――イタリアで幕を開け、イタリアで閉じる。大野和士が描く“ひとつの幕”としてのシーズン
新国立劇場の2026/2027シーズン・オペラ ラインナップ説明会が、1月20日、東京・新国立劇場にて開催された。オペラ芸術監督の大野和士はブリュッセルからオンラインで参加し、新シーズンに込めた構想や各演目への思い、主要キャストについて語った。

大野和士オペラ芸術監督
来季のオペラ公演は、新制作3演目を含む全10演目。イタリア・オペラを開幕と千秋楽に配し、シーズン全体を「ひとつの“幕”」として捉える構成が特徴的だった。

ロッシーニ《イタリアのトルコ人》――“劇生”をもたらすロラン・ペリー演出

テアトロ・レアル2023年公演より © Javier del Real | Teatro Real
シーズンの幕開けを飾るのは、ジョアキーノ・ロッシーニのオペラ・ブッファ《イタリアのトルコ人》。新国立劇場では初演となる本作は、ロラン・ペリー演出による新制作で上演される。
大野は、本作をこのタイミングで取り上げた理由について「ロッシーニ作品2作目として、そして劇場初登場作として、ペリー氏の演出が大きな決め手だった」と説明。2023年にマドリードで初演されたこのプロダクションは、イタリア発祥の“フォトノベル”の手法を用い、写真パネルや映像を駆使して物語を展開する。
「二重唱、三重唱、四重唱と形を変えながらエンディングへ向かうユニークな構造を、視覚的にも明快に示している。オペラに非常に強い“劇生”をもたらしている」と、その魅力を語った。
ブリテン《ピーター・グライムズ》――人間性を問い直す現代の古典

《ピーター・グライムズ》ミラノ・スカラ座公演より
Photo: Brescia and Amisano © Teatro alla Scala
3つの新制作のひとつ、ベンジャミン・ブリテン《ピーター・グライムズ》は、ロバート・カーセン演出によるプロダクション。2023年にミラノ・スカラ座で初演され、大きな反響を呼んだ話題作だ。
大野は「現代作曲家の作品上演に力を入れていく中で、ブリテンは極めて重要な存在」と位置づけ、自ら指揮台に立つ。タイトルロールは、スカラ座初演でも同役を歌った世界的テノール、ブランドン・ジョヴァノヴィッチ。
「社会や集団に馴染めず疎外されながらも、海を見つめ、その日その日を懸命に生きようとするひとりの人間の姿を描いた作品。ブリテンの音楽を通して“人間性とは何か”を問い直す機会になれば」と語り、作品への強い思いをにじませた。
ヴェルディ《マクベス》――初期ヴェルディの到達点

マクベス演出家のロレンツォ・マリアーニ
シーズンの掉尾を飾るのは、ジュゼッペ・ヴェルディ《マクベス》。ロレンツォ・マリアーニ演出による新制作で上演される。
「シェイクスピア原作通りの、極めて画期的なドラマ。ヴェルディの比較的初期の作品だが、作曲家としての“咲き方”のスタートを飾った名作」と大野は評価する。
指揮は、新国立劇場で数々のヴェルディ作品を手がけてきたカルロ・リッツィ。タイトルロールにはヴェルディ・スペシャリストのエルネスト・ペッティ、マクベス夫人役には「歌の中に心が深くこもる声」と称されるカレン・ガルデアサバルが起用され、ともに同劇場初登場となる。
充実のレパートリー――日本人キャストの《フィガロ》にも注目

フィガロ演出家のアンドレアス・ホモキ
レパートリー作品も、新国立劇場の人気演目が揃う。特筆すべきは《フィガロの結婚》。指揮の阪哲朗をはじめ、キャストは全員日本人で構成される。「フィガロ役に木村善明さんが入った時点で、自然と全員日本人キャストという流れになりました。適材適所な表現者が揃っている。」と大野は語った。
R・シュトラウスの《サロメ》は、新国立劇場で長く親しまれてきたアウグスト・エファーディングの演出によるもの。《サロメ》は沼尻竜典が指揮し、サロメ役にはヘドヴィク・ハウゲルド、ヘロディアス役にはアレクサンドリーナ・ペンダチャンスカが名を連ねる。
《トスカ》はドナート・レンツェッティ指揮、タイトルロールにはカルメン・ジャンナッタージョが新国立劇場初登場。
さらに、《ばらの騎士》ではオクタヴィアン役に脇園彩、《ファルスタッフ》ではロベルト・フロンターリがタイトルロールを歌う。《エフゲニー・オネーギン》には、タチヤーナ役にクリスティーナ・ムヒタリアン、オネーギン役にアンドレイ・ジリホフスキーが登場する。
大野自身が指揮する《カヴァレリア・ルスティカーナ/道化師》は13年ぶりの再演。サントゥッツァ役にキアラ・モジーニを迎え、実力派歌手陣が顔を揃える。

カヴァレリア・ルスティカーナ/道化師で指揮する大野和士 オペラ芸術監督
チケット料金改定と、忘れられない想い
会見では、オペラおよびバレエ公演、全ジャンルのZ席を含むチケット料金改定についても発表された。2023年秋の改定以降の物価高騰を受け、「芸術的な質を守り、公演を継続するため」の判断だという。
質疑応答では、今シーズンを振り返り、細川俊夫《ナターシャ》世界初演の意義や、《ヴォツェック》タイトルロールを務めたトーマス・ヨハネス・マイヤーの急逝についても言及。大野は言葉を詰まらせながら、「彼が残した声や言葉は、私たちの心の中に永遠に残る」と深い追悼の意を表した。
ロッシーニ、ブリテン、ヴェルディ――時代も様式も異なる作品を“出会い”として配した2026/2027シーズン。大野和士が描く新国立劇場オペラの次なる“幕”は、観客に強烈な問いと体験をもたらすシーズンになりそうだ。
■新国立劇場 2026/2027シーズン
オペララインアップ
2026年10月
《イタリアのトルコ人》[新制作]
ジョアキーノ・ロッシーニ|全2幕(イタリア語上演)
公演期間:10月2日(金)~10月12日(月・祝)
11月~12月
《ピーター・グライムズ》[新制作]
ベンジャミン・ブリテン|全3幕(英語上演)
公演期間:11月23日(月・祝)~12月5日(土)
12月
《フィガロの結婚》
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト|全4幕(イタリア語上演)
公演期間:12月6日(日)~12月12日(土)
2027年1月~2月
《トスカ》
ジャコモ・プッチーニ|全3幕(イタリア語上演)
公演期間:1月28日(木)~2月11日(木・祝)
2月
《サロメ》
リヒャルト・シュトラウス|全1幕(ドイツ語上演)
公演期間:2月6日(土)~2月13日(土)
3月
《カヴァレリア・ルスティカーナ》
ピエトロ・マスカーニ|全1幕(イタリア語上演)
《道化師》
ルッジェーロ・レオンカヴァッロ|全2幕(イタリア語上演)
公演期間:3月6日(土)~3月16日(火)
4月
《ばらの騎士》
リヒャルト・シュトラウス|全3幕(ドイツ語上演)
公演期間:4月2日(金)~4月11日(日)
《ファルスタッフ》
ジュゼッペ・ヴェルディ|全3幕(イタリア語上演)
公演期間:4月21日(水)~4月29日(木・祝)
5月
《エフゲニー・オネーギン》
ピョートル・チャイコフスキー|全3幕(ロシア語上演)
公演期間:5月16日(日)~5月23日(日)
6月~7月
《マクベス》[新制作]
ジュゼッペ・ヴェルディ|全4幕(イタリア語上演)
公演期間:6月30日(水)~7月18日(日)
2026/2027シーズン オペラ ラインアップ一覧
https://www.nntt.jac.go.jp/opera/news/detail/6_030291.html

