須田景凪、3年ぶりのアルバム全曲披露のホール公演で見せた美学の真髄

須田景凪が9月19日、東京・SGC HALL ARIAKEにて〈須田景凪 HALL LIVE 2026 “LOVE HATE : ERROR”〉を開催した。9月9日にリリースされたニューアルバム『LOVE HATE』を携えた、一夜限りのホール公演だ。

新作アルバムは、愛と憎しみという一見相反するはずの感情が同居すること、その矛盾をテーマにした一枚。その楽曲を全曲披露したこの日のライブから見えたのは、前作『Ghost Pop』から3年をかけて磨き上げてきた彼の美学だった。

開演時間を迎えると、弦楽器が織りなすゲームミュージック風のオープニングSEが流れ、ステージ前面の幕にレーザーの光で描かれた「: ERROR」の文字が浮かび上がる。幕が落ちると、そこには両手を大きく広げた須田の姿が。1曲目はアルバム『LOVE HATE』のオープニングナンバーでもある「BLACK」。レーザーの光が舞う中、求心力のあるメロディを歌う。

「”LOVE HATE : ERROR”へようこそ」と告げた須田は、続けて「ミーム」を披露。四つ打ちのビートにオーディエンスが手拍子で応え、会場の温度を上げていく。ギターを抱えて歌った「ユートピア」から「ポリアンナ」と、序盤はハイテンポな楽曲を畳みかけていく展開だ。持ち味である性急なビートとフックの強いフレーズで一気に客席を一つにする。

ステージセットも印象的だ。アシンメトリーに鉄骨を組み上げたような足場にバンドメンバーの竹内亮太郎(G)、モチヅキヤスノリ(Key)、奥田一馬(B)、箱木駿(Dr)が並び、中央に須田が立つ。その上には宙に浮かび上がった不思議な構造体が広がる。無骨さと非現実感が混ざり合うような光景だ。「マジで楽しみにしていました」と切り出した須田は、「『LOVE HATE』というテーマを体現するために、こういうセットでやっていこうと思っています」と、その意図を明かす。

カラフルな色合いと眩しいきらめきで楽曲の世界観を表現する照明演出にも目を見張るものがあった。「エイプリル」では晴れやかな春のムードが広がり、「リベラ」ではテクニカルかつ獰猛な演奏の勢いを見せる。盟友・アボガド6が手掛けたMVの映像をバックに披露した「WOLF」から「速い曲やります、ついてこれますか!?」と煽った「綺麗事」へと、エネルギッシュな楽曲を次々と披露し、オーディエンスのボルテージを高めていく。

「めちゃくちゃ熱いですね」と息を弾ませた須田は、MCでアルバムの核心に触れていく。

「今回はとても情報量の多いアルバムになったと思っていて。いろんなジャンル、いろんなテーマのものを書いているんですけれど、すべての曲の根っこに矛盾というテーマがある。自分は、愛している対象と憎んでいる対象が同じだったり、寂しいけれど孤独が心地よかったり、矛盾みたいなものをたくさん抱えている人間で。今まではその矛盾みたいなものが、気持ち悪く、不気味な感じがして、嫌だったんです。だけど、このアルバムを作っている中で、そういう矛盾やいびつなものがあるからこそ自分なんだと思った」と語る。

そして、アルバムの制作期間を振り返り「しんどいこともたくさんあったし、自分自身に嫌気がさしてしまうような時間も長くあったんです。でも、そういう時期に作った曲が、今となってみると、自分にとって、ある種の救いになっている」と告げた。

続いては、真髄となるような楽曲を披露したブロックへ。ライブのムードが大きく動いたのは、ここからだった。闇の底へと沈み込むようなダークな音像が広がる「おまじない」から、ピンスポットに照らされた須田が歌い上げた「レム」へ。深く、内的な情感を表現した曲を続け、ピアノが導くバラード「悪夢」では、ドラマティックなメロディを丁寧に歌い上げていく。親密な空気でホールを満たし、ライブの重心を示した。

MCでは、音楽仲間たちと飲みに行き、店が閉まったあと、夜更けの公園で遊んだエピソードを明かし、「無邪気さ、童心みたいなものって、大事にしなきゃなってことを思ったんです」と振り返った須田。「今日くらいは、すべてをさらけ出して自由に楽しもうと思っています」と思いを告げる。

そこからの後半は、一転して開けたムードだ。カラフルな照明の光が降り注ぐ「ラブル」から、ピアノのインタールードを挟み、おおらかな包容力を持つ「ミラージュ」へ。続く「ニーナ」では咲き乱れる花のイメージが映像に広がり、「飛べますか!?」という呼び掛けに応えてオーディエンスが跳ねる。会場に大合唱が響き渡った「メロウ」は、この日のクライマックスのひとつとも言える盛り上がりだ。続く「ユーエンミー」でも、その勢いのまま、シンガロングが広がっていった。〈消えないな 私だけの孤独が〉というフレーズを、大勢の観客が声を合わせて歌う。孤独を歌う言葉が合唱になるというアンビバレントな光景もまた、この日のテーマに重なるものだった。

MCで、須田は「ここにいる誰しもが、なにかしらいびつなものを抱えていると思うんです。でも、そういう部分こそ、その人の美しさなんじゃないか、と考えていて。僕もみなさんも、それぞれエラーみたいなものを抱えている。その全てを抱えたまま、ゆっくりでもいいから、全員で前に進んでいけたらと思っています」と、この日のライブの副題「: ERROR」に込めた意図を語る。

そこから終盤は高揚感に包まれるような展開だ。手拍子とシンガロングが巻き起こった「ダーリン」から「最大級の愛を込めて」と告げて放たれた「ラストルック」。そして「みなさんにもらったものを、また音楽で返していきます」という言葉とともに、温かな幸福感に満ちた「メルシー」で本編は幕を閉じた。

アンコールに応えて再びステージに姿を見せた須田は、「楽しかったですか?」とオーディエンスに投げかける。そして、スポットライトに照らされ、スローな弾き語りで「シャルル」を歌い始めた。会場がひとつになり「本当に幸せです。ありがとうございます」と感無量の表情を見せる。

メンバー紹介に続いて告げられたのは、2027年4月29日(木祝)、パシフィコ横浜 国立大ホールでの公演〈須田景凪 HALL LIVE 2027 “NULL”〉の開催だ。須田は「NULL」を「まだ何も定義されていないという状態」と説明し、「きっと、これからしんどいことも沢山あるじゃないですか。次に会った時、そういうしんどかったものを持ち寄って、それがあったからよかったよねと言える状態でまた会えたらいいなと思ってます」と、次なるライブへの展望を語った。

そして最後に披露されたのは「例え話」。温かなムードのなか、須田は深々と頭を下げ、ステージを降りた。

矛盾を解消するのではなく、それを引き受け、歪さを大切なものとして肯定する。その美学を掲げたステージが、最後には幸福感を分かち合う場所に辿り着いていた。そんな感慨が深く印象に残るライブだった。

Text:柴 那典
Photo:藤井拓