クラシック・バレエの金字塔として世界中で愛され続ける『白鳥の湖』。牧阿佐美バレヱ団による本作は、プティパ/イワノフの原典の美学を踏襲しつつ、三谷恭三による改訂振付と、ボブ・リングウッドの華麗な美術・衣裳が融合した格調高い舞台として知られる。

撮影:鹿摩隆司
本公演では、オデット/オディールに秦悠里愛、ジーグフリード王子にサン・カルロ劇場エトワールのアレッサンドロ・スタイアーノを迎え、幕が上がった瞬間から幻想と悲劇が交錯する世界へと観客を引き込んだ。
主役キャストの表現とその魅力:
秦悠里愛(オデット/オディール)

アレッサンドロ・スタイアーノ、秦悠里愛(撮影:鹿摩隆司)
今回が全幕主演として注目を集めた秦悠里愛は、初々しさと透明感を併せ持つ、ひときわ美しいオデット像を舞台上に立ち上げた。第一幕から完成度の高いパフォーマンスを披露し、観る者を自然と物語の世界へと引き込んでいく。繊細かつ滑らかなポール・ド・ブラ(port de bras 腕運び)は、白鳥の儚さや純粋さを際立たせ、“生き物としての白鳥”を感じさせる表現として昇華されていた。
第三幕のオディールにおいては、オデットとのキャラクター差を演じ分けており、対比をより明確に意識することで、ドラマ性はさらに深化させていた。秦悠里愛が演じたオディールは、観る者をハッとさせる表現力が際立っていた。

秦悠里愛、アレッサンドロ・スタイアーノ(撮影:鹿摩隆司)
今後の伸びしろを感じさせながらも、すでに主役として舞台を成立させるだけの資質を備えており、将来が非常に楽しみなダンサーであることを印象づけた。
アレッサンドロ・スタイアーノ(ジーグフリード王子)

塩澤奈々(王妃)、アレッサンドロ・スタイアーノ(撮影:鹿摩隆司)
サン・カルロ劇場のエトワールとして招聘されたアレッサンドロ・スタイアーノは、演技面での確かな実力を印象付けた。第一幕では、表情の使い方が巧みで、王子の孤独や葛藤といった内面が明確に伝わり、物語への没入感を高めていた。単なるテクニックに留まらず、物語を語るダンサーとしての資質を強く印象付け、観客に深い余韻を残した。
作品全体の魅力と舞台の完成度

撮影:鹿摩隆司
本公演は、ピョートル・イリイチ・チャイコフスキーの荘厳な音楽と、牧阿佐美バレヱ団が誇るコール・ド・バレエの緻密な群舞が見事に融合し、「白鳥の湖」の本質である詩的かつ悲劇的な世界観を丁寧に紡ぎ上げていた。
特に第二幕のバレエ・ブランでは、一糸乱れぬ白鳥たちの動きが幻想的な空間を創出し、古典バレエの美の極致を体現。さらに第三幕では各国の民族舞踊が華やかに展開され、物語の緊張感と視覚的な多彩さが共存する構成となっていた。
牧阿佐美バレヱ団版の特徴である“悲劇の結末”もまた、音楽と台本の本質に忠実であり、観る者に深い余韻を残す。単なる名作の再現ではなく、古典の精神を現代に伝える舞台としての完成度の高さが際立っていた。
舞台を通して見えたもの

撮影:鹿摩隆司
秦悠里愛の確かな基礎と将来性、アレッサンドロ・スタイアーノの演技力という両軸が、本公演に強い説得力を与えた。とりわけ主役二人の表現は、今後さらなる深化が期待される段階にあり、次回公演への期待を自然と抱かせた。伝統を継承しながら進化を続ける牧阿佐美バレヱ団の『白鳥の湖』は、高い芸術性と感動をもって観客を魅了し続けている。
次回公演「リーズの結婚」にも期待
本公演に続き、2026年6月には、同バレヱ団による人気作『リーズの結婚』(原題:ラ・フィーユ・マル・ガルデ)が新キャストで上演される予定である。恋人同士のリーズとコーラスの結婚を巡る騒動を、ユーモアと温かさに満ちた筆致で描く本作は、クラシック・バレエの中でも特に親しみやすい作品として知られている。軽快で美しい音楽、愛らしい振付、そして個性豊かな登場人物たちが織りなす物語は、観る者の心を明るく照らすだろう。新たなキャストによってどのような魅力が引き出されるのか、今後の公演にも大きな期待が寄せられる。
■牧阿佐美バレエ団「白鳥の湖」(全幕)
日程:2026年2月14日(土)15:30
会場:文京シビックホール 大ホール
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
原振付:マリウス・プティパ、レフ・イワーノフ
演出・改訂振付:三谷恭三(テリー・ウエストモーランド版に基づく)
美術:ボブ・リングウッド
オデット/オディール:秦 悠里愛
ジーグフリード:アレッサンドロ・スタイアーノ
(ゲスト出演:サン・カルロ劇場 エトワール)
演奏:東京オーケストラMIRAI
指揮:湯川紘惠
芸術監督:三谷恭三
主催 : 一般財団法人牧阿佐美バレヱ団
共催 :文京シビックホール(公益財団法人文京アカデミー)
後援:一般社団法人日本バレエ団連盟


