2025年1月22日、新国立劇場で、リヒャルト・ワーグナー作曲のオペラ「さまよえるオランダ人」を観賞した。
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
歌劇「さまよえるオランダ人」はワーグナーが作風を確立した28才の時の作品。ワーグナーの楽劇は、劇中の登場人物やシーンの状況を表すライトモチーフが多用され、難易度が高い作品が多いと言われているが、「さまよえるオランダ人」は、オランダ人のモノローグ、ゼンタのバラードなど聴きどころが多く、ワーグナー歌劇入門者にもオススメできる作品となっている。
新国立劇場オペラ「さまよえるオランダ人」公演は、シュテークマン演出のプロダクションにより、2007年に初演を迎え、12年、15年、22年の再演を経て、今回が5度目の上演。「さまよえるオランダ人」は、神を呪ったオランダ人が呪われて死ぬことができず、幽霊船の船長として海をさまようという物語。
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
序曲で、弦楽器のトレモロに乗ってホルンとファゴットがニ短調の旋律を演奏する「呪われたオランダ人の動機」がオペラハウス全体に力強く鳴り響いた。危険な大荒れの海を航海する様子を見事に表現したワーグナーの作風の巧みさに息を呑んだ。危険な航海の様子をこれほど見事に音楽で描写した作曲家は他におらず、マルク・アルブレヒトの髪を振り乱しながらの燃焼度が高い指揮が白眉。青年期のワーグナ-の若々しく雄弁な音楽を非常によく表現していた。冒頭、ホルンに乱れがあったが、ラストの「救済の動機」では、東響の金管部隊をしっかりと鳴らし切り、高揚感溢れるフィナーレを作り上げていた。
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
マリインスキー歌劇場で歌っていたエフゲニー・ニキティンは、体調不良のため初日に引き続き欠席。ニキティンの代役を務めた河野鉄平は、次作「ジャンニ・スキッキ」(2月2日より上演)の準備で忙しい中、内包的に苦悩する演技と張りと深みがある声を披露し、大活躍した。外国人勢に引けを取らない演技と歌唱が印象的に残った。
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
ゼンタ役のエリザベート・ストリッドは、「ゼンタのバラード」で観客を魅了。思いつめたゼンタがオランダ人の運命と、その運命に共感する自分の決意を歌唱。ワーグナーの生涯のテーマである「愛による救済」を高らかに歌い上げ、その後のオペラ全体の流れに火を灯した。
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
エリック役のジョナサン・ストートンは甘く響く声が格別の出来。凛々しい出で立ちと輝きがあるテノールで観客を大いに酔わせた。
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
ダーラント役の松位浩は、ドイツの歌劇場と終身雇用契約を結んでおり、力強い深い声でゼンタの父として役柄を立派に務め上げた。
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
新国立劇場合唱団は一点の曇りもない完璧な世界レベルの合唱を披露。第2幕の糸車で糸を紡ぐ場面での女性合唱「糸紡むぎの合唱」は民謡風の歌で清らかで美しく心温まる時を提供した。
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
女性合唱「糸紡むぎの合唱」と対局をなす第三幕男性合唱「水夫の合唱」は、力強い堂々たる合唱を披露。観客を熱狂の渦に巻き込み、合唱とアンサンブルの凄みを体感させた。
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
■新国立劇場 2024/2025 シーズン オペラ
リヒャルト・ワーグナー
『さまよえるオランダ人』
Der fliegende Holländer / Richard Wagner
全3幕〈ドイツ語上演/日本語及び英語字幕付〉
日程:2025年1月22日(水)
会場:新国立劇場 オペラパレス
予定上演時間:約2時間50分(休憩含む)
スタッフ:
【指揮】マルク・アルブレヒト
【演出】マティアス・フォン・シュテークマン
【美術】堀尾幸男
【衣裳】ひびのこづえ
【照明】磯野 睦
キャスト:
【ダーラント】松位 浩
【ゼンタ】エリザベート・ストリッド
【エリック】ジョナサン・ストートン
【マリー】金子美香
【舵手】伊藤達人
【オランダ人】河野鉄平
【合唱指揮】三澤洋史
【合唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京交響楽団