ユージン・ツィガーン、パシフィックフィルと描いた一貫した音楽世界

2026年1月31日、東京芸術劇場コンサートホールで開催されたパシフィックフィルハーモニア東京第179回定期演奏会は、指揮者ユージン・ツィガーンの音楽観と統率力を強く印象づける公演となった。

1981年東京生まれ、米国人の父と日本人の母を持つツィガーンは、幼少期を日本で過ごした後に渡米。ジュリアード音楽院で学び、2007年フィテルベルク国際指揮者コンクール優勝、2008年ゲオルグ・ショルティ国際指揮者コンクール第2位を契機に国際的評価を確立した。現在はフィンランドのクオピオ交響楽団首席指揮者を務め、ロマン派作品とオペラ双方に強みを持つ指揮者である。

繊細さと統制が際立った《ペールギュント》

グリーグ《ペールギュント》組曲第1番では、ユージン・ツィガーンの丁寧で的確な統率が印象的だった。冒頭「朝」は、フルートとオーボエの清澄な掛け合いが空気を一変させ、柔らかな抒情性を自然に立ち上げた。

続く楽章では、弦の透明感とリズムの躍動が過不足なく整理され、組曲全体に一貫した流れが保たれた。終曲「山の魔王の宮殿にて」では、控えめな導入から徐々に緊張感を高め、無理のない加速で確かな高揚へと導く。過度な誇張に頼らず、全体の構造を見据えた表現が、作品の魅力を端正に引き出していた。

劇場的感覚を示した《ばらの騎士》組曲

リヒャルト・シュトラウス《ばらの騎士》組曲では、ツィガーンのオペラ的素養が明確に表れた。ホルンが主導する冒頭から、聴き手を一気にシュトラウスの世界へと引き込む巧みさが光る。

弦楽器の厚みある響き、コンサートマスターのソロを中心とした聴かせどころの配置、そして木管セクションの的確な支え。原作オペラを知らずとも、オーケストレーションの妙と劇場的流れを十分に味わわせる構成となっていた。ツィガーンの配慮ある指揮と、楽団員の的確な応答が相まって、組曲としての完成度を高めていた。

《展覧会の絵》における構築力

後半のムソルグスキー(ラヴェル編)《展覧会の絵》では、ツィガーンの構築力と全体統一への意識が最も明確に示された。冒頭のトランペットによるプロムナードから、ホルン、木管、金管、弦へと受け渡される主題は一貫性と安定感を保っていた。

「古城」でのサクソフォンの艶やかな音色、「ビドロ」における堂々たる独奏、「ヒナの踊り」の軽快な木管アンサンブルなど各局面の性格把握も的確である。

終曲「キーウ(キエフ)の大門」では編成上の制約もあり絶対的な迫力では及ばない部分があったものの、堅固で重量感のある響きを築き上げた点は特筆に値する。

アンコール《ウエスト・サイド・ストーリー》で示された素顔

全体として、テンポ設定や表現はやや慎重にまとめられた印象もあったが、その印象を鮮やかに覆したのがアンコールのバーンスタイン《ウエスト・サイド・ストーリー》序曲。

「マンボ!」の掛け声とともに楽団の熱量が一気に解き放たれ、指揮者とオーケストラが音楽を演奏する喜びを共有する瞬間となった。

明快で分かりやすい指揮テクニック、楽員の力を最大限に引き出す柔軟性、そして全体を見渡す冷静な統率力。ユージン・ツィガーンは、どのようなオーケストラにおいても信頼を得る資質を備えた指揮者であることを、今回の定期演奏会で改めて示してみせた。

終演後、すこぶる良いコンサートを聴き終えた余韻の中、ホワイエに掲げられたユージン・ツィガーンのポスターの前では記念撮影をするファンの姿が次々と見られた。その光景は、この日の演奏が聴衆の心を確かに捉えていたことを雄弁に物語っていた。

Photo:©Takashi Fujimoto

■パシフィックフィルハーモニア東京
第179回定期演奏会
The 179th Subscription Concert

日程:

2026年 1月 31日(土)  14:00 開演

会場:

東京芸術劇場 コンサートホール

出演

指揮:ユージン・ツィガーン
Conductor: Eugene Tzigane

曲目

グリーグ/「ペールギュント」組曲 第1番 作品46
R.シュトラウス/「ばらの騎士」組曲 作品59
ムソルグスキー(ラヴェル編)/展覧会の絵

第179回定期演奏会 - パシフィックフィルハーモニア東京 | PACIFIC PHILHARMONIA TOKYO
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