【公演レポ】藤原歌劇団創立90周年ラストを飾ったヴェルディ『ファルスタッフ』

2月1日(土)、東京文化会館で藤原歌劇団創立90周年記念公演ジュゼッペ・ヴェルディオペラ『ファルスタッフ』公演を観賞した。『ファルスタッフ』は、藤原歌劇団創立90周年のラストを飾る演目で10年ぶりに上演。上演前の楽曲解説(13:15~)では、折江忠道総監督から総監督交代の挨拶があり、次期総監督として角田和弘氏の紹介があった。

同作は、ジュゼッペ・ヴェルディが80代目前に制作した最晩年の傑作喜劇で、26作に及ぶオペラ作品の中でわずか2作しかない喜劇のうちのひとつとなっている。

シェイクスピアの劇を題材としたヴェルディのオペラは『マクベス』、『オテロ』に次いで3作目となる。酒飲みで強欲、女好きな騎士ジョン・ファルスタッフが子悪党な従者を従え、女たちに恋文を送り、金を巻き上げようと画策するが逆に女たちに騙され散々な目に遭うというストーリーが展開される。

タイトルロール太鼓腹の老騎士ファルスタッフを務めた上江隼人は、貫禄ある立ち姿で終始、舞台を牽引。よく響く張りがあるバリトンとユーモア溢れる演技で非の打ちどころがない主役を演じた。日本を代表するヴェルティ歌いだけあって、ヴェルディがスコアに込めた細やかなニュアンスにもしっかりと配慮していた。


写真提供:公益財団法人日本オペラ振興会

フォードの岡 昭宏は、スケール感と力強さと若々しさを併せ持つバリトン。フォード夫人・アリーチェの山口佳子は、上品でしっとりとした美声を巧みに披露。アリーチェの娘ナンネッタの光岡暁恵は、清らかで浄化されるような声の持ち主で観客の心に癒しを与えていた。

光岡は、恋人であるフェントンの中井亮一とのパートナーシップが良好。フェイトンとナンネッタの「愛の二重唱」は印象に残る美しい重唱だった。中井は高音域の伸びが良く、爽やかな好青年を演じた。


写真提供:公益財団法人日本オペラ振興会

ヴェルディが拘った役柄であるクイックリー夫人を演じたのは松原広美。松原はニュアンスがよく伝わる歌と細やかな演技で観客を魅了。


写真提供:公益財団法人日本オペラ振興会

医師カイウスの所谷直生には度肝を抜かれた。日本語字幕が「ザマス」調のユニークなキャラクターながら、豊かな声量と声の響き、コミカルな演技力に注目が集まった。

岩田達宗の演出からヴェルディの最後の喜劇作品の意図と魅力がしっかりと伝わってきた。舞台は回転式になっており、一方がガーター亭、もう一方がウィンザーの森に仕立てられており、観客を視覚の面でも楽しませた。後半の重唱構成は、四重唱・五重唱・二重唱・四重唱・二重唱・五重唱・四重唱とシメントリック(対称的)な驚くべき構造となっており、洪水のようなセリフ回し、言葉とアンサンブルの嵐において、同オペラの舞台構成と演出は抜群の効用を発揮した。


写真提供:公益財団法人日本オペラ振興会

指揮は、時任康文。演奏は東京フィルハーモニー交響楽団。コンサートマスターは、三世代に渡ってヴァイオリニストという音楽家家系の近藤薫。時任 康文指揮 東京フィルハーモニー交響楽団は、ヴェルディの音楽性を熟知した手堅い演奏。演劇的要素が強く、全曲が切れ目なく続く『ファルスタッフ』において、歌と芝居と音楽がぴったりと重なり合う手腕が秀逸。オペラ・シンフォニーとしての演奏力は、名人芸の域に達していた。

藤原歌劇団創立90周年記念公演ジュゼッペ・ヴェルディ オペラ『ファルスタッフ』公演は、藤原歌劇団創立90周年のラストを飾るにふさわしいもので終演後は、ブラヴォーの嵐に包まれた。


写真提供:公益財団法人日本オペラ振興会

■藤原歌劇団創立90周年記念公演
ジュゼッペ・ヴェルディ オペラ『ファルスタッフ』
全3幕

日時:2月1日(土)14:00開演(13:00開場)
13:15より会場内にて作品解説あり
会場:東京文化会館

STAFF

合唱指揮:須藤 桂司
美術:松生 紘子
衣裳:緒方 規矩子
照明:大島 祐夫
舞台監督:菅原 多敢弘
副指揮;安部 克彦、玉崎 優人
演出助手;橋詰 陽子

CAST

ファルスタッフ:上江隼人
フォード:岡昭宏
フェントン:中井亮一
アリーチェ:山口佳子
ナンネッタ:光岡暁恵
メグ・ページ:古澤真紀子
クイックリー夫人:松原 広美
カイウス:所谷直生
バルドルフォ:井出司
ピスト―ラ:伊藤貴之

総監督:折江忠道
演出:岩田 達宗

指揮:時任 康文
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
合唱:藤原歌劇団合唱部

ファルスタッフ〈東京〉 | JOF 公益財団法人日本オペラ振興会