【実食レポ】白金高輪「Sillage(シヤージュ)」発酵・香り・温度で魅せるモダンビストロノミー

白金高輪駅から徒歩わずか1分。都心の落ち着いた街並みにあるモダン・ビストロノミーレストラン「Sillage(シヤージュ)」。

店名の「Sillage」はフランス語で“香りの余韻”や“通り過ぎた後に残る気配”を意味する言葉。料理そのものは食べ終われば姿を消す。しかし、その香りや味わい、そして誰かと過ごした心地よい時間の記憶は、長く心の中に残り続ける——そんな想いが込められている。

フランス料理の確かな技術とビストロの親しみやすさを融合した「ビストロノミー」の精神を受け継ぎながら、日本の旬や発酵文化を取り入れた新しいスタイルを提案する一軒だ。

“気軽さ”と“上質さ”を同じテーブルに

ビストロノミーとは、ガストロノミーレストランの完成度とビストロの気軽さを融合させたフランス発祥の食文化。

Sillageでは、その考え方を現代的に再解釈し、肩肘張らずに楽しめる価格帯や空間設計でありながら、料理には本格フレンチの技術と繊細な表現を惜しみなく注ぎ込む。

目指しているのは「特別な日のレストラン」だけではない。「また行きたい」と自然に思える居心地の良さと、「忘れられない一皿」が共存する、今の時代に求められるレストランのかたち。

南仏で磨いた技術を、日本の感性で再構築するシェフ・宗定和輝氏


宗定和輝氏

料理を手掛けるのは、岡山県出身のシェフ・宗定和輝氏。
調理師学校卒業後、「ウェスティンホテル淡路(現グランドニッコー淡路)」でキャリアをスタートし、「神戸北野ホテル」でフランス料理の世界に深く魅了された。

さらなる高みを目指して渡仏した宗定氏は、南仏ニームのミシュラン一つ星レストラン「Jérôme Nutile」で修業。フランス国家最優秀職人章(M.O.F.)を持つシェフのもとで研鑽を積み、最終的には日本人として初めてスーシェフに抜擢された経歴を持つ。

帰国後は東京の「L’ARGENT」で経験を重ね、料理人としての技術だけでなく、食材や料理に対する真摯な向き合い方を学んだ。

そしてSillageでは、南仏で培った確かな技法と日本人ならではの繊細な感性を融合させ、自身の料理哲学を表現している。

発酵を“第二の調理”として捉える独自のアプローチ

Sillageの料理を特徴づける大きな要素が「発酵」だ。
野菜や果実、穀物が時間をかけて生み出す酸味や旨味、香りを単なる保存技術ではなく、“第二の調理”として捉えている。発酵によって引き出された複雑な風味は、食材本来の個性をより鮮明にし、料理に奥行きを与える。

そのため、一皿ごとに味覚だけでなく香りや温度、時間による変化まで楽しめる構成になっているのが特徴。食べ進めるほどに表情を変える料理は、まるで一つのストーリーを体験しているかのようだ。

生産者とのつながりが生み出す旬の一皿

料理の根幹を支えるのは、生産者との強い信頼関係から届く食材たち。
岡山の契約農家からは無農薬野菜やエディブルフラワー、高知県宿毛からは鮮度抜群の鮮魚が直送される。さらにホロホロ鳥や鴨など、ガストロノミーレストランでも扱われる上質な食材を厳選して使用している。

特に野菜へのこだわりは強く、旬の彩りや香りを活かすため、多くの皿で主役級の存在として登場する。素材の背景や季節性を尊重しながら、その食材が最も輝く瞬間を見極めて料理へと昇華させている。

オープン後 初の夏を彩るシグネチャーコース

2025年10月のオープン以来、初めて迎える夏。
現在はフラッグシップコース「Sillage」と、より気軽に楽しめる「Saison」の2種類を展開している。

店名を冠した「Sillage」コースでは、発酵トマトのジュレとホヤを組み合わせた前菜からスタート。客席で液体窒素を用いた演出を加えることで、香りや温度が劇的に変化する体験を生み出している。

続く鮎の一皿は、Sillageの世界観を象徴する料理のひとつ。香ばしく揚げた鮎に黒文字の茶葉と鮎の骨から抽出したスープを合わせ、乳酸発酵させた胡瓜やじゅんさいを添えることで、日本の夏の情景をフレンチの技法で表現する。

さらに高知県宿毛から届く鮮魚を用いた魚料理や、約1カ月間バター熟成を施した黒毛和牛イチボ、七谷鴨のロティなど、素材ごとの個性を最大限に引き出したメインディッシュが続く。

コース全体を通して、軽やかさと奥行き、そして香りの余韻が巧みに構成されている。

ビジネスから家族利用まで対応する上質な空間


6名まで利用可能な個室

店内には最大6名まで利用可能な個室も完備。
フランス料理を愛する人の食事会はもちろん、ビジネス会食や接待、家族の記念日、友人との集まりなど、さまざまなシーンに対応する。

上質でありながら緊張感を感じさせない空間づくりも、Sillageが目指す“現代のビストロノミー”を体現している。

記憶に残るレストランを目指して

Sillageが追求しているのは、美味しさだけではない。
料理を味わった瞬間の感動、その場で交わした会話、ふとした時によみがえる香りや余韻——そうした記憶そのものをデザインすることだ。

フランス料理の技術、日本の四季、発酵という時間のエッセンス。
それらが重なり合うことで生まれる唯一無二の体験は、白金高輪という街に新たな美食の目的地を誕生させた。

料理が消えた後も心に残り続ける“香りの余韻”。
その名の通り、Sillageは訪れる人の記憶に静かに刻まれていくレストランを目指す。

■Dinner|発酵・香り・温度で魅せる、五感のコース体験
Sillage((シヤージュ)コース実食レビュー:

今回いただいたのは、店名を冠したフラッグシップコース「Sillage(シヤージュ)」。発酵をテーマに、香りや温度の変化まで計算された構成で、一皿ごとに新しい発見が待つコースです。

席に着くとまず目を引くのが、これから使用される食材を紹介するプレゼンテーション。大きなバスケットの中には、岡山の契約農家から届いた色鮮やかな野菜やエディブルフラワー、その日の主役となる肉類が美しく並べられています。

シェフの故郷・岡山産の無農薬野菜をはじめ、約1ヵ月かけてバターで熟成させた黒毛和牛、京都の七谷鴨、沖縄のアグー豚など、厳選された食材を実際に見ながら説明を受けられるのも魅力。コースへの期待感が自然と高まる、心憎い演出です。

メインディッシュは、バター熟成黒毛和牛、七谷鴨、アグー豚の3種類から好みで選択。どれも素材の個性を活かしたシェフ渾身の一皿とのことで、最初から最後まで食材へのこだわりが感じられます。

●アミューズ

コースの幕開けを飾るアミューズは2種類。
まずはチーズのタルト。ひと口サイズの可愛らしい見た目ながら、タルトの中には甘みの強い天使の海老を使用し、その下には焼きナスのピューレが忍ばせてあります。濃厚なチーズのコクに海老の旨み、さらに焼きナスの香ばしさが重なり、わずかひと口でSillageの料理の世界観を感じさせる完成度。フィンガーフード感覚で軽やかに楽しめるのも魅力です。

もう一品は、ハマグリを使ったアミューズ。ふっくらとした身にパセリのパン粉をまとわせて香ばしく焼き上げており、噛んだ瞬間にハマグリの豊かな旨みと磯の香りが口いっぱいに広がります。サクッとした食感のアクセントも心地よく、シンプルながら素材の良さを存分に引き出した一品でした。

小さなアミューズでありながら、香りや食感、温度のコントラストを巧みに取り入れた内容で、この先に続くコースへの期待をさらに膨らませてくれます。

●自家製カンパーニュ

コースの途中で提供される自家製カンパーニュにも、Sillageらしいこだわりが詰まっています。

パンには、北海道産の小麦「キタノカオリ」とライ麦を使用。表面はパリッと香ばしく焼き上げられ、中はしっとりともっちりした食感です。力強い小麦の風味を感じながらも主張しすぎず、料理に寄り添う絶妙なバランスに仕上がっています。

このカンパーニュは、シェフ・宗定氏が信頼するブーランジェと試行錯誤を重ねて完成させたもの。シンプルだからこそ素材の良さや技術が際立ち、ついもう一切れ手を伸ばしたくなる美味しさです。

パンに合わせるのは2種類。まずは、シェフが修業を積んだ南仏・ニームにゆかりのある有機オリーブオイル。フレッシュな香りとまろやかなコクがあり、カンパーニュの香ばしさをより一層引き立てます。

そしてもう一つが、契約農家から届く規格外の人参を発酵させて作った自家製ペースト。発酵によって人参本来の甘みと旨みが凝縮され、どこか奥行きのある味わいに。さらにピンクペッパーの爽やかな刺激がアクセントとなり、単なる“パンのお供”を超えた完成度を感じさせます。

本来であれば廃棄されてしまう規格外野菜を活用したこのペーストには、Sillageが大切にするサステナブルな考え方も込められています。美味しさだけでなく、生産者や食材への敬意、そして循環する食のあり方まで自然に伝わってくるカンパーニュでした。

●前菜1:発酵トマト・ホヤ・アボガド

コースの序章を飾るのは、「Sillage」コース限定で提供されるシグネチャー的な前菜。発酵というテーマを鮮やかに表現した、印象深い一皿です。

主役となるのは、フレンチではあまり見かけることのないホヤ。独特の磯の香りと濃厚な旨みを持つホヤを丁寧にマリネし、その個性的な風味を活かしながら洗練された味わいへと昇華させています。

そこに合わせるのが、深く発酵・熟成させたトマトのジュレ。発酵によって引き出されたクリアな酸味と凝縮した旨みがホヤの力強い個性を優しく包み込み、海のミネラル感と果実のニュアンスが美しく重なり合います。さらにアボカドのまろやかなコクが加わることで、全体に心地よい一体感が生まれていました。

この料理の見どころは味わいだけではありません。サーブの際には、貝出汁とパスティスを合わせたソースを液体窒素で凍らせ、目の前で仕上げる演出が用意されています。

ホヤという個性的な食材を使いながらも決して尖りすぎることなく、発酵による旨みの奥行きや香りの余韻を表現した一品。Sillageが掲げる「発酵・香り・温度」というコンセプトを、最初の一皿から鮮烈に印象付けてくれました。

●前菜2:イサキ・発酵新生姜・ひよこ豆

続いて登場したのは、旬のイサキを主役に据えた一皿。
イサキは皮目を炭火でしっかりと焼き上げており、まず印象的なのがその香ばしさ。パリッと焼かれた皮目からは炭の芳醇な香りが立ち上がり、噛むほどに白身魚ならではの上品な旨みが広がります。

魚の下には、ほっくりとした食感のひよこ豆を忍ばせ、万願寺唐辛子やツルムラサキなど夏らしい野菜を組み合わせています。それぞれが異なる食感と風味を持ちながらも、一皿の中で見事な調和を見せていました。

特に印象に残ったのが、ふんわりと泡状に仕立てられた発酵新生姜。発酵によるまろやかな酸味と新生姜特有の爽やかな香りが広がり、炭火で焼いたイサキの香ばしさを軽やかに引き立てます。発酵食材をソースではなく泡として表現する発想もユニークで、Sillageらしい創造性を感じさせるポイントです。

鮮やかな緑色のネギオイルも美しく、味わいだけでなく視覚的な華やかさも演出。香ばしさ、爽快感、そして発酵のニュアンスが心地よく重なり合う、完成度の高い前菜でした。

●前菜3:鮎・黒文字・赤ナス

「Sillage」コースの中でもひときわ印象的だったのが、鮎を使ったこちらの一皿。フレンチの技法をベースにしながら、日本の夏の情景や四季の感性を美しく表現。

主役となる鮎は香ばしくフリットに仕立てられ、その上から注がれるのが黒文字茶をベースにした特製スープ。和のハーブとして知られる黒文字の茶葉に、鮎の骨から丁寧に抽出した出汁を合わせており、口に含むと清涼感のある香りと鮎ならではの滋味深い旨みが広がります。

フレンチでありながら、どこか和食のような趣も感じさせる構成がよい、黒文字茶をスープに用いる発想にもシェフの独創性が光ります。

器の中には、シェフの故郷・岡山県産の赤ナスをはじめ、じゅんさいや乳酸発酵させた胡瓜を使用。みずみずしい野菜と発酵による穏やかな酸味が加わることで、暑い季節にも心地よく味わえる軽やかな仕立てになっています。

さらにスープにはスパイスのニュアンスも忍ばせてあり、和の印象の中にフレンチらしい奥行きをプラス。飲み進めるたびに異なる表情を見せてくれます。食べ終えた後も黒文字の爽やかな香りが心地よく残り、深い印象を与えてくれました。

●魚:スジアラ・フェンネル・サフラン

メインディッシュへと続く前に供される魚料理は、高知県宿毛港から直送されたスジアラを主役にした一皿。

上質な白身を持つスジアラは、ホタテのムースとともに網脂で丁寧に包み込み、しっとりとローストされています。ナイフを入れるとふっくらとした身が現れ、スジアラならではの繊細な甘みと上品な旨みが広がります。そこにホタテのムースのなめらかな口当たりと凝縮された海の風味が重なり、魚の美味しさをより豊かに引き立てていました。

ソースには、南仏の伝統的な魚介スープ「スープ・ド・ポワソン」をベースにしたものを使用。魚介の旨みが幾重にも重なった濃厚な味わいに、サフランの華やかな香りとほのかな甘みが加わり、一皿全体に奥行きを与えています。。

伝統的なスープ・ド・ポワソンの力強さと、発酵がもたらす繊細なニュアンス。そして宿毛の鮮魚が持つピュアな旨みが美しく調和した一皿。ここまで続いてきたコースの流れをさらに深めながら、いよいよメインディッシュへの期待を高めてくれる魚料理でした。

●メイン:七谷鴨 or アグー豚 or バター熟成黒毛和牛(+¥1980円)


左から:七谷鴨のロティ・バター熟成黒毛和牛

コースのクライマックスを飾るメインディッシュは、肉の個性を最大限に引き出した3種類から選択するスタイル。京都の七谷鴨、沖縄のアグー豚、そしてSillageのスペシャリテでもあるバター熟成黒毛和牛が用意されています。今回は「バター熟成黒毛和牛」と「七谷鴨」をいただきました。

バター熟成黒毛和牛


左から:バター熟成黒毛和牛・黒毛和牛のメンチカツ

まず注目したいのが、Sillageを代表するスペシャリテのバター熟成黒毛和牛。
肉の状態を見極めながら、およそ1ヵ月もの間バターで包み込むように熟成させる独自の手法を採用しています。

宗定シェフによると、「10日ほど寝かせた状態からさらに熟成を進めることで、より凝縮した味わいになり、旨味成分も確実に増していく」とのこと。

実際に口にすると、その違いは明確。肉質は驚くほどしっとりとしており、まるでシルクのようになめらかな舌触り。熟成によって引き出された深い旨みと芳醇な香りが広がり、噛みしめるたびに豊かな余韻が続きます。

合わせるソースには、発酵した実山椒と黒ニンニクを使用。発酵による複雑な旨みと実山椒の爽やかな刺激が、熟成肉の濃厚な味わいを引き締めています。鮮やかな黄色のパプリカを添えることで、味わいにも見た目にも軽やかなアクセントをプラスしていました。ここでしか味わえない唯一無二の熟成肉体験は、多くのゲストが目当てに訪れる理由にも納得の完成度です。

七谷鴨のロティ


左から:七谷鴨のロティ・鴨蕎麦

もう一皿は、京都が誇るブランド鴨「七谷鴨」のロティ。国内でも高い評価を受ける七谷鴨は、肉そのものの旨みが非常に濃く、噛むほどに豊かな風味が広がるのが特徴です。

丁寧にローストされた胸肉は美しいロゼ色に仕上げられ、しっとりとした肉質とジューシーな旨みを存分に堪能できます。特に印象的なのは脂の美味しさ。上質な脂が口の中でゆっくりと溶け出し、鴨ならではの甘みとコクを感じさせてくれます。

ソースは、鴨を焼いた際に出るジュ(肉汁)を丁寧に煮詰めたクラシカルなスタイル。そこへコリアンダーの爽やかな香りを重ねることで、濃厚な旨みの中にも清涼感が生まれています。

鴨の持つ力強さをしっかりと感じさせながらも重たさを感じさせず、最後まで心地よく味わえる一皿でした。

もうひとつの楽しみ、小さな締めの一品

メインディッシュには、思いがけない嬉しいサプライズも。この日は黒毛和牛のメンチカツと鴨蕎麦が提供されました。

ひと口サイズながら肉の旨みがぎゅっと詰まったメンチカツ、そして鴨の出汁の風味を楽しめる鴨蕎麦。フレンチのコースの流れの中に、どこか親しみやすさを感じさせる遊び心ある構成が実に印象的です。こうした肩肘張らない演出にも、Sillageが掲げる“モダン・ビストロノミー”の精神が表れているように感じました。

なお、黒毛和牛以外のメイン料理や前菜は約2ヵ月ごとに内容が変更されるとのこと。6〜7月、8〜9月というように季節ごとにコースが刷新されるため、旬の移ろいとともに異なる表情の料理を楽しめます。季節を変えて再訪したくなる理由が、コースを通してよく理解できました。

●デザート:マンゴー・甘酒・ライム

コースの締めくくりを飾るデセールは、宮崎県産マンゴーを主役に据えた華やかな一皿。

鮮やかなマンゴーの果肉の下には、やさしい甘みを持つ甘酒のパンナコッタが敷かれており、南国フルーツの濃厚な甘さと発酵由来のまろやかな風味が見事に調和しています。

宗定シェフによると、「他では食べられない組み合わせを提案したい」という想いから、マンゴーと甘酒という意外性のあるマリアージュを考案したのだそう。確かにこの組み合わせは珍しく、Sillageらしい発酵へのアプローチがデザートにも自然に落とし込まれています。

さらに、マンゴーシャーベットやマンゴーのピクルスを組み合わせることで、一つの食材から異なる温度や食感、味わいを引き出しているのも印象的。フレッシュな果実の瑞々しさ、シャーベットの冷たさ、ピクルスのほのかな酸味が重なり合い、最後まで飽きることなく楽しめます。

その上には、ライムの泡をたっぷりと添えています。口に含むとライムの爽快な酸味がふわりと広がり、マンゴーの濃厚な甘みを軽やかにリセット。発酵や熟成による奥深い味わいが続いたコースの終盤に、心地よい清涼感をもたらしてくれます。

また、一番上に飾られたココナッツのメレンゲも秀逸。軽やかな食感と優しい甘みがライムの泡と見事に調和し、異なる食感のコントラストを生み出しています。

仕上げには、柑橘を思わせる爽やかな香りを持つティムールペッパーをひと振り。食べ進める場所によって香りや味わいの印象が変化し、一皿の中で何度も新しい発見があります。

マンゴー、甘酒、ライム、ココナッツ、ティムールペッパー。それぞれの個性を巧みに重ねながらも、全体としては驚くほど軽やか。発酵というテーマを最後まで貫きつつ、香りの余韻を心地よく残してコースを締めくくるデザートでした。

●焼きたてのフィナンシェ

コースの余韻を楽しみながらいただく食後のドリンクとともに提供されるのが、Sillageの隠れた名物ともいえる“焼きたてフィナンシェ”。

一般的なフィナンシェとは異なり、こちらは型に入ったままの状態でサーブされます。実はデザートの提供に合わせて焼き上がるよう計算されており、デセールを仕上げる直前にオーブンへ入れて焼き上げるという徹底したこだわりよう。焼成時間はおよそ10分。そのひと手間が、出来立てならではの格別な美味しさを生み出しています。

テーブルに運ばれてきた瞬間、まず心を掴まれるのは芳醇な香り。焦がしバターの豊かな風味とアーモンドプードルの香ばしい香りが立ち上り、思わず笑みがこぼれます。

ひと口頬張ると、表面はほんのり香ばしく、中は驚くほどしっとり。焼きたてならではのふんわりとした食感と、口いっぱいに広がるバターのコクが実に贅沢です。シンプルなお菓子だからこそ、素材の良さや焼き加減の技術が際立ちます。

宗定シェフによると、このフィナンシェは女性を中心に評判が高く、SNSや口コミでもたびたび話題になる人気の一品なのだとか。実際に食べてみると、その理由はすぐに理解できます。

華やかなコース料理の締めくくりでありながら、どこかほっとする温かさがある焼きたてフィナンシェ。食後のコーヒーや紅茶とともに味わえば、心まで満たされるような幸福感に包まれます。

コース全体の完成度はもちろんですが、このフィナンシェを目当てに再訪したくなる人がいるというのも納得。最後の最後まで“香りの余韻”を大切にする締めくくりでした。

※今回はメインディッシュ2品ご紹介しておりますが、通常はメインディッシュは3品から1品をチョイスしていくスタイルです。

■ドリンク・セレクション

料理と同様に、Sillageではドリンクにもこだわりを持っています。
ワインはフランスを中心に、イタリア、日本の銘柄まで幅広くラインナップ。クラシックな銘醸ワインはもちろん、料理に寄り添う自然派ワインも充実しており、その日の気分や料理に合わせて多彩なペアリングを楽しむことができます。

今回いただいたのは自然派の白ワイン。果実味をしっかりと感じながらも重たさはなく、発酵をテーマにしたSillageの料理と見事に調和していました。発酵トマトや発酵新生姜、乳酸発酵させた野菜など、コース全体に散りばめられた発酵のニュアンスを優しく受け止めながら、それぞれの料理の個性を引き立ててくれます。

さらにソフトドリンクのラインナップも充実。アルコールを飲まない方でもコースとのペアリングを楽しめるよう配慮されており、誰もが心地よく食事の時間を過ごせる環境が整っています。

発酵や香り、余韻を大切にするSillageだからこそ、グラスの中にも料理と響き合う物語があります。料理とワインが織りなす一体感も、この店を訪れる楽しみのひとつです。

・カンナ リースリング 2023 (モーリッツ・キッシンガー)

提供された白ワインは、ドイツ・ラインヘッセン地方の自然派ワイン「CANNA リースリング 2023」。造り手は若手醸造家として注目を集めるモーリッツ・キッシンガー氏です。

ブドウ本来のピュアな個性を大切にしながら丁寧に仕立てられた一本で、ナチュラルワインらしい透明感のある味わいが特徴。過度な装飾を排したナチュラルな造りにより、産地やブドウの表情がそのままグラスの中に表れています。

味わいは非常にシャープで、きれいな酸がしっかりと骨格を支えています。そこにミネラル感が重なり、すっと伸びるような余韻を形成。香りには青リンゴやレモンを思わせるフレッシュなニュアンスがあり、ひと口ごとに清涼感が広がります。

発酵や酸味をテーマに構成されたSillageの料理とも相性が良く、特に発酵トマトや乳酸発酵の野菜を使った前菜とは自然に寄り添うバランス。料理の繊細な酸味や香りを邪魔することなく、むしろ輪郭をよりクリアに引き立ててくれる存在でした。

・フィサン 2024(エルヴェ・シャルロパン)

赤ワインは、ブルゴーニュの造り手ドメーヌ・エルヴェ・シャルロパンが手掛ける「フィサン 2024」。ピノ・ノワール100%で仕立てられた一本です。

フィサン村のテロワールを反映した、力強さと繊細さを併せ持つスタイルが特徴。グラスに注いだ瞬間から、プラムやカシス、ブラックチェリーを思わせる濃密な果実の香りが立ち上がり、時間の経過とともにアロマがさらに豊かに広がっていきます。

口に含むと、ジューシーな果実味がしっかりと感じられながらも、芯のあるタンニンが骨格を支えています。しっかりとした渋みを持ちながらも角はなく、フレッシュな酸味が全体を美しくまとめ上げているため、重たさを感じさせないバランスの良さが印象的です。

また、余韻の長さもこのワインの魅力のひとつ。飲み進めるほどに香りが開き、グラスの中で表情が変化していくため、料理とともにゆっくりと時間をかけて楽しみたくなる一本です。

発酵や旨味を重ねたSillageの料理、とりわけバター熟成黒毛和牛や七谷鴨のような力強い肉料理とも相性が良く、ワインの果実味とタンニンが肉の旨味を一層引き立ててくれました

・プレミアムジュース
パトリック・フォン白ブドウ

アルコールを飲まないゲスト向けにも、Sillageでは妥協のないペアリングが用意されています。そのひとつが、フランス発のプレミアムコールドプレスジュースブランド「パトリック・フォン(Patrick Font)」による白ブドウジュースです。

使用されているのは、フランス・ガイヤック産の完熟シャルドネ種などの白ブドウ。果実そのものの魅力を余すことなく引き出すため、コールドプレス製法で丁寧に搾られています。

グラスに注ぐと、まず感じられるのは蜂蜜を思わせるやわらかな甘い香り。その奥に、青リンゴのようなフレッシュな酸味が重なり、濃厚さと爽やかさが共存するバランスの良い味わいが広がります。

ジュースでありながら単なる“甘い飲み物”にとどまらず、果実のテロワールや品種の個性がしっかりと感じられる仕上がり。発酵や酸味をテーマにしたコースの流れの中でも違和感なく寄り添い、料理の繊細なニュアンスを引き立ててくれます。

ノンアルコールでありながらも、ワインと同様にコース全体の体験を豊かにしてくれる一杯でした。

■Sillage シェフ

宗定 和輝 氏/ Kazuki Munesada

岡山で生まれ育ち、地元の調理師学校を卒業後、ウェスティンホテル淡路でキャリアをスタート。神戸北野ホテルでクラシックフレンチを学び、南仏ニームの「Jérôme Nutile」(ミシュラン一つ星)では、MOFシェフから、素材を生かし現代的かつ精緻に仕立てる最先端の技術を習得しました。帰国後は東京「L’ARGENT」(ミシュラン一つ星)でガストロノミーの現場を経験。料理に真摯に向き合い、素材選びから皿の仕上げまで、ひとつひとつに心を込めます。

■ 店舗情報

Sillage(シヤージュ)

〒108-0072
東京都港区白金1丁目27-6 白金高輪ステーションビル1階

アクセス:白金高輪駅 徒歩1分

営業時間:ランチ 11:30〜15:00
ディナー 18:00〜21:30

定休日:水曜全日、日曜夜
TEL:03-5793-5022

公式サイト:https://www.sillage-shirokane.jp/

Instagram:https://www.instagram.com/sillage_shirokane/
TableCheck予約:https://www.tablecheck.com/shops/sillage/reserve