【公演レポ】原田慶太楼、自在のタクトが導いた3つ物語—パシフィックフィル定期で描いた鮮烈な音楽

2025年9月27日、東京芸術劇場にて開催されたパシフィックフィルハーモニア東京(PPT)の第176回定期演奏会。原田慶太楼が登場するやいなや、拍手を待たずに振り下ろされた指揮棒とともに、「カルメン」組曲第1番がいきなり始まった。

「カルメン」は、原田にとって思い入れの深いオペラというだけあり、演出にも工夫が光る。終曲「闘牛士」では自然に観客を手拍子に巻き込み、ホールが熱気に包まれる。観客との距離を音楽で一気に縮めた。

「カルメン」組曲第1番中盤では、木管セクションが立奏で演奏する場面も。原田自身が指揮台を降り、終曲「闘牛士(第1幕前奏曲前半)」では観客に手拍子を促すなど、空間ごと巻き込んだ一体感ある演出が秀逸。しかも、奏でる音楽そのものの完成度は非常高くエネルギッシュ。全体を通して細部まで練られていたからこそパシフィックフィル(PPT)の柔軟で色彩豊かな表現力が際立った。

続く2曲目のR.シュトラウス「町人貴族」組曲は、今回のハイライトとも言える選曲。演奏機会が少ないこの作品は、もともとモリエール原作の同名戯曲に基づく音楽劇のために書かれたもので、シュトラウスの中では珍しい“新古典主義的”な趣をもつ作品。オペラ的な語り口と室内楽的アンサンブルが融合し、精緻で洒脱な音楽が展開された。

原田と客演コンサートマスター塩貝みつるによるトークも挟まれ、作品の背景や魅力が観客にも楽しく共有された。

編成はコンパクトだが、要所にソロが多く登場し、パシフィックフィル・メンバーの個々の実力が問われる作品でもある。特に弦楽器群の繊細なアンサンブルは、“語りかけるような”音楽として響いた。

後半は、ベートーヴェンの交響曲第7番。第1楽章冒頭のアップ・ボウによるアタックからすでに、原田の解釈は明快。伝統に敬意を払いながらも、細かなボウイングやフレージングの工夫で、随所に新鮮な息吹が吹き込まれる。第4楽章では、低弦パートが鋭く弓を返しながら疾走感を生み出し、エネルギーの放出が最高潮に達した。

終演後、エスカレーターで下る観客たちの口からは「楽しかった」「気持ちよかった」の声が自然に漏れる。クラシックを骨太に、かつ開かれたものとして届ける原田の姿勢が、多くの人の心に響いた証。コンサートホールは1階席・2階席前方までぎっしり。定期会員を含むリピーターはもちろん、若い層の姿も多く、PPTが築きつつある新たな聴衆の広がりも印象的だった。

オペラ的演出と繊細な室内楽、そしてベートーヴェンの構築美。異なる性格をもつ3作品が、原田慶太楼のタクトによってひとつのストーリーとして編み上げられた午後。「今、聴くべきオーケストラの姿」をまざまざと魅せつけた、鮮烈な定期演奏会だった。

Photo:©Takashi Fujimoto

■パシフィックフィルハーモニア東京
第176回定期演奏会
The 176th Subscription Concert

日時:2025年9月27日(土)14:00開演
会場:東京芸術劇場 コンサートホール

指揮:原田慶太楼
Conductor: Keitaro Harada

Program/プログラム

ビゼー:「カルメン」組曲 第1番
R.シュトラウス:「町人貴族」組曲 作品60
ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調 作品92

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Bizet: Carmen Suite No.1
R.Strauss: Le Bourgeois gentilhomme suite, Op.60
Beethoven: Symphony No.7 in A major, Op.92

第176回定期演奏会 - パシフィックフィルハーモニア東京 | PACIFIC PHILHARMONIA TOKYO
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主催:一般社団法人パシフィックフィルハーモニア東京

【メッセージ】指揮者 原田慶太楼/PPT第176回定期演奏会(2025/9/27)