5月25日(日)、ジョアキーノ・ロッシーニの傑作喜劇オペラ「セビリアの理髪師」を観賞した。
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
スペインの大貴族アルマヴィーヴァ伯爵は、ロジーナに恋焦がれている。ロジーナの後見人であるバルトロも、財産目当てで彼女と結婚することを狙っている。阻止せねばならないと登場するのが、町の何でも屋であり床屋のフィガロ。次から次へと繰り出されるフィガロの作戦に、登場人物たちは振り回されて大騒ぎというストーリーが展開される。
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
演出はヨーゼフ・E・ケップリンガーが手掛け、1960年代後期のフランコ政権下のスペインを舞台として設定。ポップでカラフルな美術と衣裳、800点あまりの小道具が、スペイン変革期の熱気と活気を伝えてくれた。
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
ロジーナ役は、ロッシーニのオペラ「セビリアの理髪師」の中でも最も魅力的かつ技巧的に要求の高い役柄の一つ。レジーナを歌った脇園彩は、看板アリア「今の歌声は(Una voce poco fa)」で意中のアルマヴィーヴァ伯爵の声を聞いた喜び・恋心・自らのしたたかさを見事に演唱し、大きな喝采を浴びた。
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
脇園は滑らかなレガート、正確なアジリタ(速い音型の技巧的なパッセージ)、音程のコントロールなどベルカント歌唱の技量が飛び抜けていた。脇園は、喜劇的な軽快さから深みのある表現までを本場イタリア仕込みの歌唱技巧で自由自在に操る。声色やフレーズのニュアンスを変化させながら「ベルカント・メゾ」の真価が問われるロジーナ役をパーフェクトに演じた。また、アリアだけでなく重唱においても豊かな音楽的キャラクターを表出させた。
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
フィガロのロベルト・デ・カンディアは、イタリア出身のバリトンで、ロッシーニやドニゼッティなどのベルカント・オペラを中心に活躍する実力派歌手。
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
フィガロの最初の入口で「ラ、ラン、ラ、レーラ…」との歌い出しで始まる有名なアリア「ラルゴ・アル・ファクトタム(Largo al factotum)」では、力強く張りのあるバリトンで聴き手の注目を一気に引き寄せた。5人の子供たちを引き連れ、スクーターに乗って登場し、オペラ歌唱・大衆文化のアイコンとして、キャラクターの魅力を存分に発揮した。
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
アルマヴィーヴァ伯爵のローレンス・ブラウンリーは、世界的に評価されるベルカント・テノール。軽やかで明晰なテノールを特徴とし、ロッシーニの難易度の高いフィオリトゥーラ(「花の咲くこと」を意味する装飾技巧)も難なくこなした。
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
ロジーナの後見人であり、医師として登場したバルトロ役のジュリオ・マストロトータロはロジーナとの結婚を画策。ロッシーニの技巧的な要求に応えつつ、ユーモアと威厳を兼ねた力強いバリトンを披露した。
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
指揮はイタリア出身の指揮者で、ベルカントオペラの俊英コッラード・ロヴァーリス。精緻な音楽表現と活力に満ちた指揮で東京フィルハーモニー交響楽団とロッシーニのオペラの特徴である軽妙で華やかな音楽を創出。卓越した指揮技術と音楽的感性で、オーケストラの表現力を最大限に引き出し、聴衆に喜びと感動を与えた。
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
■新国立劇場 2024/2025シーズン
ジョアキーノ・ロッシーニ
セビリアの理髪師
Il Barbiere di Siviglia / Gioachino Rossini
全2幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉
日時:2025年5月25日[日]
会場:新国立劇場 オペラパレス
STAFF:
【指揮】コッラード・ロヴァーリス
【演出】ヨーゼフ・E.ケップリンガー
【美術・衣裳】ハイドルン・シュメルツァー
【照明】八木麻紀
【再演演出】上原真希
CAST:
【アルマヴィーヴァ伯爵】ローレンス・ブラウンリー
【ロジーナ】脇園 彩
【バルトロ】ジュリオ・マストロトータロ
【フィガロ】ロベルト・デ・カンディア
【ドン・バジリオ】妻屋秀和
【ベルタ】加納悦子
【フィオレッロ】高橋正尚
【隊長】秋本 健
【アンブロージオ】古川和彦
【合唱指揮】水戸博之
【合唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
