5月30日(金)、オーストラリア・バレエ団15年ぶりの来日公演となるヌレエフ版「ドン・キホーテ」初日公演に鑑賞した。
©Kiyonori Hasegawa
デヴィッド・ホールバーグが芸術監督を務めるオーストラリア・バレエ団(TAB)は、2023年シーズンには年間の総観客動員数30万人を達成した、話題の人気カンパニー。
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ヌレエフ版「ドン・キホーテ」は、1973年にヌレエフ自身の主演で映画化された「ドン・キホーテ」を舞台化したもので、豪華な衣裳や装置、情熱的なスペインの雰囲気を特徴している。公演期間中、シルヴィ・ギエムとのスペシャルトークイベントが開催され、ヌレエフ版「ドン・キホーテ」の魅力や舞台裏についての貴重な話が披露された。
オーストラリア・バレエ団のプリンシパルである近藤亜香がキトリ役を務め、チェンウ・グオがバジル役を演じた。また、ドリアードの女王の根本里菜やキューピットの山田悠未など日本人ダンサーが大活躍した。
キトリは、スペインのバルセロナで宿屋を営むロレンツォの娘で、床屋の青年バジルと恋に落ちる。ヒロインであるキトリは、テクニックと表現力の両面であらゆることが求められる難役・女性ダンサーにとって大きな挑戦であり憧れでもある役柄。
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近藤亜香は、キトリ役を「人生の節目にある役」と位置づけており、プロとしても初めて全幕作品の主役を務めた思い入れ深い役柄。近藤は、伝説のダンサー シルヴィ・ギエムから直接指導を受け、キトリ役をさらに深化させた。
ギエムのキトリは、ただのバレエダンサーの枠に収まらず、キャラクターとしての魅力も兼ね備えいた。ギエムのキトリは、スピード感とダイナミズムの面でも際立った存在感を放ち、観客を圧倒していた。
シルヴィ・ギエムの「ギエリムズ」伝承者である近藤亜香によるキトリは、キトリの強い意志・愛情・快活さを的確に表現し、観客に強い印象を与えた。しなやかな鞭のような姿勢で舞台上で疾走感ある風を巻き起こし、観客の目を虜にした。
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第3幕ソロ(ヴァリエーション)では、スピード・バランス・回転など全ての面で正確さと高い習熟度が求められる32回転フェッテを難なくこなし、万雷の喝采を浴びた。
キトリの恋人であるバジル役を務めたのは、近藤の公私ともにパートナーであるチェンウ・グオ。二人は舞台上でも息の合った演技とバレエを披露。ヌレエフ版での「ダンス・バトル」シーンでは、互いの競い合うような演舞で観客を大いに魅了した。
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チェンウ・グォは、バジルの役柄に必要な高度なテクニックを見事にこなした。特に第3幕におけるジャンプと回転技術が卓越しており、バジルの活発で情熱的な性格を明確に描いた。
エスパーダは、バレエ「ドン・キホーテ」において、情熱的で魅力的な闘牛士の役柄を演じる。ロシア生まれの若手大柄ダンサー、マキシム・ゼニンはエスパーダ役を演じ、誇り高い性格と情熱を余すことなく描写。エスパーダと闘牛士達は、直線的でキレのある動きを多用。手首のスナップや胸を張った堂々たる姿勢でスペインの闘牛士としての誇りと勇気を体現し、観客の視線を釘付けにした。
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オーストラリア・バレエ団のシニア・アーティスト、山田悠未はキューピッド役を演じた。物語の中で恋愛の神キューピッドは、キトリとバジルの恋を祝福する重要な場面で登場する。山田悠未は表情や手の動きで、キューピッドの神々しさや愛情、柔らかさを巧みに表現。ジャンプやターンは、精度と美しさを兼ね備えており、生まれながらの華を感じさせた。
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オーストラリア・バレエ団「ドン・キホーテ」日本来日公演は、ヌレエフの芸術的遺産を受け継ぎつつも、バレエ団による新たな解釈と情熱が融合した卓越した舞台だった。
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■オーストラリア・バレエ団「ドン・キホーテ」
2025年日本公演
日時:5月30日(金)18時30分
会場:東京文化会館
STAFF:
振付:ルドルフ・ヌレエフ(マリウス・プティパに基づく)
音楽:ルドヴィク・ミンクス
編曲:ジョン・ランチベリー
衣裳デザイン:バリー・ケイ
装置デザイン:リチャード・ロバーツ(バリー・ケイデザインのオリジナル映画に基づく)
照明デザイン:ジョン・バスウェル
CAST:
ドン・キホーテ:ジョセフ・ロマンスヴィッチ
キトリ:近藤亜香
バジル:チェンウ・グオ
サンチョ・パンサ:ティモシー・コールマン
ガマーシュ:ジャリッド・マデン
ロレンツォ:ルーク・マーチャント
街の踊り子:ロビン・ヘンドリックス
ドリアードの女王:根本里菜
エスパーダ:マキシム・ゼニン
ロマの首領:キャメロン・ホームズ
キューピッド:山田悠未
ファンタンゴ:イゾベル・ダッシュウッド、ジェイク・マンガカヒア
ブライズ・メイド:ミア・ヒースコート
友人たち:グレイス・キャロル、清遠ラリッサ
指揮: ジョナサン・ロー
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団