【公演レポ】結成100周年!スウェーデン放送合唱団 来日公演が開催!

創立100周年を迎えたスウェーデン放送合唱団の待望の来日公演が、6年ぶりに開催。
平日夜にもかかわらず、東京オペラシティの客席には熱心な聴衆が詰めかけた。静寂と集中の中で幕を開けたステージは北欧の清涼な空気をそのまま音にしたような、透明で純度の高い響きを聴かせてくれた。

指揮は、2020年より首席指揮者を務めるラトヴィア出身のカスパルス・プトニンシュ。サブタイトル〈Letters of Love〉が示す通り、愛をめぐる音楽を多面的に描き出したプログラムが披露された。

北欧の祈りと透明な静謐


(C)大窪道治 写真提供:東京オペラシティ文化財団

前半はアルヴォ・ペルトの宗教曲4作で幕を開けた。
〈マニフィカト〉〈ヌンク・ディミティス〉〈石膏の壺を持つ女〉〈鹿の叫び〉――いずれもペルトの“ティンティナブリ様式(Tintinnabuli style)”の典型で、祈りの言葉が光の粒のように空間に散らばっていく。32人の声が完全に溶け合いながら、音の粒立ちはくっきりとしていた。とりわけ女声の高音の清冽さは、北欧の澄んだ湖面を思わせる比類がないものだった。

続くアンデシュ・ヒルボリ《Mouyayoum》では、空気が一変する。言葉を持たない声の粒が、クレッシェンドとディミヌエンドを繰り返しながら有機的に動き、まるで人間の呼吸のような音楽となった。そこにあるのは極限まで精密に制御された〈生の振動〉。息づかいが音楽そのものとして昇華する瞬間を、観客は息を詰めて傾聴した。

後半は、R.シュトラウス《夕べ》で始まった。16声部による密なハーモニーがppからゆっくりと立ち上がり、壮麗な音の建築物を築く。

プトニンシュの指揮は、感情の波ではなく、響きの構造を緻密に積み上げていく。終結部のpppでの消え入りそうな和音は、まさに「静寂こそ安らぎ」という詩句の極致を描写していた。

スヴェン=ダヴィッド・サンドストレム《4つの愛の歌》は、本公演の白眉。聖書「雅歌」に基づくテキストをもとに、不協和と調和の境界を繊細に往復する。声が重なるごとに〈愛〉のかたちが変容していき、最後に生まれるのは包み込むような光の響き。スウェーデン放送合唱団が得意とするレパートリーであり、合唱団の成熟が凝縮された歌唱を堪能した。

最後に歌われたのは、ブリッタ・ビーストレム《グローリア》。現代的な和声を取り入れた輝かしい作品で、100周年を祝うにふさわしい名唱が披露された。

アンコール3曲:開放感に満ちた名合唱


(C)大窪道治 写真提供:東京オペラシティ文化財団

アンコールでは、ヤン・サンドストレム《山風の歌》。男声の一人が太鼓を叩きながらソロを歌い、厳かな儀礼のように始まる。太鼓の旋律に合唱が加わると、北欧の大地を吹き抜ける風の息吹がホールを包んだ。続くステンハンマル《後宮の庭で》は、詩的な哀愁を湛えつつも温かみのある旋律。ラストはアルヴェーン《そして乙女は輪になって踊る》。暗譜で軽やかに歌い上げる姿は、端正な本編から一転して開放感に満ち、合唱団の歓喜とキャラクターが溢れ出た。

100年にわたり、時代やスタイルを超えて“響きそのもの”を探求してきたスウェーデン放送合唱団。終演後、感動的な名合唱に、観客は万雷の拍手と笑顔で応えていた。

■スウェーデン放送合唱団

日時:2025年10月21日(火)19:00
会場:東京オペラシティ コンサートホール

出演

カスパルス・プトニンシュ(指揮)
スウェーデン放送合唱団

曲目

〜レターズ・オブ・ラブ〜
ペルト:マニフィカト、ヌンク・ディミティス、⽯膏の壷を持つ⼥、⿅の叫び
ヒルボリ:Mouyayoum
R. シュトラウス:“2つの歌” op. 34から「⼣べ」
リゲティ:ヘルダーリンによる3つの幻想曲
S=D. サンドストレム:4つの愛の歌
B. ビーストレム:グローリア

アンコール

ヤン・サンドストレム:山風の歌
ステンハンマル:後宮の庭で
アルヴェーン:そして乙女は輪になって踊る

スウェーデン放送合唱団
結成100周年!世界最高峰の技術と表現力による声の万華鏡。