【公演レポ】東京バレエ団、ペジャールのくるみ割り人形を上演!


2月8日(土)東京バレエ団ベジャールの「くるみ割り人形」を東京文化会館で観賞した。東京バレエ団が創立60周年シリーズ第12弾、20世紀舞踏界に衝撃を与えた革命的振付家モーリス・ベジャールによる「くるみ割り人形」です。

主人公は、クララ(マーシャ)ではなく、幼少時代に母親を亡くした“ビム”という男の子。7歳のときに、最愛のママンが上天したビム(幼年時代のモーリス・ベジャールの呼称)を中心に物語が展開。母への憧憬はやがて巨大なヴィーナス像となり、ビムは中から現れた母と美麗なパ・ド・ドゥを踊るというストーリーが展開されます。

ベジャールの「くるみ割り人形」は7年ぶりに披露され、キャストが一新。主役ビムを踊った池本祥真は、キレの良いダンスが持ち味。羽がはえたかのような軽やかなダンスと回転は、一時も目が離せぬ存在感があった。巨大なビーナス像によじ登るシーンではハラハラさせられたが、真摯な演技に目が釘付けとなった。


Photo by Shoko Matsuhashi

母を踊った榊優美枝はデリケートな情感と際立つ音楽性、母としての慈愛がある表現と演劇的な幅広さが卓越していた。榊のバレエ・キャラクターは、見ているだけで癒しを与えてくれる不思議な存在感と柔らかな色香があり、ビムの理想の母親役にぴったりだった。


Photo by Shoko Matsuhashi

ヴィーナス像をぐるりと回転させるとそこに描かれていたのはイコンの聖母子像。聖母子像の前で踊られた、ビムと母による「雪のパ・ド・ドゥ」は、ペジャール作品でしか表現できない気高さと美しさがあった。


Photo by Shoko Matsuhashi

猫のフェリックス役を演じた宮川新大のダンスは、テクニックの確かさとパの美しさが抜群。バランスがとれた端正なルックスでいたずら心がある役柄をイキイキとしたダンスとユーモア溢れる演技で観客を笑顔にしていた。


Photo by Shoko Matsuhashi

ベジャールの薫陶を受けるジル・ロマンが新たな役”プティ・ペール”役として登場。同役は、東京バレエ団団長・故飯田宗孝へのオマージュとされた役柄だが、ジル・ロマンが登場したとたん会場の空気が変化した。美しく無駄がないアームと指先の繊細な表現だけでその場を一挙に支配し、吸い寄せてしまう手腕とカリスマ性に脱帽した。


Photo by Shoko Matsuhashi

第2幕ではビムが、最愛のママンを喜ばせようと各国の舞踏が披露された。「スペインの踊り」「中国の踊り」「アラブの踊り」「ソ連の踊り」、そしてビムと母親も加わった「パリの踊り」は、古典『くるみ割り人形』に通じる部分がたくさんあり、東京バレエ団ダンサーたちの技術の高さが堪能できた。

東京バレエ団ベジャールの「くるみ割り人形」は、クラシック・バレエへのオマージュであり、ペジャールの少年時代からの思い入れが濃密に詰まっていた大人が楽しめる究極のバレエ作品だった。


Photo by Shoko Matsuhashi

■東京バレエ団 ベジャールの「くるみ割り人形」

日時:2025年2月8日(土)
会場:東京文化会館

振付:モーリス・ベジャール
音楽:ピョートル・チャイコフスキー、ヴァンサン・スコット、イヴェット・オルネ、ヨハン・セバスティアン・バッハ

- 第1幕 -
ビム:池本祥真
母:榊優美枝
猫のフェリックス:宮川新大
M …:大塚 卓
妹のクロード、プチ・ファウスト:足立真里亜
メフィスト:岡崎隼也
光の天使:岡﨑 司、中嶋智哉
妖精:伝田陽美、三雲友里加
プティ・ペール:ジル・ロマン

- 第2幕 -
スペイン 闘牛士:山下湧吾、山仁 尚、孝多佑月
中国 バトン:工 桃子
アラブ:中島映理子
ソ連:中川美雪-井福俊太郎
パリ:三雲友里加-南江祐生
グラン・パ・ド・ドゥ:金子仁美-安村圭太

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【クロストーク】ベジャールの「くるみ割り人形」ー母役を演じるにあたって