「硬派弦楽アンサンブル」の通り名よろしく、石田以下メンバー(組員)は全員黒一色のスーツで舞台に現れた。それぞれの演奏位置に立って客席と向き合うだけで所謂クラシックコンサートとはまるで異なる雰囲気を放つ。編成は第一および第二ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ各3名にコントラバス1名と弦楽合奏にしては比較的小規模。
前半はエルガーの「弦楽セレナード」で始まる。静謐な立ち上がりに聴衆の意識が一気にステージへと注がれる。13人それぞれの音色に触れられそうなほど、石田のサウンドデザインは緻密で非常に美しい。国民楽派の流れで書かれた弦楽合奏曲は石田組の重要なレパートリーのひとつであるが、今日の公演ではエルガーに始まって、フランク・ブリッジやジョン・ラターによる民謡のトランスクリプションへと続き、英国のメロディを深く求めて行った。
そして、クイーン「輝ける7つの海」。フレディ・マーキュリーによるピアノ、ブライアン・メイによるギター・オーケストレーションなど、アレンジ的に非常に“美味しい”一曲であるが、石田組の編曲を一手に引き受ける松岡あさひはそれらを全て拾い上げていく。オリジナルの後奏は石田がビシっと締める。前半のコンサートマスターとは全く違うヴァイオリン・ヒーローのペルソナが登場したことが分かると、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。
ヴァン・ヘイレン「ジャンプ」を挟み、本編のクライマックスは何とガンズ&ローゼズ。選ばれたのは「ユー・クッド・ビー・マイン」。バンドメンバーの個性の強さゆえに唯一無二のグルーヴが生まれるというロックバンドの典型のようなナンバーであるが、演奏も編曲も原曲のグルーヴ感を俯瞰しつつ、それこそ石田組にしか備わらない高揚感を響かせた。
公演ごとにメンバーは異なるが、石田以外の12人は現在の楽壇を牽引する凄腕が顔を揃える。今日の公演で第一ヴァイオリンのトップを務めた三上亮がMCで明かしたところでは、本番前のゲネプロでは3小節くらいしかリハーサルをしない曲もあったそうだが、クラシックもロックも作品が内包するものを余すところなく聴かせてくれる。チェロの金子鈴太郎はザ・フーのジョン・エントウィッスルというかレッチリのフリーというか、ロックミュージシャンのごとく熱い演奏でアンサンブルを牽引した。また、生野正樹以下ヴィオラが奏でる中音域がふくよかに響いており、所々挟まれる生野のソロも鋭く切り込んできて演奏を盛り立てた。
今日の公演を皮切りに石田組は23公演のツアーに出る。もしまだ体験したことのないクラシックファンがいたら、ぜひ近くの公演を探して足を運んでもらいたい。クラシック音楽の伝統と未来をいっぺんに聴くことができるだろう。
TEXT:小崎 紘一/PHOTO:Hikaru.☆
石田組 2022/2023 ツアースケジュール
4月9日(土)東京:かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール(終了)
4月17日(日)群馬:高崎芸術劇場
5月3日(火祝)大阪:ザ・シンフォニーホール
5月27日(金)28日(土)長野:八ヶ岳高原音楽堂
6月11日(土)東京:サントリーホール・大ホール
7月18日(月・祝)神奈川:厚木市文化会館
7月21日(木)新潟:りゅーとぴあ
7月30日(土)長崎:長崎ブリックホール
8月19日(金)神奈川:ミューザ川崎シンフォニーホール
9月11日(日)山口:防府市地域交流センターアスピラート
9月24日(土)神奈川:杉田劇場
9月25日(日) 石川:北國新聞赤羽ホール
10月9日(日)愛知:愛知県芸術劇場
10月10日(月祝)大阪:東大阪市文化創造館DreamHouse・大ホール
10月15日(土)茨城:つくばノバホール
10月29日(土) 兵庫:兵庫県立芸術文化センター・大ホール
11月23日(水・祝)埼玉:クレアこうのす
11月30日(水) 大分:iichiko音の泉ホール
2023年
1月15日(日)千葉:市川市文化会館・大ホール
1月28日(土)神奈川:横須賀芸術劇場
2月12日(日)東京:中野ZEROホール
2月19日(日)神奈川:相模女子大学グリーンホール
各地のチケット販売情報、メンバー、プログラムは アーティストHP:に順次更新いたします。
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