ベルカントの美と英雄譚が響く――アーリドラーテ歌劇団《アッティラ》

アーリドラーテ歌劇団によるヴェルディ《アッティラ》が6月20日、新国立劇場中劇場で上演された。日本では上演機会の少ない初期ヴェルディ作品への挑戦として注目を集めた本公演は、歌手陣の充実した歌唱を軸に、作品の魅力を丁寧に描き出した意欲的な舞台となった。


撮影:長澤直子

開演前には指揮者でありアーリドラーテ歌劇団代表の山島達夫氏によるプレトークが行われた。作品の舞台や登場人物の解説に加え、本作を「まだ神々がいた時代」に位置付け、「野蛮なアッティラ」と「文明としてのローマ」という単純な善悪の対立ではなく、「古い時代」と「新しい時代」の交錯を描く物語として捉える演出意図が紹介された。


撮影:長澤直子

アッティラは古い時代を象徴する存在、ローマの将軍エツィオは新たな時代を担う人物、オダベッラは滅ぼされた民の意思を体現し、フォレストは愛に生きる青年として位置づけられる。そして巨大な帝国を築いた英雄アッティラが、一人の女性オダベッラによって倒されるという構図も、本作品を読み解く重要な視点として提示された。

舞台は終始、力強さと品格を兼ね備えた歌唱が印象的で、ヴェルディ初期作品らしいエネルギーを感じさせながらも、ベルカントの美しさを十分に味わわせる演奏となった。


撮影:長澤直子

タイトルロールの大塚博章は、深みのあるバスを持ちながら、ベルカント的な美しいレガートを聴かせる高貴なアッティラ像を提示。粗暴な英雄ではなく、敵将エツィオを一人の武人として認める気高さを感じさせ、新鮮な人物像を作り上げた。


撮影:長澤直子

エツィオ役の与那城敬は、豊かな声量と格調高いバリトンで舞台を圧倒した。劇場全体を余裕をもって満たす充実した響きは終始揺らぐことがなく、ヴェルディの力強い旋律を堂々と歌い上げる姿には、ローマの将軍としての威厳と風格が自然に備わっていた。華やかな音色の中にも芯の強さがあり、伸びやかに響く歌唱は実に見事である。


撮影:長澤直子

プロローグのアッティラとの二重唱では、大塚博章の重厚なバスに真正面から渡り合い、両者の声が拮抗することで緊張感あふれる名場面を生み出した。声量だけで押し切るのではなく、フレーズごとのニュアンスやレガートも丁寧に歌い込み、政治家としての冷静さと武人としての誇りを巧みに表現。

終幕に向かう場面でも存在感はまったく衰えず、大規模なアンサンブルの中でも埋もれることなく、その豊かな声量と輝かしい音色によって常に舞台の重心を支えていた。作品全体を通じて、エツィオという重要人物に確かな説得力を与える、堂々たる歌唱であった。


撮影:長澤直子

フォレスト役の城宏憲は、まっすぐに伸びる力強いテノールに加え、柔らかく抒情的な表現を織り交ぜ、激情と繊細さを併せ持つ人物像を描いた。

オダベッラ役の佐藤亜希子は、本公演を代表する歌唱を披露した一人だった。プロローグ冒頭の登場場面から、難度の高い跳躍や高音を安定した音程と豊かな響きで歌い切り、勇猛果敢な女戦士としての存在感を鮮やかに印象付ける。輝かしい高音は決して硬質にならず、音色には終始ベルカントならではの滑らかさと気品が保たれていた。


撮影:長澤直子

第1幕のアリアでは一転して抒情性に富んだ歌唱を聴かせ、父を失った悲しみや復讐への決意、そして女性としての繊細な感情を丁寧に描き分ける。卓越したレガートと息の長いフレージングによって旋律は自然に歌い継がれ、技巧の巧みさだけではなく、人物の内面を表現する成熟さも感じさせた。

オダベッラは、ヴェルディ初期のソプラノ役の中でも、ドラマティックな力強さと繊細な歌唱技術の双方を求められる難役である。佐藤はその要求に見事に応え、英雄的な気迫と女性としての繊細さを自然に行き来しながら、復讐者である以前に一人の人間として揺れ動く姿を説得力豊かに描いた。


撮影:長澤直子

ウルディーノ役の高橋拓真は切れ味のある声で存在感を示し、レオーネ役の東原貞彦もベテランらしい安定した歌唱で舞台を引き締めた。

合唱はプロ、セミプロ、アマチュアによる混成編成。女性合唱や混声部分では厚みのある響きを聴かせた。テアトロ・ヴェルディ・トウキョウ・オーケストラは終始安定した演奏を聴かせ、歌手をしっかりと支えた。

山島達夫の指揮は全体を堅実にまとめ上げ、嵐の場面や第2幕のコンチェルタート、終幕の重唱などでは作品の劇的な魅力を十分に引き出していた。


撮影:長澤直子

ヴェルディ初期作品ならではの熱量とベルカントの美しさを兼ね備えた今回の《アッティラ》。予算や人員面での制約は垣間見えたものの、日本では貴重な上演機会となる作品を取り上げ、質の高いキャストを揃えて実現した意義は非常に大きく、観客の胸に迫る貴重な公演となった。


撮影:長澤直子

■アーリドラーテ歌劇団 Vol.12
Teatro Verdi di Tokyo

ジュゼッペ・ヴェルディ
『アッティラ』

日時:新国立劇場 中劇場
会場:2026年6月20日(土)16:00開演

指揮:山島達夫
演出:木澤譲

アッティラ:  大塚博章
エツィオ:   与那城敬
オダベッラ:  佐藤亜希子
フォレスト:  城宏憲
ウルディーノ: 高橋拓真
レオーネ:   東原貞彦

合唱:テアトロ・ヴェルディ・トウキョウ・コーラス
管弦楽:テアトロ・ヴェルディ・トウキョウ・オーケストラ

後援:NPO日本ヴェルディ協会

2026/6/20 6/21 第12回公演《アッティラ》TOP | アーリドラーテ歌劇団 / Teatro Verdi di Tokyo
アーリドラーテ歌劇団 Vol.12Teatro Verdi di Tokyo 作曲:ジュゼッペ・ヴェルディ オ