【インタビュー】関谷健一朗(ジョエル・ロブション)、日本人として初めて『M.O.F.』を受賞!

フレンチレストラン「ガストロノミー “ジョエル・ロブション”」のエグゼクティブシェフ(総料理長) 関谷 健一朗氏が、2022年11月17日(木)、 『M.O.Fフランス国家最優秀職人章  (Meilleur Ouvrier de France)』をフランス・グルノーブルで受章いたしました。


11月17日 グルノーブルにて

料理部門で『M.O.F.』を本受章するのは日本人初となります。また関谷シェフは「第52回ル・テタンジェ国際料理賞コンクール インターナショナル(パリ)」で、日本人として34年ぶりの世界一に輝いた実績を持ちます。


左:エリック・ブシュノワール 氏 右:関谷 健一朗 氏

日本人初となる『M.O.F.』受賞を記念し、関谷 健一朗 氏に受賞記念インタビューを行いました。

――フランス国家最優秀職人章  (Meilleur Ouvrier de France)について教えていただいてもよろしいでしょうか?

フランス文化のもっとも優れた継承者にふさわしい、高度な技術をもつ職人に授与される国家最優秀職人章です。1924年から始まったもので99年の歴史があります。料理部門が有名ですが、伝統工芸やファッションなど約180職種に及びます。M.O.F. (Meilleur Ouvrier de France)のコンクールは、3、4年に一度開催されます。

――M.O.F.を目指された動機としてどのようなものがあったのでしょうか?

2018年にル・テタンジェ国際料理賞コンクール(世界3大フランス料理コンクールの一つ)で優勝し、次なるステップアップのため、M.O.F.に挑むことにしました。

――M.O.F.の一次審査がパリであり、筆記と実技がありましたがいかがでしたでしょうか?

一次審査は日本人ですので少し緊張しました。筆記では外国人であるというハンデがありますし、実技に関してはどのような課題が出るのか不安な気持ちは大きかったです。

――その後、二次審査を同じパリで受けられたんですよね

私の場合、たまたま会場はパリでしたが、フランス全土で審査会場は8、9箇所あり、受験者は住んでいる地域と異なる場所で試験を受けます。

――二次審査で印象が残った出来事は?

前菜4皿、メインディシュ4皿を作るのが課題で想像を絶する仕事量があり、時間内に終わらせることができない方が何人もいました。2次試験では当日はじめて会った学生一人が助手となります。的確な指示を助手に出し、円滑に料理が作れるのかもチェックされます。

――そのほか、二次審査で印象深いエピソードなどは?

前菜の料理を試作時より上手く作ることができました。その出来栄えに、多くの審査員が集まってきたほどです。

――審査員がじっくり見たいということですから素晴らしいですね。

本当に取り囲むように審査員が集まって見ていました。


ガストロノミー “ジョエル・ロブション”で提供されている
サーモンフリヴォリテ 爽やかなワサビのクレームで」

――味もチェックされたのでしょうか?

審査員は細かく分けられており、調理場、試食はそれぞれ別の審査員が審査を行います。そのため、審査員は誰が作ったか分からない状態で試食をします。調理場の審査員と試食の審査員が交じり合うことは一切ありません。

――最終審査はグルノーブルでしたが、何人から何人くらいに絞られたのでしょうか?

160から170名程いたのですが、30名に絞られます。

――最終審査の内容はいかがでしたでしょうか。

2次審査より試験時間も長く、前菜・メインディッシュ・デザートを各8皿ずつ5時間で作り終えなくてはなりませんでした。

――トータル24皿なので大変ですね。

今回は前菜が2皿構成だったので、実際にはトータル32皿になりました。

――助手とは綿密にフランス語で打ち合わせ、過程を説明するといった感じでしょうか?

ファイナルでは助手が2人になります。始める5分くらい前に初めて会うので、何も打ち合わせはないですね。自己紹介くらいでしょうか。

――これ仕上げてといった感じの指示だったのでしょうか?

初めて会った人と仕事をする場合、どのくらいの力量なのかも分からないので、その人に合った技量を見極め、仕事を割り振り、指示を出す必要があるので、助手へ「これやって」と言って通じることはまずないですね。

――ファイナルで印象の残ったことは?

大きなトラブルもなくやり遂げられました。
ファイナルに関しては失敗もしていないし、飛び抜けて上手く出来たという実感もなく、一通りの仕事を時間内に終えることができました。

受験者の話を聞くと時間通りに出来上がらなかったり、食材を盛り付け忘れたとか、一皿の中での沢山の盛り付けの中で1パーツつけるのを忘れたという方もいらっしゃいました。

――最終審査の段階でもそういったトラブルがあるのですね。

決められた食材をお皿に盛り付けるだけですら、間違えてしまうくらい切羽詰まった状況なので、普段ではありえないトラブルが起きます。そのような状況の中でいかに冷静に普段通りの仕事ができるかが、すごく重要でした。

審査員は50人くらいいました。そのうち24人(前菜・メイン・デザート8名ずづ)は試食審査を行い、約半分は厨房にいるわけです。

――徹底的にチェックされてますね。

そういう状況の中でいつも通りの料理を作るのは難しいです。審査員は一挙手一投足すべてをチェックしています。「これどう作るの?」と質問してくる審査員もいましたし、作り終わったものをちょっと味見する方もいらっしゃいました。

審査員は超有名シェフしかいないので、そういう方々に仕事を見てもらえるというのは、人生の中でそうあるものではないので嬉しくもあり、プレッシャーもありました。

――そういった厳しい状況の中で平常心を保てたのはどういったところにあったのでしょうか?

ロブション氏に見られながら仕事をしていたので、慣れていたかもしれません。

――(ロブション氏は)完璧主義者とか言われていました。

ロブション氏に見られて仕事をした方がプレッシャーを感じたので、審査員の方々が優しく思えました。


ガストロノミー “ジョエル・ロブション”で提供されている
「キャビア アンペリアル ロブションスタイル」

――M.O.F.受章が決まって変わったことなどは?

まだ受章メダルもないですし、M.O.F.シェフの象徴であるトリコロールのコックコートも着ていないので正直実感はありません。

――それはそうですよね。

トリコロールの襟を着たシェフたちを憧れの目で見ていたので、自分が袖を通した時、初めて実感が湧いてくるのかもしれません。

――ロブション氏は「(コンクールに出場して)勝てないならやるな」ということを強調されていたと思いますが。

僕はそれを言われてから、出場したコンクールで全て結果を残すことができました。


左:ジョエル・ロブション氏 右:関谷 健一朗 氏

――すごいですね。

テタンジェコンクールへの出場を決めた時にかけられた言葉です。国内大会や国際大会で優勝することができたのも、その言葉に背中を押されました。ロブション氏と最後に交わした言葉なので、「約束を守らなくてはいけない」という思いが強いかもしれません。

――成功への至る過程で、人との出会いは大切な要素だと思います。
ロブション氏は、「ジャン・トゥラヴェイヌとアラン・シャペルこそ私を変えた人です」と述べていますが、関谷シェフとの人との出会いはいかがでしたでしょうか?

2年程しか日本で働かず渡仏したので、私を育ててくれた人たちはみんなフランスにいます。やはり人との出会いは重要だと思います。

――M.O.F.シェフになられて今後挑戦したいことは?

日本人でしか作り得ない一皿を作りたいですね。世界的に有名なシェフの料理のように、料理を見れば作った人がわかる、そういう一皿を作れるようになりたいですね。

――ロブションを愛する方、これからロブションを体験したい方にメッセージをお願いいたします。

若い方にも、ぜひロブションブランドのお店へ来ていただきたいです。

――そういう意味を含めて、ロブションは東京に様々な形態の店舗があるということですよね。

そうですね。恵比寿にあるシャトーレストラン ジョエル・ロブションの他にも、ロングカウンターが特徴のレストラン「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」や日本橋には気軽にお楽しみいただけるカフェもあります。

――ロブション氏の自伝を読ませていただくと、ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブションに対する愛情がある方だと思いましたが、ラトリエに関してはいかがでしょうか?

私も2006年にパリのラトリエからロブションでの勤務が始まりました。料理を作る過程やライブ感を楽しんでいただけるので、TPOに合わせて、レストランを選んでいただくのがベストだと思います。

――日本のラトリエはフランスと同時期にできましたが、国によってはやはり雰囲気はだいぶ違っているのでしょうか?

基本的には同じです。その国ならではの料理や、その国を任されたシェフの料理があったりするので、各国でラトリエを訪れるのも楽しいと思います。東京でも「海外のラトリエに行ってきたよ」と話しかけてくださるお客様がいらっしゃいますし、全世界のロブションを巡っている方もいます。

――すごいですね。

私がこの業界に入ったのが1999年なのですが、それより以前にロブションの料理を食べているお客様が沢山いて、お客様から学ぶことも多いです。

≪関谷 健一朗氏 プロフィール≫

1979年千葉県生まれ。専門学校卒業後、ホテルでの経験を経て、2002年に渡仏。
2006年よりパリにあるラトリエ ドゥ ジョエル・ロブションに勤務。弱冠26歳の若さでロブション氏の推挙によりスーシェフに抜擢される。
2010年、東京・六本木のラトリエ ドゥ ジョエル・ロブションのシェフ着任。
2018年11月 「第52回 <ル・テタンジェ>国際料理賞コンクール インターナショナル(パリ)」にて、日本人シェフ34年ぶりの優勝を果たす。
2021年11月 ガストロノミー“ジョエル・ロブション”のエグゼクティブシェフ(総料理長)に就任。
2022年11月 日本人初 料理部門 M.O.F.(フランス国家最優秀職人章)受章。

関谷 健一朗 Instagram : https://www.instagram.com/chef_ken_ichiro/

≪Meilleur Ouvrier de France」 フランス国家最優秀職人章とは≫  ※略称「M.O.F.」

フランス文化の最も優れた継承者たるにふさわしい高度な技術を持つ職人に与えられるフランス国家の称号で、1924年に開催されて以来つづく歴史あるコンクール。

特に食の世界における『M.O.F.』は、フランス料理界最高峰の栄誉として知られており、料理、製菓、パンなどの職種があります。受章に求められるものは単に優れた技術力だけではなく、伝統への敬意に加えて、技術を習得した上での高い革新性、美意識も考慮され、さらに限られた時間と素材から創作する的確性も判断基準となります。

コンクールに合格し、 『M.O.F.』の称号を得た者だけが、名誉あるトリコロールカラー襟のコックコートを着用することを許されます。料理部門の『M.O.F.』には、ジョエル・ロブション氏など世界的に著名なシェフ達が名を連ねています。

左:エリック・ブシュノワール氏 右:ジョエル・ロブション氏
左:エリック・ブシュノワール氏 右:ジョエル・ロブション氏
*エリック・ブシュノワール氏・・・1985年からロブション氏のチームに加わったM.O.F.シェフ

≪ジョエル・ロブションのレストランとは≫

ジョエル・ロブションの芸術的かつ独創的な料理は世界の美食家から「皿の上の芸術」とも讃えられ、その技法、「料理は愛」という料理哲学は世界中の『ジョエル・ロブション』へ受け継がれている。
日本では、東京・六本木や恵比寿などにレストラン・カフェ・パティスリー・ブランジュリー・バーなど全12店舗を展開。

HP: https://www.robuchon.jp/
Instagram : https://www.instagram.com/robuchon_tokyo

ガストロノミー “ジョエル・ロブション” (恵比寿)
ガストロノミー “ジョエル・ロブション” (恵比寿)

ラ ターブル ドゥ ジョエル・ロブション (恵比寿)
ラ ターブル ドゥ ジョエル・ロブション (恵比寿)

ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション(六本木)
ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション(六本木)

参考:
【実食レポ】ミシュラン三つ星16年連続の栄誉!ガストロノミー “ジョエル・ロブション” デギュスタシオンコース!
https://www.lvtimes.net/gourmet/43847/

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