8月3日、「フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2026」の一公演として、NHK交響楽団による「角笛に誘われる夏の宵」がミューザ川崎シンフォニーホールで開催された。
指揮はNHK交響楽団正指揮者・下野竜也、ソリストには世界的ホルン奏者アレッシオ・アレグリーニを迎え、「狩り」と「ホルン」をテーマに据えた夏らしいプログラムが披露された。
ハイドンが仕掛けた「狩り」のユーモア

©池上直哉 提供:ミューザ川崎シンフォニーホール
前半はハイドン《交響曲第73番「狩り」》で開幕。下野は作品の端正な構築性を大切にしながらも、随所に遊び心を散りばめた演奏で会場を引き込んだ。
終楽章では、狩猟を思わせるホルンのファンファーレが力強く響き渡る一方、コーダ直前の劇的な休止では、曲が終わったと思った聴衆から思わず拍手が起こる場面も。ハイドンならではのユーモラスな仕掛けを巧みに生かした演出に、演奏後は下野が客席へ向かって「終わりです」と笑顔を見せ、ホールは温かな笑いと拍手に包まれた。
アレグリーニが魅せた円熟のホルン

©池上直哉 提供:ミューザ川崎シンフォニーホール
リヒャルト・シュトラウス《ホルン協奏曲第2番》では、アレッシオ・アレグリーニが卓越した技巧と深くまろやかな音色で聴衆を魅了した。

©池上直哉 提供:ミューザ川崎シンフォニーホール
柔らかく歌うようなフレージングが印象的だった第1楽章に続き、第2楽章では木管楽器との繊細な対話が美しく響く。終楽章では高度な技巧を軽やかに聴かせ、ホルンという楽器の豊かな表現力を存分に示した。下野とN響も終始きめ細かなサポートを見せ、ソリストとの一体感あふれる演奏を築き上げた。
熱烈な拍手に応えたアンコールでは、アレグリーニがN響ホルン奏者とともにロッシーニ《狩りのファンファーレ》を披露。ホルンだけによる華やかなアンサンブルに客席は大いに沸き、続くカザルス《鳥の歌》では一転して静謐で温かな音楽を届け、感動を呼んだ。

©池上直哉 提供:ミューザ川崎シンフォニーホール
幻想世界を描いた《夏の夜の夢》

©池上直哉 提供:ミューザ川崎シンフォニーホール
後半はメンデルスゾーン《夏の夜の夢》から、「序曲」「スケルツォ」「間奏曲」「夜想曲」「結婚行進曲」を演奏。
透明感あふれる弦楽器が妖精たちの世界を描き出した序曲に始まり、「スケルツォ」では軽快なリズムが躍動。「夜想曲」ではホルンが柔らかく包み込むような音色を響かせ、幻想的な夜の情景を美しく描いた。
クライマックスの「結婚行進曲」では、金管セクションが圧倒的な存在感を発揮した。トランペットの輝かしい響きが祝祭の幕開けを高らかに告げ、ホルン、トロンボーン、テューバが厚みのある和声を支えることで、壮麗なサウンドがホールいっぱいに広がる。華やかさだけを強調するのではなく、弦や木管とのバランスも巧みに保たれており、各声部が明瞭に響き合うことで、立体感のある音楽が築かれていた。
下野竜也はテンポを大きく揺らすことなく堂々と歩みを進め、その確かな推進力が作品の格調高さを際立たせる。祝典音楽としての輝きとオーケストラの重厚な響きが見事に融合し、フィナーレにふさわしい壮麗な演奏となった。

©池上直哉 提供:ミューザ川崎シンフォニーホール
狩りのフィナーレを飾った陽気なポルカ
オーケストラ・アンコールには、ヨハン・シュトラウスⅡ世のポルカ《狩り》を披露。プログラム冒頭のハイドン《狩り》から続いてきた「狩り」というテーマを鮮やかに回収する選曲で、公演全体に統一感をもたらした。
軽快なリズムに乗せて弦楽器が生き生きと駆け巡るなか、木管と金管が狩りの情景を思わせる躍動感あふれるフレーズを次々と繰り出す。とりわけホルンは狩猟の角笛を連想させる伸びやかな響きで存在感を示し、公演の主役ともいえる楽器として最後まで印象を残した。
この作品の大きな聴きどころの一つが、ラチェット(がらがら)や鞭(ウィップ)などの特殊打楽器である。これらの効果音が狩りの喧騒や疾走感を生き生きと描き出し、舞台にユーモラスな彩りを添えた。N響の奏者たちはこうした演出も絶妙な間合いで織り交ぜ、客席からは自然と笑みがこぼれる。下野竜也も作品の遊び心を存分に引き出し、ウィンナ・ポルカらしい軽妙なテンポ感と躍動感で会場を包み込んだ。
華やかな終結では金管が輝かしく響き渡り、ホール全体が祝祭的な雰囲気に包まれる。笑顔を誘う仕掛けとオーケストラの高い演奏技術が一体となり、「狩り」と「ホルン」を軸に構成されたこの日のプログラムを締めくくるにふさわしい、爽快なフィナーレとなった。
高い演奏技術を誇るNHK交響楽団と、世界的名手アレッシオ・アレグリーニ、そして作品の魅力を親しみやすく引き出した下野竜也。音楽の完成度とユーモアが絶妙に融合したコンサートは、フェスタ サマーミューザならではの開放的な雰囲気のなか、「狩り」と「ホルン」という二つのキーワードを軸に、古典派からロマン派、さらにアンコールまで一つの物語として結びつけた今回のプログラム。下野竜也の親しみやすい音楽づくりとN響の高い演奏力が、物語に鮮やかな輪郭を与えていた。

©池上直哉 提供:ミューザ川崎シンフォニーホール
■フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2026
NHK交響楽団
角笛に誘われる夏の宵
日時:2026.8.3(月) 19:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
出演:
指揮:下野竜也(NHK交響楽団 正指揮者)
ホルン:アレッシオ・アレグリーニ
プログラム:
ハイドン:交響曲第73番 ニ長調 Hob. I:73 『狩り』
R. シュトラウス:ホルン協奏曲第2番 変ホ長調
メンデルスゾーン:劇付随音楽『夏の夜の夢』op. 21 & op. 61から
序曲 ― スケルツォ ― 間奏曲 ― 夜想曲 ― 結婚行進曲
[アンコール曲]
<ソリストアンコール>
ロッシーニ:狩りのファンファーレ(N響ホルンセクションと共に)
鳥の歌
<オーケストラアンコール>
ヨハン・シュトラウスⅡ世:ポルカ「狩り」op. 373



