【公演レポ】舞台に咲いた一夜の魔法──新国立劇場バレエ団『シンデレラ』札幌公演!

ロンドン・ロイヤルオペラハウスでの大成功を経て、凱旋公演として位置づけられた本公演。英国バレエ界の巨匠フレデリック・アシュトン振付による『シンデレラ』は、夢と魔法に満ちた時間を札幌の観客に届けました。10月5日(日)の札幌公演2日目最終日、札幌文化芸術劇場 hitaruを埋め尽くした観客が見守る中、新国立劇場バレエ団は、類まれな技術と芸術性の高さを存分に披露しました。

幻想的な第1幕:シンデレラの内面の輝き


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主役・シンデレラを演じた米沢唯は、義理の姉に虐げられる繊細な少女像を的確に表現。粗末な衣装に身を包みながらも、ホウキを相手に舞う場面では、夢に憧れる純粋な心とバレリーナとしての技術が融合した見事な踊りを披露しました。その演技からは、外見の美しさではなく、内面の輝きこそがシンデレラを特別な存在にしているというメッセージが伝わってきました。

魔法と美の世界:仙女と四季の精の競演

仙女役・吉田朱里の登場により、物語に魔法がかけられました。優雅で繊細な踊りは、ファンタジーの世界に観客を一気に誘い込みます。春・夏・秋・冬、それぞれの精を演じたソリストたちも、それぞれの季節の情感を身体で表現し、シンデレラへの贈り物のように舞台を彩りました。

圧巻は、星の精たちによるコール・ド・バレエ。幾何学的に構成されたフォーメーションは、夜空に瞬く星々のように煌めき、群舞の完成度の高さに会場は静かに息を呑みました。かぼちゃが馬車に、ねずみが御者に変わる場面では、舞台美術と演出の工夫が凝らされ、“バレエの魔法”が存分に発露されていました。

ユーモアと躍動感:木下嘉人演じる道化の存在感


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作品の中で、物語に軽妙なリズムとユーモアをもたらしたのが、道化役を演じた木下嘉人の存在です。登場するたびに観客の視線を惹きつける柔軟な身体表現と、絶妙なタイミングのコミカルな演技は、舞台全体に躍動感と温かさを加えました。舞踏会での華やかなシーンでは、シンデレラと王子のロマンティックな空気を壊すことなく、場面を軽やかに彩るバランス感覚が光っていました。アシュトン振付ならではのユーモアの要素を的確に捉えた木下の道化は、作品に深みと人間味を与える重要な存在となっていました。

義理の姉たち:奥村康祐と小野寺雄のコミカルなやりとり

義理の姉たちを演じた奥村康祐と小野寺雄のコミカルなやりとりも、観客の笑いを誘いながら、物語に軽妙なアクセントを加えていました。身振り手振りの誇張された動きやタイミングの絶妙なずれは、アシュトン振付特有のユーモアを的確に表現しており、“意地悪な姉”のみにとどまらない、人間味と愛嬌のあるキャラクター像を巧みに浮かび上がらせていました。

愛の頂点:第2幕の「愛のパ・ド・ドゥ」


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舞踏会のシーンでは、米沢唯と王子役・渡邊峻郁による「愛のパ・ド・ドゥ」が観客の心を掴みました。米沢のしなやかなラインと表現力に、渡邊の力強くも優雅なサポートが加わり、二人の心がひとつになっていく様子が、まるで物語の外まで波及するような感動をもたらしました。

渡邊峻郁が演じた王子は、登場時の一挙手一投足からは、孤独と責務を抱える内面が垣間見え、舞踏会の場面では、その心がシンデレラに出会うことで次第にほどけていく様子が繊細に表現されていました。


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特に目を引いたのは、シンデレラの存在に心を奪われた瞬間の、抑えきれない感情を秘めたまなざし。抒情性と品格を兼ね備えた演技は、アシュトン作品に求められる「優雅さ」と「物語性」を高い次元で体現しており、舞台全体の説得力を大きく高める要となっていました。また、パ・ド・ドゥにおいては、技術的な精度と安定感に加え、米沢唯との緻密な呼吸の合わせが際立ち、二人のダンサーの信頼関係がそのまま物語の愛情に重なる瞬間を構築していました。

祝福と終幕:夢と希望に満ちたラスト

ガラスの靴によって運命が導かれ、再び結ばれたシンデレラと王子。仙女の祝福のもと、幸福に満ちたフィナーレは、「夢が叶う瞬間」の象徴。誰もが知る物語ながら、新国立劇場バレエ団の繊細な演出と丁寧な踊りが、観客一人ひとりにとって唯一無二の体験となったことでしょう。

音楽の力:札幌交響楽団の貢献


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舞台の感動を支えたのは、札幌交響楽団による緻密でドラマティックな演奏です。マルク・ルロワ=カラタユードの指揮のもと、プロコフィエフのスコアは、叙情性と緊張感を巧みに行き来しながら、舞台上の物語を深く支えました。軽やかな精たちの踊り、迫力ある舞踏会の場面、そして感動的な再会の瞬間──そのすべてにおいて、札響の演奏が舞台に命を吹き込み、音楽と踊りの一体感を生み出していました。

世界レベルの完成度と心を動かす表現


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今回の札幌公演は、ロンドン公演の成功を裏付けるような高水準の舞台でした。アシュトン作品の持つ叙情性とユーモアを丁寧に掬い取り、演出・踊り・音楽すべてが調和した傑作舞台。札幌交響楽団によるプロコフィエフのスコアも、物語をより一層引き立てていました。

観る者に夢と希望を与えるファンタジーとして、そしてバレエ芸術の真髄として、本公演は記憶に残るものとなりました。

■プラザフェスティバル2025 
新国立劇場バレエ団「シンデレラ」

日時:2025年10月5日(日)13:15開場/14:00開演
会場:札幌文化芸術劇場 hitaru

シンデレラ 米沢 唯
王子 渡邊峻郁
義理の姉たち 奥村康祐、小野寺 雄
仙女 吉田朱里
春の精 五月女 遥
夏の精 飯野萌子
秋の精 奥田花純
冬の精 根岸祐衣
道化 木下嘉人

振付 フレデリック・アシュトン
指揮 マルク・ルロワ=カラタユード
管弦楽 札幌交響楽団

主催
札幌文化芸術劇場 hitaru(札幌市芸術文化財団)

後援
札幌市、札幌市教育委員会
助成
文化庁文化芸術振興費補助金
劇場・音楽堂等機能強化推進事業(劇場・音楽堂等機能強化総合支援事業)
独立行政法人日本芸術文化振興会

プラザフェスティバル2025 新国立劇場バレエ団「シンデレラ」 | イベント情報 | 札幌市民交流プラザ
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3分でわかる!バレエ「シンデレラ」|新国立劇場バレエ団