2026年元日、ウィーン楽友協会大ホールで行われたウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤー・コンサートは、例年以上に時代の空気を映し出す公演となった。来場者向けのボディスキャナーが初めて導入され、厳重な警備体制のもとでの開催。不穏な事件が各地で相次ぐ中、世界最大級の音楽イベントとして「平和」を強く意識した構成が印象的である。
初登場の指揮者が描いた開かれたプログラム

指揮を務めたのは、カナダ出身のヤニック・ネゼ=セガン。ニューイヤー・コンサートへの登場は今回が初めてだが、ウィーン・フィルとは2010年以来たびたび共演しており、2023年サマーナイト・コンサートでの成功も記憶に新しい。
2025年12月29日に行われた記者会見で、ネゼ=セガンは今回のプログラムを「文化が行き交い、互いを映し合う構成」と語った。ウィーンを起点に、遠くの土地へ想いを馳せ、再びウィーンへ戻ってくる——その流れは、伝統的な舞踏音楽に新たな視点を与えている。
音楽で巡る「110分間世界一周」

第1部の冒頭、ヨハン・シュトラウスⅡ世《インディゴと40人の盗賊》序曲が鳴り響くと、会場は一気に異国情緒に包まれた。『千夜一夜物語』を下敷きにしたこの作品は、旅の始まりにふさわしい選曲である。
ツィーラー《ドナウの伝説》では、ウィーンにとどまらないドナウ流域の広がりが描かれ、シュトラウスⅠ世《パリの謝肉祭》で舞台はパリへ。続く《外交官のポルカ》は、音楽が国や文化を結びつけてきた歴史を象徴するように響いた。
第2部では、ロンビ《コペンハーゲン蒸気機関車ギャロップ》、シュトラウスⅡ世《南国のばら》《エジプト行進曲》などが続き、その展開はまるで「110分間の世界一周」。ウィーン風ダンス音楽が本来持っていた国際性が、自然な流れで浮かび上がってくる。
初登場作品がもたらした新鮮さ

今回のプログラムでは、全体の約3分の1がニューイヤー・コンサート初出の作品で占められた。特に注目されたのが、フローレンス・プライスの《レインボー・ワルツ》と、ヨゼフィーネ・ヴァインリッヒの《セイレーンの歌》である。
プライスの作品は、アメリカ音楽ならではの色彩感を保ちつつも、ウィーン・フィルの柔らかな響きによって、この舞踏会の文脈に自然に溶け込んだ。一方、ヴァインリッヒの《セイレーンの歌》は、軽やかなポルカ・マズルカとして、19世紀ウィーンの活気を今に伝える。これらの選曲は、伝統を尊重しながらも、レパートリーの幅を広げようとする姿勢を明確に示していた。
演奏と演出が生んだ一体感

演出面でも、随所に遊び心が光った。《コペンハーゲン蒸気機関車ギャロップ》では、鐘や笛の効果に加え、指揮者自身が動きを交えて機関車の情景を描写。徐々に加速する音楽と視覚的な演出が相まって、会場は大きな一体感に包まれた。
アンコールでは、ファールバッハⅡ世《サーカス》、ヨハン・シュトラウスⅡ世《美しく青きドナウ》、そして《ラデツキー行進曲》という定番が並んだ。その前にネゼ=セガンが語った、新年に寄せる平和への願いは、過剰な演出に頼らず、音楽そのものに委ねられていた。
そして迎えた《ラデツキー行進曲》では、なんとネゼ=セガンが指揮台を離れ、客席を周回。聴衆の手拍子を間近で受け止めながら音楽を導く姿は、祝祭の一体感をいっそう強めた。遊び心に満ちた演出は、ニューイヤー・コンサートでは初めて目にする指揮ぶりであり、伝統の枠内に新鮮な驚きをもたらしていた。

伝統の更新としてのニューイヤー・コンサート

安心感と祝祭性を大切にしてきたウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートは、2026年、新たな段階に足を踏み入れたと言えるだろう。音楽を通じて世界を見渡し、異なる文化を自然に結びつける——その姿勢は、ウィーンという都市が長年育んできた音楽文化とも深く重なっている。
次回2027年は、ロシア・ボリショイで音楽監督を務めていたトゥガン・ソヒエフが指揮を務める予定となっている。変化と継承のバランスをどう描くのか、早くも次なる新年への期待が高まっている

Photo:©Dieter Nagl für die Wiener Philharmoniker
■ウィーン・フィル ニューイヤー・コンサート2026
日時:2026年1月1日
会場:ウィーン楽友協会(Wiener Musikverein)
ウィーン、オーストリア
指揮:ヤニック・ネゼ=セガン
管弦楽:ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
曲目:
第1部:
ヨハン・シュトラウスⅡ世:オペレッタ「インディゴと40人の盗賊」序曲
ツィーラー:ワルツ「ドナウの伝説」
ランナー:マラプー・ギャロップ
エドゥアルト・シュトラウス:ポルカ・シュネル「暴れる小悪魔」
ヨハン・シュトラウスⅡ世:こうもりカドリーユ
ヨハン・シュトラウスⅠ世(父):ギャロップ「パリの謝肉祭」
第2部:
スッペ:オペレッタ「美しきガラテア」序曲
ヴァインリヒ作曲/デルナー編曲:ポルカ・マズルカ「セイレーンの歌」
ヨーゼフ・シュトラウス:ワルツ「女性の真価」
ヨハン・シュトラウスⅡ世:ポルカ・フランセーズ「外交官のポルカ」作品
プライス作曲/デルナー編曲:レインボー・ワルツ
ロンビ:コペンハーゲン蒸気機関車ギャロップ
ヨハン・シュトラウスⅡ世:ワルツ「南国のばら」
ヨハン・シュトラウスⅡ世:エジプト行進曲
ヨーゼフ・シュトラウス:ワルツ「平和の棕櫚」
アンコール:
フィリップ・ファールバッハⅡ世:ポルカ・シュネル「サーカス」
ヨハン・シュトラウスⅡ世:ワルツ「美しく青きドナウ」
ヨハン・シュトラウスⅠ世(父):ラデツキー行進曲


