【公演レポ】スザンナ・マルッキ、25年ぶりの東響共演!爆発する原始としての《春の祭典》

2025年10月12日、ミューザ川崎シンフォニーホール。指揮台に立ったのは、フィンランド出身の指揮者スザンナ・マルッキ。現代音楽の旗手として知られつつ、フィンランドの名門ヘルシンキ・フィルを率いた手腕、そして国際的キャリアで知られるマルッキが、東京交響楽団との四半世紀ぶりとなる共演を果たした。


©池上直哉 提供:ミューザ川崎シンフォニーホール

プログラムは、ベートーヴェンの《田園》とストラヴィンスキーの《春の祭典》。豊穣な音の風景と、制御された激しさが対照的に並び立った。

音楽だけが静かに立ち上がる──ベートーヴェン《田園》

《田園交響曲》は、奇をてらわず、正攻法な音楽創りが印象的。マルッキは過剰な表現を避け、音楽そのものが語るべき言葉を丁寧に引き出していく。東響の弦楽セクションは柔らかく透明な響きをたたえ、木管の繊細な色彩がその上を漂う。全体を包むのは、まるで清水が自然に湧き出すかのような、穏やかで流麗な音楽の流れだった。

第2楽章〈小川のほとりの情景〉では、夢の中を漂うような静謐な音空間が広がり、第3楽章〈田舎の人々の楽しい集い〉では、ホルンや木管のソロが生き生きと躍動する。突如として空気が一変する第4楽章〈雷雨、嵐〉では、ティンパニが劇的に打ち鳴らされながらも、音楽の均衡は保たれ、音のドラマが自然の摂理として展開されていく。終楽章〈嵐の後の喜びと感謝〉は、静けさと感謝に満ちた音楽で締めくくられた。


©池上直哉 提供:ミューザ川崎シンフォニーホール

緻密かつ大胆──ストラヴィンスキー《春の祭典》


©池上直哉 提供:ミューザ川崎シンフォニーホール

後半は、ストラヴィンスキー《春の祭典》。もともと現代音楽のスペシャリストとして知られるマルッキにとって、この作品はまさに本領発揮の舞台。しかも東響がこの難曲に真っ向から応え、極限の集中力と高いアンサンブル能力で応戦した。

第1部「大地礼賛」では冒頭からじっくりとし、音の密度を際立たせる。金管の咆哮、打楽器の炸裂、すべてが丁寧に積み上げられ、爆発的なクライマックスへと向かっていく。

一転して第2部「いけにえ」では、後半にかけてのテンポが急激に加速。変拍子の嵐の中、マルッキの明晰な指揮がオーケストラを巧みに導く。終曲〈いけにえの踊り〉は、凄まじいスピードと制御された狂気が拮抗し、原始的な力が音楽そのものから噴き出すかのようだった。

ホルン群のベルアップ、2台のティンパニ、低音管楽器群――そのすべてが理性的に構築されながらも、本能的なエネルギーを孕んでいた。マルッキの音楽の奥深くにある情動を浮かび上がらせていた手腕が秀逸。爆発する原始としての《春の祭典》の音楽において「燃焼させる」力と「躍動させる」力を感じさせた。


©池上直哉 提供:ミューザ川崎シンフォニーホール

■東京交響楽団
名曲全集 第211回<後期>

日時:2025年10月12日(日)14:00 開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール

指揮:

スザンナ・マルッキ

曲目:

ベートーヴェン:交響曲 第6番 へ長調 op.68「田園」
ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」

名曲全集 第211回<後期> - 東京交響楽団 TOKYO SYMPHONY ORCHESTRA
ミューザ川崎シンフォニーホール 2025/10/1214:00 指揮:スザンナ・マルッキ ベートーヴェン:交響