2月19日(日)日本オペラ協会公演『源氏物語』(2日目公演。ニュープロダクション)を東京渋谷・Bunkamuraオーチャードホールで観賞した。
伝統ある日本オペラ協会が1965年に開始した日本オペラシリーズは今回で84回目。台本はコリングレアム、作曲は三木稔による全三幕の日本語グランドオペラとして『源氏物語』は世界初演を迎えた。
54帖からなる『源氏物語』は作者の紫式部にとって生涯で唯一の物語作品で主人公の光源氏を通して、恋愛、栄光と没落、政治的欲望と権力闘争など、平安時代の貴族社会が描かれている。
『源氏物語』は、平安時代中期に成立した「世界最古の恋愛小説」で、実際の源氏物語では光源氏の12名の恋人たちが登場するが、三木稔作曲オペラ版『源氏物語』では5名の恋人たちが登場する。
開演前に、総監督の郡愛子氏と演出の岩田達宗氏による作品解説があった。
物語の主人公・光源氏(ひかるげんじ)役を担ったのは、村松恒矢(バリトン)。村松は3時間出ずっぱりの難しい舞台をラストまでしっかりと牽引。長丁場を見事な立ち振る舞いと歌唱で務め上げた。歌いっぱなし・演じっぱなしという意味では、歌と演技の両方に最高の技量が求められる難役として知られる「椿姫」ヒロインのヴィオレッタ役に勝るとも劣らない役柄だが、最終幕は鬼気迫る演技もあり見応えがあった。
©公益財団法人日本オペラ振興会
教養も知性があり矜持も高く、後に生霊として光源氏を苦しめた六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)役を演じたのは砂川涼子(ソプラノ)。日本を代表するソプラノの張りがある歌唱と迫真の演技が素晴らしい。光源氏への愛情・後悔・狂気・悲しみといった揺れ動く様々な感情を優れた演技と歌で描写していた。
©公益財団法人日本オペラ振興会
皇帝の妻だが光源氏と恋愛関係となってしまう藤壺(ふじつぼ)役の古澤真紀子(メゾ・ソプラノ)は安定感があり、光源氏の4歳年上の最初の正妻である葵上(あおいのうえ)役 髙橋未来子(メゾ・ソプラノ)はメリハリある歌唱を披露。光源氏 明石時代の恋人である明石の姫(あかしのひめ)役 中井奈穂のアリアや歌は心に響くものがあった。同オペラ独自の世界観・歌唱・演出・衣裳・舞台美術は観客の心を大いに楽しませた。
©公益財団法人日本オペラ振興会
若手で注目を浴びたのは、紫の上(むらさきのうえ)役の芝野遥香(ソプラノ)と朱雀帝(すざくてい)役の高橋宏典(バリトン)。
幼いころに光源氏に一目惚れされた紫の上役 芝野遥香の演技と表情が秀逸。幼く可憐な役どころと透明感がある美声に惹きこまれた。朱雀帝役の高橋宏典は若々しく張りがあるバリトンで観客を酔わせていた。
©公益財団法人日本オペラ振興会
歌手陣はいずれも粒ぞろいで非常にハイレベル。日本オペラ協会合唱団の合唱は、『源氏物語』ならではの和の世界観を伝えてくれる技量が神がかっていた。ある場面では別を指揮者を見ながら歌唱する離れ業とも言える妙技も披露。同オペラの奥深さと雅さを感じさせ、日本語歌劇の主役と言ってもよい輝きを放っていた。
©公益財団法人日本オペラ振興会
田中祐子指揮 東京フィルハーモニー交響楽団は、歌い手に寄り添ったバランス感覚に優れたアンサンブルを聴かせてくれた。和楽器奏者と非常に難しい響きをきっちりと纏め上げる技量は見事というより他にないものだった。
©公益財団法人日本オペラ振興会
■日本オペラ協会公演 日本オペラシリーズNo.84「源氏物語」
新制作・日本語上演世界初演
日時:2023年2月19日(日) 14:00
会場:Bunkamuraオーチャードホール
スタッフ
原作:紫式部
台本:コリン・グレアム
日本語台本・作曲:三木稔
指揮:田中祐子
演出:岩田達宗
総監督:郡 愛子
出演
光源氏 :村松 恒矢
六条御息所 :砂川 涼子
藤壺 :古澤真紀子
紫上 :芝野 遥香
明石の姫 :中井 奈穂
葵上 :髙橋未来子
頭中将 :川久保博史
桐壺帝 :下瀬 太郎
明石入道 :豊嶋 祐壹
弘徽殿 :松原 広美
朱雀帝 :高橋 宏典
少納言 :城守 香
惟光 :平尾 啓
合唱:日本オペラ協会合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
主催:公益財団法人日本オペラ振興会/Bunkamura/公益社団法人日本演奏連盟/ 都⺠芸術フェスティバル
コメント