で舞台の壮麗さを向上させた。

聖なる愚者パルジファル役の福井敬(テノール)は、日本オペラ界のトップテノールにふさわしい歌唱。凛々しい出で立ちと輝きがあるテノールで観客を酔わせていった。

迫真の歌唱のみならず惹き込まれるような気迫・演技力・表現力も素晴らしく、『パルジファル』の名舞台をよりスリリングで意義深いものにしていった。

クンドリ役の田崎尚美(ソプラノ)の日本人離れしたスケールが大きい強靭な歌唱に心奪われた。

田崎の非の打ちどころがない感動的な歌声は、世界のどの歌劇場に出演しても恥ずかしくないと再認識させられた。ワーグナー最後の作品での堂々たる歌唱と活躍が白眉で、日本を代表するワーグナー歌手と言っても差し支えない。

悪魔と契約した魔法使いクリングゾル役の門間信樹(バリトン)は、悪役らしい演技力とキレの良い歌声で観客を魅了。

第一幕の男性的な世界に続き、第二幕は女性的な世界が描かれた。

第二幕 三拍子に乗った、花の乙女の情景での女声合唱は、妖艶な誘惑に溢れた世界観をよく表現していた。

その後の刹那的な救いと愛を求めるクンドリとそれを拒絶するパルジファルのやり取りが面白く、二つの世界の衝突は例えようもない程、エキサイティングだった。

第三幕の男性合唱も素晴らしく、全体として、歌手陣が大健闘。宮本亞門の現在、なぜ生きているのかの意味を問いかけるような演出も素晴らしい。

指揮は、読売日本交響楽団常任指揮者でフランクフルト歌劇場の音楽総監督を務めるドイツの名匠セバスティアン・ヴァイグレ。ヴァイグレは、ドイツの名匠らしいワーグナー・オペラの王道を闊歩するような堂々とした指揮ぶりで、読売日本交響楽団からダイナミックで統制のとれた骨太の美音を引き出していた。

前奏曲のうねりと濃厚さが見事で、読響の緻密なアンサンブル構築能力の高さに息を呑んだ。ヴァイグレ自身がホルン奏者だったということもあり、ワーグナー歌劇で必須とされる金管楽器の鳴らしが卓越。ゲルマン魂を感じさせてくれる見事な指揮により、ワーグナーらしい厚みがある強靭な響きに酔いしれた。ピットがヴァイグレ指揮の読響だったことが殊の外大きな意味を持つオペラ公演だった。

写真提供:公益財団法人東京二期会

■二期会創立70周年記念公演
東京二期会オペラ劇場『パルジファル』(新制作)
フランス国立ラン歌劇場との共同制作公演
オペラ全3幕

台本・作曲:リヒャルト・ワーグナー
会場: 東京文化会館 大ホール
公演日:2022年7月13日(水) 17:00

スタッフ

指揮: セバスティアン・ヴァイグレ
演出: 宮本亞門

装置: ボリス・クドルチカ
衣裳: カスパー・グラーナー
照明: フェリース・ロス
映像: バルテック・マシス

合唱指揮: 三澤洋史
演出助手: 三浦安浩
澤田康子

舞台監督: 幸泉浩司
公演監督: 佐々木典子
公演監督補:大野徹也

キャスト

アムフォルタス:黒田 博
ティトゥレル:大塚博章
グルネマンツ:加藤宏隆
パルジファル;福井 敬
クリングゾル:門間信樹
クンドリ:田崎尚美
第1の聖杯の騎士:西岡慎介
第2の聖杯の騎士:杉浦隆大
4人の小姓:清野友香莉、郷家暁子、櫻井 淳、伊藤 潤
花の乙女たち:清野友香莉、梶田真未、鈴木麻里子、斉藤園子、郷家暁子、増田弥生
天上からの声:増田弥生
合唱:二期会合唱団
管弦楽:読売日本交響楽団

オペラ公演ラインアップ「パルジファル」 - 東京二期会

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