【ワルシャワ発】
世界最高峰のピアノコンクール「第19回ショパン国際ピアノ・コンクール」(ポーランド・ワルシャワ)で10月12日、2次予選の結果が発表され、牛田智大、桑原志織、進藤実優の3名が3次予選への進出を決めた。中国からの6名に次いで、日本と開催国ポーランドが3名ずつ選出され、国別で2番目に多い人数となった。

2次予選を通過したのは全20名。米国、カナダ、韓国、マレーシア、ジョージアなど、各国から実力派の若手が顔をそろえている。
牛田智大、円熟と繊細さを兼ね備えた演奏

中でも大きな注目を集めているのが、福島県いわき市出身の牛田智大。3歳でピアノを始め、幼少期から国際的なコンクールで優勝を重ね、12歳でクラシック・ピアニストとして日本最年少でCDデビュー。国内外の主要オーケストラとの共演や、リサイタルツアーも重ねてきた、日本を代表する若手ピアニストの一人だ。
2次予選では、ショパンの叙情性を極限まで引き出す繊細なタッチと、作品の構造を明確に描き出す緻密な解釈が光った。とりわけ中音域の響きに対するこだわりと、ペダリングの精妙さは際立っており、音の重なりが織りなす透明なレイヤーが、楽曲全体に詩的な奥行きを与えていた。
牛田の演奏には、一音一音に「語り」がある。単なる技巧の誇示ではなく、作品に込められた感情の機微を汲み取り、それを自身の言葉で丁寧に語り直すような音楽作りが特徴だ。その静謐でありながらも内に情熱を秘めた音楽は、観客だけでなく審査員にも深い印象を残したとみられる。
▼ 牛田智大・2次予選演奏(公式映像)
TOMOHARU USHIDA – second round (19th Chopin Competition, Warsaw)
3次予選、そして本選へ

3次予選は10月14日から16日にかけて実施。本選は18日から20日まで行われ、最終結果は20日深夜(日本時間21日朝)に発表される予定。今回の3次予選は、協奏的作品(ポロネーズ、ソナタ、幻想曲など)を含む構成が中心となり、よりスケールの大きな演奏力、構成力が問われるステージとなる。牛田の音楽的完成度と集中力がさらに試される場面だ。
同コンクールは5年に一度開催される伝統ある大会で、これまでにマルタ・アルゲリッチ、スタニスラフ・ブーニンなど、世界的なピアニストを多数輩出してきた。1970年には内田光子が2位、2021年には反田恭平が同じく2位に入賞し、日本人としての存在感を示してきた。
今大会でも、日本から出場する3名がどこまで勝ち進むかに注目が集まっている。

《3次予選進出の日本人ピアニスト》
牛田智大(25)福島県いわき市出身
桑原志織(30)東京都出身
進藤実優(23)愛知県大府市出身
ライバルとして注目したい奏者
牛田智大と同じ3次予選に進出している20名の中には、すでに一定の国際的実績を備えた若手も含まれている。ここでは特に、牛田にとって手強い競合となりうるピアニストを2名紹介する。
ピオトル・アレクシェヴィッチ(Piotr Alexewicz, ポーランド)
PIOTR ALEXEWICZ – second round (19th Chopin Competition, Warsaw)
アレクシェヴィッチは、若手世代の中でも“ショパンの音楽語法”への親和性が高い解釈力を持つと評価されている。彼の演奏では、ポーランド語風のニュアンスや民族性が感じられる表現が自然に滲み出すとの声もある。
2021年の第18回ショパン国際ピアノコンクールでもセミファイナリストに進出しており、その際、ポーランド代表の最高評価者に贈られるズビグニエフ・ジェヴィエツキ教授賞を受賞しています。「音楽はただの技術ではなく、聴衆との対話」と捉える深い洞察も彼の演奏の魅力です。
エリック・グオ(Eric Guo, カナダ)
ERIC GUO – second round (19th Chopin Competition, Warsaw)
グオは歴史的楽器の解釈にも通じており、ショパン音楽の原音を意識した表現にも秀でている。現代ピアノと異なる響きを生かす技術を身につけており、ショパン特有のタッチ感や音色変化を精妙にコントロールできる点が強みだ。また、マズルカや小品での表情能力が高く、聴衆・審査員を引き込む語り口を備えている。コンクールという場での経験値も高まっており、安定感のある演奏が期待される。
■3次予選進出者20名
Piotr ALEXEWICZ (ポーランド)
Kevin CHEN (カナダ)
Yang (Jack) GAO (中国)
Eric GUO (カナダ)
David KHRIKULI (ジョージア)
Shiori KUWAHARA 桑原志織 (日本)
Hyo LEE (韓国)
Hyuk LEE (韓国)
Tianyou LI (中国)
Xiaoxuan LI (中国)
Eric LU (アメリカ)
Tianyao LYU (中国)
Vincent ONG (マレーシア)
Piotr PAWLAK (ポーランド)
Yehuda PROKOPOWICZ (ポーランド)
Miyu SHINDO 進藤実優 (日本)
Tomoharu USHIDA 牛田智大 (日本)
Zitong WANG (中国)
Yifan WU (中国)
William YANG (アメリカ)
■ショパン国際ピアノ・コンクールとは?
ショパン国際ピアノ・コンクールは、1927年に創設され、原則5年に一度、ショパンの故郷であるポーランド・ワルシャワで開催されている国際音楽コンクール。作曲家フレデリック・ショパンの作品の演奏に特化した世界的な権威を誇る大会で、ピアニストにとってはキャリアの大きな転機となる登竜門でもある。
過去にはマルタ・アルゲリッチ、スタニスラフ・ブーニン、クリスチャン・ツィメルマンなど、名だたるピアニストが入賞。日本からは1970年に内田光子が2位、2021年には反田恭平が同じく2位に輝いている。
演奏技術のみならず、ショパン作品への深い理解と詩的な表現力が求められるこの舞台で、日本勢がどのような爪痕を残すか、世界中の音楽ファンが注目している。
PHOTO by Wojciech Grzedzinski for NIFC


