その生き様を綴ったネットフリックス映画、『チック、チック…ブーン!』のヒットも記憶に新しいブロードウェイの作詞作曲家、ジョナサン・ラーソン(1960~1996)。映画で描かれた焦燥の日々の後、彼が1996年に生み落として熱狂的な支持を受け、以来世界中で繰り返し上演されているミュージカルが『RENT』だ。
20世紀末のニューヨークで、貧困、エイズ、同性愛といった生きづらさを抱えながらも、今この瞬間を懸命に生きようとする若者たちの物語。初演から25周年を記念し、昨年アメリカで立ち上がった「フェアウェルツアー」カンパニーが5月18日、ツアー最終地となる日本に上陸した。
繰り返し上演されている作品において、何よりも物を言うのはキャストの温度だ。物語と音楽の素晴らしさはとっくに立証されている中で、どれだけ「かの有名な作品を紹介します」ではなく、「これが俺たちの作品だ!」という熱量を醸せるか――。
客席がまだ明るい中でカンパニーが静かに登場し、暗くなると同時に一斉に踊り出した瞬間、彼らならば大丈夫だと直感した。長く続いたツアーの最終地であり、またその前の20周年記念ツアーがコロナ禍により道半ばで終わってしまったことも影響しているのだろう、とにかく「この舞台にすべてを懸ける!」という意気込みがすごいのだ。
果たしてその直感は外れることなく、四半世紀も前に生まれたはずの歌が、振付が、言葉が、いちいち今、そこで生まれているかのように届く。結果として浮かび上がるのは、命と愛の尊さという痛切なメッセージと、それをどこまでも血の通った言葉とメロディーで音楽化したラーソンの偉大さだ。例えば《Seasons of Love》は、今や誰もが一度は耳に、あるいは口にもしたことがあるであろうスタンダードナンバー。だがこのカンパニーの衷心からの歌声で聴くと、「1年=525600分を愛で数えよう」というラーソンの発想に改めて驚かされるとともに、その提案に乗りたくなってくる。そうした現象はすべてのナンバーで起こったが、わけてもコリンズとエンジェルの歌う《I’ll Cover You》は胸に迫った。
優れたミュージカルは、そもそも何度観ても心が潤うものだが、キャストやバージョン違いを“味変”感覚で楽しめるのも醍醐味の一つ。今回の来日版と、直近だと2020年に上演された近年の日本語版は同じマイケル・グライフ演出だが、言語も劇場もキャストも異なり、またセットや振付も少しずつ違う。『チック、チック…ブーン!』でラーソンに興味を持ったミュージカル初心者には衝撃的に、そして既に日本語版に親しんでいるファンにも新鮮に映ること間違いなしの『RENT』フェアウェルツアー。カンパニーは5月29日の“大千秋楽”まで、東急シアターオーブにて渾身のパフォーマンスを繰り広げている。
取材・文:町田麻子
撮影:ヒダキトモコ
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