◇あらすじ
御手洗川の流れも清らかな上賀茂社へ、音信の途絶えている夫への恋慕を断ち切りたいと、一人の女が現れます。しかし賀茂の神職が伝える神の託宣はその反対に、夫との再会を祈りなさいというものでした。
時は移り、都人(女の夫)が3年の東国滞在を経て都の私宅へ戻ります。そこで妻が行方知れずとなっていると聞くにおよび、再会を祈ろうと都人は上賀茂社へ急ぎます。頃は初夏、北祭(葵祭)で境内が大勢の人で賑わう中、夫への思いゆえに物狂となった女が現れ、都人の促しに従って神に舞歌を手向けます。
舞歌によせて女が孤独な心の中を吐露するうち、お互いが実は探し求めている男女同士であることに気付きます。しかし二人とも人目をはばかって名乗り出せず、素知らぬ風を装いながら、それぞれ別の道をたどって家へと向かい、再会を果たすのでした。
現行の演出では、物語後半の夫婦再会の場面のみが演じられますが、女に明神の神託が下るという、本来演じられていた前半部分が加わることで、女の恋慕の切なさが強調されます。またその神託が在原業平を祀った岩本社の明神のものであることは、後半、女が神前に舞歌を手向ける場面や〈クセ〉で語られる東下りなどの伏線ともなっていて、作品に一層の奥行きをもたらし、本作の特異な魅力が明らかとなります。
◇二十六世観世宗家 観世清和が語る作品のみどころ
観世流では、「賀茂物狂」は現行曲ではありません。ただ、もともと後半の部分の謡が蘭曲、謡い物として伝わっており、この前後を復活させる事は、能楽師として創造意欲をかき立てられるところです。この度「能を再発見する」タイトルにて、復曲上演をさせて頂きます。お話としては男女が再会する物語ですが、能には珍しく、少しひねられています。再会は致しますが、素知らぬ顔で、別々に同じ家に帰る。クールな、大人の恋の物語を感じさせ、また随所に中世の人々のエネルギーを感じる曲でもあります。
金春禅竹の作といわれますが、このストレートには行かない感じが、禅竹らしいのです。また、全編に在原業平の恋の歌がちりばめられ、歌の心が書き込まれています。作者の教養の高さを示す演目です。
能は舞台上の演出はあくまで抽象美を目指しておりますが、ある程度のリアリティも求められます。リアリティのある上演を目指しつつ、かつ、先代家元がよく申しておりました「品のある」能を舞いたいと思います。(7月特別企画公演ちらしより)
公演日時
令和4年7月28日(木)・30日(金)午後1時開演
おはなし 天野 文雄(京都芸術大学舞台芸術研究センター特別教授)
能 復曲「賀茂物狂」 観世 清和(二十六世観世宗家)
好評発売中!
特別公開講座
7月4日(月)午後2時開演
第一部 基調講演 天野文雄
第二部 仕舞「賀茂物狂」 観世清和
第三部 座談会 観世清和、田中安比呂、天野文雄
司会 横山太郎
好評発売中!
チケットのお求めは
国立劇場チケットセンター 0570-07-9900 03-3230‐3000(一部IP電話等)
[インターネット予約] https://ticket.ntj.jac.go.jp/
◇国立能楽堂について
国立能楽堂は、能楽の保存と普及を図ることを目的として昭和58年9月に開場しました。
初心者でも鑑賞しやすい上演形式と多角的な公演内容により、ひろく一般に能楽を楽しむ機会を提供しています。
所在地:東京都渋谷区千駄ヶ谷4-18-1
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