ウィーン国立歌劇場 2025年日本公演 開幕記者会見が開催!

―「最後の贅沢」目前!東京文化会館休館前の壮麗なオペラ引っ越し公演―

2025年10月5日(日)から東京文化会館で開幕するウィーン国立歌劇場 日本公演を前に、10月2日(木)、主な出演者・関係者が登壇する記者会見が行われた。9年ぶり、通算10回目となる来日公演は、日本のオペラファンにとって、まさに「最後の贅沢」とも言える貴重な機会となる。


photo Yuji Namba

3年間は“この規模のオペラ”が見られない

ウィーン国立歌劇場の来日公演は1980年に始まり、以降45年にわたって開催されてきた。しかし今回の公演を最後に、東京文化会館は大規模改修のため2026年から約3年間の休館に入る。舞台装置ごと“引っ越す”本格的な海外オペラ公演には、高度な舞台機構を持つ会場が不可欠。したがって、このクラスの引っ越し公演が日本で再び実現するのは早くても2029年以降となる。

「この機会を逃すと、生涯に悔いを残す」──とまで言われる本公演の全貌が、先日行われた記者会見で明かされた。

上演演目は「ばらの騎士」と「フィガロの結婚」 ウィーンを象徴する2作品

今回の上演作品は、モーツァルトの《フィガロの結婚》と、R.シュトラウスの《ばらの騎士》の2本立て。いずれもウィーン国立歌劇場を象徴する作品であり、オペラファンにはたまらないプログラムとなっている。

《フィガロの結婚》は、バリー・コスキー演出による2023年初演の新プロダクション。スピーディな展開と登場人物の繊細な心理描写が高く評価されている。

一方、《ばらの騎士》は、400回以上も上演されてきた故オットー・シェンク演出による伝説の舞台。ウィーンの伝統と格調を色濃く湛える、まさに“王道”のプロダクションだ。

髙橋典夫 日本舞台芸術振興会 専務理事による冒頭挨拶

「今回上演するフィガロの結婚とバラの騎士、ウィーン国立歌劇場を象徴する演目ではないかと思っております。フィガロの結婚、今回10回目の日本公演になるわけですけれども、 フィガロの結婚は既に5回やっているのですね。

それだけウィーン国立館劇場、それから日本の観客のために一番組み合わせとして日本観客に愛していただいているプログラムなのかなと。 一方でバラの騎士1994年に上演いたしましたカルロス・クライバー指揮の伝説的な公演があって、 ウィーン国立館劇場といえば、ばらの騎士というイメージが根強く残っているのではないかなと思っております。2本の最強プログラムで今回日本公演を実現できることを大変喜んでおります。」

ボグダン・ロシチッチ ウィーン国立歌劇場が語る「伝統と革新の共演」


photo Yuji Namba

「ここ日本に帰ってこれたことには、とても大きな意味があります。 そして今回、300人からそれ以上の人々が今日本に来ておりますが、同時にウィーンの劇場ではバレエとオペラが同時進行で行われております。これは日本だから可能なことであり、かつ私どもをいつも支えてくださるNBSに感謝しております。そしてこれは私どもの10回目の来日となります。

1980年が第1回目でございましたけれど、オペラという何世紀も渡る歴史を持つ芸術でありながら、これは大変意義深いことです。 9年ぶりの来日となってしまいましたが、また伺うことができて大変嬉しく思っております。」

また、日本での長年のパートナーであるNBS(日本舞台芸術振興会)への感謝を述べるとともに、ウィーンで同時に行われているオペラやバレエと並行しながら、日本に300人以上のスタッフ・キャストを送り込める体制が整っていることについて説明されました。

ボグダン・ロシチッチ ウィーン国立歌劇場 総裁による演出家・演出の紹介:

「私どもは、2つの演目を持ってきました。それは、ウィーンのみならず、私どもの歌劇場を代表する演目でございます。 そして、第1の演目は、フィガロの結婚でございます。これは新しい演出で、バリー・コスキーさんによるものですが、彼はまさに今、ヨーロッパで最も人気のある演出家でございまして、彼はフィガロのみならず、ダポンテの3演目全てを演出してくださっています。

そして、ばらの騎士でございます。彼はオットー・シェンクという素晴らしい演出家であり、残念ながら、近年亡くなられましたけれども、大きな足跡を歌劇場に残した人物です。 そして、この2人は、もちろん違う演出家ではございますけれども、しっかりとした共通項がございます。それは、劇場というもの、そのスペクタクな劇場に対する深い愛情でございます。 そして、その2人とも非常に鋭い視線を持った演出家でございます。人間の魂、あるいは、そういった全てのものに対する洞察力に優れた方です。」

出演者の声:「この舞台に立てることが幸せ」

会見には『フィガロの結婚』でスザンナ役を務めるカタリナ・コンラディ、フィガロ役のリッカルド・ファッシらが登壇。それぞれ、次のようにコメントした。

カタリナ・コンラディ(スザンナ役)


photo Yuji Namba

「私の役割はスザンナでございます。スザンナは300年前に描かれた女性とは思えないほど現代的で、自らの手で人生を築き、ステージ上すべての登場人物に影響を与えます。2年前に歌唱しましたが、ウィーン国立歌劇場というハイレベルな環境で歌えることも非常に楽しみです。ばらの騎士のゾフィーも歌唱しますので、ダブルでハッピーです。長く日本に滞在できて大変嬉しく存じます。」

リッカルド・ファッシ(フィガロ役)


photo Yuji Namba

「フィガロは私の大好きな役柄です。夢がかなったそんな気持ちです。美しい舞台に立ち、ジェットコースターのような感情の起伏を皆様と共に味わうことができます。上から下まで感情の落差に溢れ、役者としても歌手として本当にやりがいのある役です。マエストロと素晴らしい演目を創り上げていきたいと思います。」

世界都市・東京における「全幕オペラ上演」の希少性:

世界の大都市の文化的成熟度は、単に経済や人口の規模では測れません。その都市でどれだけ高度な芸術文化が“本物の形で”体験できるかが、大きなバロメーターとなります。オペラは、指揮者、オーケストラ、歌手、舞台装置、衣装、照明、美術、言語までもが融合する総合芸術の極致。とりわけ全幕(フルプロダクション)での上演には、相応の機構、舞台面積、音響設計、楽屋機能など、非常に専門的な施設が必要とされます。

東京において、こうしたオペラの全幕上演ができる劇場は実際には限られており、近年では東京文化会館、新国立劇場などに絞られつつあります。なかでも東京文化会館は、海外の大劇場(メトロポリタン歌劇場、ウィーン国立歌劇場、パリ・オペラ座など)からの“引っ越し公演”を受け入れられる稀有な存在として世界的に評価されており、舞台装置・仕掛けを“そのまま”日本で再現できることが計り知れない希少な価値となっています。

オペラハウスは、都市の品位と格を投影する鏡:

ドイツの劇作家・小説家であるトーマス・マンは、かつてこう語っています:

「オペラは、国家や都市が自らの文化的誇りを示す“旗”のようなものである。」

この言葉の通り、オペラハウスは単なる娯楽施設ではありません。その都市が、文化や知性、美意識にどれほど投資しているかを世界に示す、いわば“文化の顔”とも言える存在。

作曲家のジュゼッペ・ヴェルディはこう述べています:

「オペラとは劇場で観るために作られている。もしそれを失えば、音楽も魂を失う。」

ヨーロッパでは、都市の格を語るとき、劇場の有無・規模・芸術水準が必ず話題になります。ウィーン、ミラノ、パリ、ロンドンなどが文化都市としての地位を維持できているのは、そこに世界的なオペラハウスがあるからです。

東京もまた、アジアを代表する文化都市として、全幕オペラを上演できる劇場の存在を持ち続けることが、国際的な文化競争力の一端という重要な役割を担っています。現在、東京文化会館の改修によって、しばらくの間、大規模な引っ越しオペラが実現不可能になる見込みです。これに対し、多くの文化関係者が「この“空白”をどう埋めるか」「代替会場の整備・支援は十分か」といった議論を始めています。

演出家のグレアム・ヴィック(英国)は、生前こう語っていました:

「オペラとは、いま・ここに集まった人々がともに体験する、時間芸術の奇跡。劇場があって初めて、それは現れる。」

この「奇跡」を東京という都市で体験し続けられること。それが、東京に全幕オペラが上演できる劇場があることの、かけがえのない価値となっています。オペラハウスは、都市の格と品位を投影する鏡なのです。

■ウィーン国立歌劇場2025年日本公演

会場:東京都 東京文化会館

「フィガロの結婚」

開催日程:2025年10月5日(日)〜12日(日)

作曲:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
演出:バリー・コスキー
指揮:ベルトラン・ド・ビリー

「ばらの騎士」

開催日程:2025年10月20日(月)〜26日(日)

作曲:リヒャルト・シュトラウス
演出:オットー・シェンク
指揮:フィリップ・ジョルダン

演奏・合唱:
ウィーン国立歌劇場管弦楽団
ウィーン国立歌劇場舞台上オーケストラ
ウィーン国立歌劇場合唱団

主催: 公益財団法人日本舞台芸術振興会 / 日本経済新聞社
後援: 外務省 / 文化庁 / オーストリア大使館 / オーストリア文化フォーラム東京 / TOKYO FM

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