2025年11月16日(日)、ミューザ川崎シンフォニーホールにて《スペシャル・オーケストラ・シリーズ2025》の一環として、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(RCO)が登場した。

©️池上直哉/ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮は次期首席指揮者クラウス・マケラ。マケラは現在オスロ・フィルの首席指揮者としても活躍し、ヨーロッパの音楽界で最も注目される存在の一人。世界が注目する若き巨匠と、オーケストラ界の最高峰が組んだ、待望の来日公演である。
瑞々しい感性が光る《ドン・ファン》

©️池上直哉/ミューザ川崎シンフォニーホール
R.シュトラウスの交響詩《ドン・ファン》(1888)は、若き作曲家が25歳の時に発表した初期の傑作。伝説的な恋多き男の生涯を描いたリヒャルト・ベルンハルトの戯曲をもとに、若者の情熱と挫折、生命の輝きを音で刻んだ作品となっている。
マケラは冒頭から一切の躊躇なく、鋭い腕の振りで音楽を切り拓く。情熱的な主題が一気にホールを満たし、コンセルトヘボウ管のしなやかで芳醇な響きが立ち上がる。木管の色彩感、金管の圧倒的な存在感、そして弦楽の柔らかい厚み——そのすべてをマケラは自在にコントロールし、若き日のシュトラウスが描いた英雄的ロマンを鮮烈に描き出した。

©️池上直哉/ミューザ川崎シンフォニーホール
魂の旅としての《マーラー5番》
後半に演奏されたマーラーの《交響曲第5番》(1901〜02)は、マーラーの創作の転換点を告げる作品。死の影から愛と再生へ──マーラーの人生そのものを象徴するような音楽である。冒頭のトランペット・ソロがホールに響いた瞬間、空気が一変した。
マケラはスコアの全体構造を緻密に把握しながら、感情に流されず音楽の流れを明確に描く。
第1楽章では、リズムの揺れを極限まで抑え、深い重力感を持つ葬送行進曲を提示。第2楽章では弦と金管の激しい衝突を有機的に束ね、混沌の中に秩序を見出す。

©️池上直哉/ミューザ川崎シンフォニーホール
続くスケルツォではウィーンの舞曲の香りが漂い、オーボエのソロが軽やかに浮かぶ。ホルン首席のソロも見事で、柔らかさと力強さが同居する音色で音楽を牽引し、マケラの構築するアーチを内側から支えるように響いた。
そして、アダージェット。マケラは静かに腕を下ろし、オーケストラの呼吸にすべてを委ねる。弦の一音一音が消え入るように響き、聴衆は息を呑む。終楽章ではその静寂から光が差し込み、すべての楽器が生命の歓喜を謳う。テンポの構築、和声の響かせ方、クライマックスのバランス──すべてにマケラの深い知性と情熱が息づいていた。

©️池上直哉/ミューザ川崎シンフォニーホール
コンセルトヘボウ管の芳醇な音色と、ミューザ川崎シンフォニーホール特有の立体的な残響が出会うことで、マーラーの厚い響きが立体的に浮かび上がった。

©️池上直哉/ミューザ川崎シンフォニーホール
新時代の幕開けを告げるマケラとRCO

©️池上直哉/ミューザ川崎シンフォニーホール
クラウス・マケラはまだ30歳ながら、音楽における構築力と詩情の両立を体現する稀有な存在。タクトを振るたびに、作品が新しい呼吸を得る。感情ではなく“音そのもの”で語る音楽作りは、古典と現代を架橋する新しい美体験となった。
■スペシャル・オーケストラ・シリーズ2025
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
日時:2025.11.16(日) 17:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
出演:
指揮:クラウス・マケラ(次期首席指揮者)
曲目:
R.シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」
マーラー:交響曲 第5番



