須田景凪、満員の日比谷野音に「今日の景色を絶対忘れません」

須田景凪が4月19日(土)、東京・日比谷公園大音楽堂にてワンマンライブ「須田景凪 LIVE 2025 “花霞”」を開催した。

須田にとって野外での単独公演は初めての試み。桜の季節が終わりを告げ、初夏の気配がほのかに漂う心地よい空気と彼の音楽が溶け合う特別な一夜となった。

開演時間を少し過ぎ、オープニングSEが響くなかバンドメンバーの竹内亮太郎(Gt.)、モチヅキヤスノリ(Key. )、奥田一馬(Ba.)、堀正輝(Dr.)と共に須田がステージに姿を現す。深々と頭を下げ、まずはオープニングナンバー「パメラ」を躍動感あふれる歌声で披露。アップテンポなビートとエモーショナルなメロディで、夕暮れ時の日比谷の空気を一変させる。

「よろしくお願いします」と告げると、続けて初期の名曲「鳥曇り」へ。薄い雲に覆われていたこの日の空模様と楽曲の世界観が調和しているのを感じる。舞台装飾も印象的だ。ステージには樹木が配され、周囲の公園の風景と一体となった自然のムードが広がる。これまでの須田景凪のライブとは一線を画す、開放的な雰囲気だ。

「花霞、楽しみにしてました。最高の日にしましょう」と、「落花流水」では花びらが風に舞うような繊細なメロディで会場を包む。

「野音は、今の自分に大きな影響を与えてくれたアーティストが立っていたステージ。ここに立てることを心から誇りに思います」 と感慨深げに語った須田は、「このステージに恥じないように、悔いが残らないように、あなたの一部になれるように、精一杯やらせてもらいます」と決意を表明する。

「レディーレ」では盟友・アボガド6の制作した幻想的なMVがステージ後方のビジョンに映し出される。他にも数々の楽曲で映像を活かした演出が随所に用いられ、独特の世界観を生み出していた。

「春の曲をやらせてください」と前置きし、「エイプリル」へ。徐々に日が沈み始め、会場がゆっくりと暗さを増していく中、照明が幻想的な空間を作り上げる。続く「雲を恋う」では、歌詞の世界観と実際の空の景色が重なる。

最近バルーン名義で企画アルバム『Fall Apart』をリリースしたばかりの須田だが、今回のライブは新作を引っさげての公演というわけではない。セットリストはここ最近のライブでは披露されていなかった楽曲も含めて、初期の楽曲から最新作までキャリアを総括するような構成だ。

「野音のステージではロックなミュージシャンがいつもと違うアコースティックな演出をやっているイメージがあって。せっかくなので一曲、弾き語りをやっていいですか」と語りかけ、続いてはアコースティックギターを抱えて「はるどなり」を弾き語りで歌う。「転換期になった曲で、思い返すと、あのときしんどかった、苦しかったと、いろんな思いが渦巻いている曲」と紹介されたこの楽曲では、須田の繊細な歌声にオーディエンスは固唾を呑んで聴き入っていた。

さらに「夕暮れからのグラデーションの時にやりたい曲を持ってきました」と「夕染」をアコースティックアレンジで披露。音源とは一味違う温かみのあるジャジーなアンサンブルが、日が落ちていく野音の空間に溶け込んでいく。

「特別な存在をゲストに迎えました、みなさま拍手で迎えてください」という言葉とともに、背後のスクリーンにはアボガド6が描いたv flowerの姿が。「メーベル」と「雨とペトラ」は須田景凪とv flowerが交互に歌いサビで声を重ねるデュエットのスタイルで披露された。初の試みではあるものの、須田景凪の特徴的なヴォーカリゼーションとv flowerの声質が不思議と調和し、心地よい世界を作り上げる。『Fall Apart』にも収録された2曲は、そもそもバルーン名義で発表し、飛躍のきっかけになった時期の楽曲だ。v flowerという“スペシャルゲスト”と共に楽曲の新たな解釈を示した。

「大事な人に向けて書いた曲をやらせてください」と「WOLF」へ。衝動を吐き出すような激しいパフォーマンスを見せる。音源ではヒトリエと共にレコーディングしたこの曲だが、今夜のバンドアレンジでは全く異なる表情で届けられた。MCでは須田景凪名義で自身が歌唱したバージョンのリリースも告知。「この曲はその方が意味があるんじゃないか」という言葉に、深い思いを感じさせた。

「涼しいけど、熱いね」と客席に語りかけると、沢山の歓声が呼びかけに応える。「痛みに慣れてしまうような感覚、儚さみたいなものを書いた曲を」と告げて「ミラージュ」へ。リリースされたばかりの新曲は、ドラマティックな展開とかきむしるようなギターの情熱的なサウンドでオーディエンスを楽曲の世界へと引きずり込んだ。

「メロウ」では観客のハンドクラップと「ラララ」のコーラスが一体となり、会場全体に一体感が満ちあふれる。「皆さんの声を聞かせてください」と客席にマイクを向けるとシンガロングの波が広がり「この光景、二度と忘れません」と須田が感無量の表情を見せる。アニメ『スキップとローファー』のOPテーマとして書き下ろされた爽やかでキラキラとした曲が、まさにこの夜のアンセムとなっていた。続く「veil」ではさらに熱量を上げ、リズミカルなビートと張り詰めるようなメロディで観客を魅了。さらに「ユートピア」「ユーエンミー」とアニメやドラマの主題歌として書き下ろされた人気曲を立て続けに披露し、会場は熱狂の渦に包まれた。

「みなさんのおかげで最高の夜になりました。もともと自分は中学の時にドラムを始めて、高校からバンドを始めて、当時はバンドで生きていこうって本気でやっていたんですけれど、当時は誰かと一緒に音楽をやったり、誰かの前で音楽をやるのが、自分には向いてないと思って。そこから家にこもってインターネット越しに作品を発表していたんです。だけど、気付けば仲間と呼びたい人がどんどん増えていて、憧れのアーティストが立っていた場所で、音楽ができて、本当に幸せなことだと思います」と語る。

「みなさんのおかげで……」と言いかけ「”みなさん”ではなく”あなた”」と言い直し「あなたのおかげで、俺はまだ生きていけると思います」と思いを告げた言葉がとても印象的だった。

ラストナンバー「ダーリン」では、オーディエンスの一人ひとりがシンガロングのパートを歌い上げ、その声が野音の夜空に響き渡った。感動的な光景を生み出し、須田はステージを後にした。

鳴り止まない拍手に応え、再びステージに戻った須田は「今日の景色を絶対忘れません」と感謝の言葉を述べる。そして「ここ数年、流行り廃りがすごいスピードで巡っていて、リスナーとしては嬉しいと同時に、音楽家としてはさみしいと思う部分もあり、そんな思いを音楽にしました」と、新曲「ミーム」を初披露。一度聴いたら耳に染み付くキャッチーなメロディと、短い時間でくるくると表情の変わる曲調に、会場からは大きな手拍子が沸き起こった。

「幸せな時間でした」と語り、ラストは「シャルル」。ギターと歌で一節をしっとりと歌い上げた後、「みなさん、歌えますか」「もっと声を聴かせてください」と呼びかけ、野音に大きなシンガロングの波が広がった。最高潮の盛り上がりを見せ、感動的な余韻と共にライブは幕を閉じた。

ライブで披露された「WOLF」の須田による歌唱音源は明日4月23日に配信リリースされることが決定。またアンコールでは7月に横浜と神戸で公式アプリ「yawn」の会員限定イベント「Corridor」が行われることも発表された。プレミアム会員を対象にしたチケットの抽選予約は4月27日まで受付中となっている。

Text:柴 那典
Photo:藤井拓

– セットリスト –

01.  パメラ
02.  鳥曇り
03.  落花流水
04.  レディーレ
05.  街灯劇
06.  エイプリル
07.  雲を恋う
08.  はるどなり
09.  夕染
10.  メーベル feat. v flower
11.  雨とペトラ feat. v flower
12.  WOLF
13.  ミラージュ
14.  メロウ
15.  veil
16.  ユートピア
17.  ユーエンミー
18.  ダーリン

EN1.  ミーム
EN2.  シャルル