3月18日、巨匠リッカルド・ムーティ指揮による東京春祭オーケストラ公演を東京文化会館で聴いた。
開演前、舞台に登場したムーティは英語で挨拶した。ムーティは、ジュゼッペ・ヴェルディの歌劇「シモン・ボッカネグラ」(Simon Boccanegra)の音楽を引き合いに出し、平和と愛の大切さを説いた。
そして、「『私は叫びたい、平和を!』と『私は叫びたい、愛を!』と必死に求め、平和と愛を手に入れるために泣いているのです。この精神と共に、私たちは皆様のために演奏します。若いオーケストラ、若い音楽家の存在は、より良い未来への希望です。ありがとうございました。」と挨拶した。
東京春祭オーケストラは、若手で固めてられたオーケストラで、コンサートマスターは読売日本交響楽団コンサートマスターの長原幸太が務めた。
プログラムの前半は、モーツァルト交響曲 第39番。 モーツァルトの三大交響曲へ入り口として知られる交響曲39番。根底に歌が流れているような巨匠リッカルド・ムーティの名タクトにより、春のうららかな上野の桜を連想させるような優美な第一ヴァイオリンのメロディが際立った演奏が披露された。巨匠の卓越したリードにより、弱音とロマンティムズを大切にした優雅なモーツアルトの音楽空間が構築された。
後半のシューベルト交響曲《未完成》の衝撃的なロ短調の世界観には驚かされた。クラシック音楽史上最大のミステリーと言われる同曲の第1楽章展開部のティンパニは、嵐のような激烈さがあり、古典派最後の巨匠シューベルトの短い生を象徴しているかのようだった。
マエストロの音楽に対する妥協のない厳しい姿勢と解釈の深みにより、この曲《未完成》にみられる諦念や深い優しさが大胆な転調と共に表現された。巨匠の音楽づくりに機敏に反応した東京春祭オーケストラの演奏は秀逸した出来ばえで、美しい旋律のメロディメーカーたるシューベルトの魅力を余すことなく伝えてくれた。
最後のシューベルト「イタリア風序曲」の後は、会場全員がスタンディング・オベーションで巨匠リッカルド・ムーティをソロ・カーテンコールで迎え、記憶に残る一夜となった。
写真提供:東京・春・音楽祭実行委員会/撮影:池上直哉
■リッカルド・ムーティ指揮 東京春祭オーケストラ
日時・会場
2022年3月18日 [金] 19:00開演(18:00開場)
東京文化会館 大ホール
出演
指揮:リッカルド・ムーティ
管弦楽:東京春祭オーケストラ
曲目
モーツァルト:交響曲 第39番 変ホ長調 K.543
シューベルト:
交響曲 第8番 ロ短調 D759《未完成》
イタリア風序曲 ハ長調 D591
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