アリ役・池本祥真ら男性ダンサーが躍動!個性とドラマが弾けた東京バレエ団『海賊』

東京バレエ団の人気演目『海賊』が、5年ぶりに上演された。8月26日、新国立劇場オペラパレスで幕を開けたアンナ=マリー・ホームズ版『海賊』。初日は、柄本弾がコンラッド、伝田陽美がメドーラ、池本祥真がアリを演じる配役で鑑賞した。

華やかな女性ダンサーの踊りだけではない。むしろ今回強く印象に残ったのは、海賊たちを演じる男性ダンサーの躍動だ。高度なテクニックはもちろん、それぞれがキャラクターを立ち上げ、舞台をぐいぐい前へ進めていく。東京バレエ団の現在の充実ぶりを実感させる、見応えのある舞台となった。

柄本弾の風格と池本祥真の躍動、鮮やかなコントラスト


コンラッド役の柄本弾  Photo:Shoko Matsuhashi

幕が開くと、まず目を奪われるのが柄本弾のコンラッドだ。身体から醸し出される圧倒的な存在感。気さくさを感じさせる一方で、仲間を率いるリーダーとしての風格も備えている。海賊の首領としての堂々たる佇まいが、舞台上に確かな説得力を与えていた。

柄本の強みは、何よりも舞台上での安心感と安定感。身体を自在に操りながらも動きに無理がなく、どの場面でも揺るぎがない。コンラッドという役を確実に自分のものとし、作品全体の軸として舞台を支えていた。

コンラッドの傍らに控える池本祥真のアリの踊りは実に雄弁。ロシア仕込みの優美なラインに加え、動きの一つひとつに鋭いキレがある。軽やかでありながら芯があり、ステップやジャンプ、素早い方向転換に至るまで、身体の反応の速さが際立つ。アリというキャラクターの忠誠心や若々しいエネルギーを、シャープな踊りで鮮やかに表現した。

コンラッドとアリ。この対照的な二人の存在が、舞台にとても良いコントラストを生み出している。大きな存在感で全体を包み込む柄本と、キレのある踊りでその周囲を駆け抜ける池本。二人が同じ舞台に立つことで、それぞれの個性がより際立って見えた。

伝田陽美のメドーラは、愛らしさだけに寄りかからない、凛とした強さが印象的だった。大きく伸びやかな動きには芯の強さが感じられ、コンラッドへの愛情を見せる場面でも、守られるだけのヒロインではなく、自らの意思を持った女性としての存在感を放っていた。柄本のコンラッド、池本のアリ、そして伝田のメドーラ。この3人が織りなす関係性が、物語にドラマティックな奥行きと人間味をもたらしている。


Photo:Shoko Matsuhashi

樋口祐輝のランケデム、鳥海創のビルバンドも強烈な存在感

樋口祐輝のランケデム(奴隷商人)は、技巧的なヴァリエーションはもちろん、随所に見せるマイムも秀逸だった。舞台を大きく使った躍動感あふれるダンスも印象的で、動きに勢いがあり、登場すると舞台の空気が一気に動き出す。アカデミックで高度なクラシック・テクニックを披露するだけでなく、身体全体から役柄のしたたかさとエネルギーを感じさせる、存在感のあるランケデムだった。

ビルバンド(海賊の副首領)の鳥海創も印象的だった。男臭く、粗野で、卑怯で、そして女好き。海賊らしい荒々しさを存分に備えたビルバンドを演じ切った。

なかでも目を引いたのが、回転技の鮮やかさだ。スピード感のある回転を次々と決めながらも、軸がぶれず、着地までしっかりとコントロールされている。テクニックの強さが、ビルバンドの荒々しいキャラクターと見事に結びついていた。

ビルバンドは、格好悪ければ舞台が盛り上がらず、かといって格好良すぎればコンラッドとの対立が不自然になってしまう難しい役どころ。その絶妙なバランスを保ちながら、鳥海は「海賊らしい男臭さ」を強烈に印象づけた。鳥海の鮮やかな回転技や荒々しい身体性が、単なる悪役ではないビルバンドの存在感を際立たせた。

東京バレエ団、男性ダンサーたちの「黄金期」を実感


アリ役の池本祥真  Photo:Shoko Matsuhashi

アンナ=マリー・ホームズ版『海賊』は、マリウス・プティパとコンスタンチン・セルゲイエフの伝統を基礎に、振付や音楽、舞台構成を整理・再構成した、テンポのよい上演版。この作品を踊る東京バレエ団のダンサーたちは、5年前とはまた違う充実を見せている。特に今回感じたのは、男性ダンサーたちの層の厚さと充実ぶりだ。

コンラッドの柄本弾、アリの池本祥真、ランケデムの樋口祐輝、ビルバンドの鳥海創。それぞれがまったく違う個性を持ちながら、舞台全体を力強く前へ進めていく。安定した存在感で作品の軸を作る柄本、鋭いキレで舞台を駆け抜ける池本、躍動感あふれる踊りで場面を活性化させる樋口、そして鮮やかな回転技で観客を沸かせる鳥海。

同じ「男性ダンサー」という括りでありながら、4人の魅力は多彩だった。その違いが一つの舞台の中で響き合うことで、『海賊』という作品に必要な華やかさ、スピード感、力強さが生まれていた。

そして、今回の初日の主要キャストには入っていなかったものの、アリ役で大きな注目を集めたのが二山治雄。今回、二山が初めて全幕のアリ役に挑戦し大きな喝采を浴びた。池本祥真が鋭いキレとスピード感で魅せるアリなら、二山治雄は長い手脚を生かした伸びやかさと、静かな中にも強い存在感を持つアリ。二人の異なる個性を見比べられることも、今回の『海賊』の大きな楽しみの一つだった。

柄本、池本、樋口、鳥海、そして二山。安定感、キレ、躍動感、回転技、伸びやかさ――それぞれの個性が違うからこそ、東京バレエ団の男性ダンサー陣は面白い。『海賊』は、そんな彼らの魅力を存分に引き出す作品だった。

そして、彼らだけではない。群舞からソリストまで、舞台上の全員が一丸となって作品を作り上げていた。


Photo:Shoko Matsuhashi

男性ダンサーの個性がこれほど鮮やかにぶつかり合い、なおかつ一つの作品としてまとまっている。その充実ぶりを目の当たりにすると、東京バレエ団が「男性ダンサーの黄金期」と呼ぶにふさわしい時期を迎えていることを実感する。

池本、二山という異なる魅力を持つ二人のアリをはじめ、コンラッド、ランケデム、ビルバンドと、男性ダンサーがそれぞれの持ち味を存分に発揮できる『海賊』。今回の公演は、東京バレエ団男性ダンサーたちのさらなる飛躍を予感させる舞台となった。

■東京バレエ団「海賊」
プロローグ付 全3幕

日時:8月26日(水)
会場:新国立劇場オペラパレス

音楽:アドルフ・アダン、チェーザレ・プーニ、レオ・ドリーブ、リッカルド・ドリゴ、ペーター・フォン・オルデンブルク
振付:アンナ=マリー・ホームズ(マリウス・プティパ、コンスタンチン・セルゲイエフに基づく)
台本:ジョージ・ゴードン・バイロンの叙事詩「海賊」(1814)に基づく
編曲:ケヴィン・ガリエ
装置・衣裳:ルイザ・スピナテッリ
装置・衣裳協力:ミラノ・スカラ座

メドーラ:伝田陽美
コンラッド:柄本 弾
アリ:池本祥真
ギュルナーラ:三雲友里加
ランケデム:樋口祐輝
ビルバント:鳥海 創
アメイ(ビルバントの恋人):政本絵美
パシャ:山田眞央
パシャの従者:小泉陽大

第1幕 賑やかな市場
海賊たち:大塚 卓、井福俊太郎、安村圭太、二山治雄、山下湧吾、南江祐生、岡﨑 司、後藤健太朗
海賊の女性たち:足立真里亜、加藤くるみ、中沢恵理子、工 桃子、長谷川琴音、安西くるみ、長岡佑奈、橋谷美香
オダリスク:涌田美紀、平木菜子、中島映理子

第2幕 海賊が潜む洞窟
海賊たち:大塚 卓、南江祐生、岡﨑 司、後藤健太朗
海賊の女性たち:加藤くるみ、中沢恵理子、工 桃子、安西くるみ

第3幕 パシャの宮殿
薔薇:金子仁美、足立真里亜、中沢恵理子、工 桃子、長谷川琴音、安西くるみ
花のソリスト:二瓶加奈子、加藤くるみ、長岡佑奈、橋谷美香、富田紗永、五十嵐玲奈

指揮:ギャヴィン・サザーランド
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
協力:東京バレエ学校

「海賊」プロローグ付 全3幕 | 東京バレエ団
東京バレエ団「「海賊」プロローグ付 全3幕」の詳細ページです。上演日程、会場、出演者、チケット情報などをご案内しています。

【プロモーション映像】東京バレエ団『海賊』