5月19日(月)東京フィルハーモニー交響楽団5月定期演奏会を東京オペラシティコンサートホールで聴いた。指揮は、特別客演指揮者のミハイル・プレトニョフ。コンサートマスターは、依田真宣。
撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団
ショパンのピアノ協奏曲第1番は、プレトニョフがオーケストレーションを手掛けた編曲版。原曲の華やかさを保ちつつ、管弦楽の色彩感を一層引き立てた。特に第三楽章のオーケストレーションにおいて木管・金管が拡充され、プレトニョフの世界観が溢れていた。
撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団
松田華音のピアノは、繊細でありながら一音一音輪郭がくっきりとした表現力を呈示。深みと情熱を感じさせるピアニズムで、聴衆を魅了した。
撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団
アンコールは、チャイコフスキー「くるみ割り人形」組曲 Op.71a(プレトニョフ編曲ピアノ版)から第4曲「間奏曲(アンダンテ)」が披露された。後半への架橋としてこれ以上にない選曲でため息で出るような美世界をピアノで描写した。
撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団
後半は、プレトニョフによる特別編集版「眠れる森の美女」。チャイコフスキーはクラシック音楽作曲家の中でもとりわけ旋律美を構築する才能に恵まれており、美旋律の代名詞と言ってよい作曲家である。チャイコフスキーは非常に緻密な管弦楽法を用いて、各楽器の個性を活かしながら華麗な音響を生み出し、バレエ音楽を「一段上の芸術」へと引き上げた。
撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団
ミハイル・プレトニョフは、チャイコフスキーの三大バレエの中で「眠れる森の美女」を最も好んでおり、バレエ音楽「眠れる森の美女」の中から特に印象的な11曲を選曲。アンサンブルと音色にプレトニョフならではのティストを加えた。
撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団
オーケストラはブラームスの時代に一般的だった対向配置が採用され、ヴァイオリンの1stと2ndが指揮者の左右に分かれており、弦楽器高音域のバランスが良好。ステレオ効果が強調され、音の響きが立体的だった。
撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団
冒頭1曲目「序奏」では、オーケストラの重厚感ある音圧と豊かな表現力に驚かされた。ミハイル・プレトニョフは、老獪なマジシャンのような精密な指揮で、ドラマティックでありながらも優雅な音楽を構築。オーケストラを自由自在に操り、作品に新たな息吹を吹き込んだ。
撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団
6曲目で「ワルツ」を披露。弦楽器による優美な旋律は、会場は瞬く間に夢の世界へと誘った。プレトニョフ独特のタッチと鋭い感性、東京フィルが得意とする色彩豊かなオーケストレーションとのコラボレーションが秀逸。場面に応じて音色が絶妙に変化し、まるで天空の絵巻物を見ているかのような感覚に陥った。
撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団
8曲目「間奏曲」は依田コンサートマスターが立ち上がって華やかなヴァイオリン・ソロを披露。
撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団
アンコールでは「パ・ダクシオンよりアダージョ」(第1幕)が披露され、コンサートは大団円で迎えた。チャイコフスキーの音楽の最大の特徴である美麗さと優雅さを兼ね備えた「眠れる森の美女」で、楽曲の魅力と真価を余すところなく伝授してくれた演奏会だった。演奏後は、ほぼ満席の客席から大きな拍手が巻き起こり、その余韻がホール全体を温かく包み込んだ。
撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団
■東京フィルハーモニー交響楽団
第170回東京オペラシティ定期シリーズ
日時;2025年5月19日(月)19:00
会場:東京オペラシティコンサートホール
指揮:ミハイル・プレトニョフ(特別客演指揮者)
ピアノ:松田華音
プログラム:
ショパン(プレトニョフ編)/ピアノ協奏曲第1番
チャイコフスキー/バレエ『眠れる森の美女』より(プレトニョフによる特別編集版)
主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(公演創造活動))| 独立行政法人日本芸術文化振興会
