10月9日(水)新国立劇場オペラパレスにて、ヴィンチェンツォ・ベッリーニ歌劇『夢遊病の女』<新制作>を観賞した。マドリッドのテアトロ・レアル、バルセロナのリセウ大劇場、パレルモのパレルモ・マッシモ劇場との共同制作のオペラ。
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
ベルカント・オペラを代表する作曲家の一人であるベッリーニのオペラが新国立劇場にてついに初上演された。ロッシーニやドニゼッティと共に「ベルカント・オペラ」と称される19世紀前半の美しいイタリアオペラを代表する作曲家であるベッリーニは、ショパン、ベルリオーズ、ワーグナーらから賞賛されていた。
ベッリーニは生涯、オペラを深く愛したピアノの詩人フレデリック・ショパンと深い友情で結ばれていました。ショパン自身もベッリーニに深く影響され、ベルカント唱法をピアノで目指していたと言われています。ショパンは、ベリーニの墓のそばに埋葬されたいと願うほどだった。
長い流れるような美しい旋律で知られるベッリーニの音楽は「カターニアの白鳥」と呼ばれ、ワーグナーは「私はベリーニに特別の偏愛を抱く。なぜなら、彼の音楽は強い真実の感情にあふれ、言葉と深く結びついているからだ」と賛辞を贈るほどだった。
歌劇『夢遊病の女』の舞台は、スイス・アルプスの山村でアミーナとエルヴィーノの結婚を祝福する一対の人形がぶら下がる場面が印象的からスタート。
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
アミーナ役を歌うクラウディア・ムスキオ(ソプラノ)は、1995年生まれの20代のイタリアの新星。若く清純な出で立ちはアミ―ナ役にピッタリ。清々しい声は聖所から汲んだ聖水のような清らかさ。軽やかで伸びがある美声は、ベルカントオペラにぴったりだった。アリア「ああ、信じられない」では透明感溢れる声の響きと広い音域、自由自在に声を回すテクニックと美しい弱音が卓越していた。
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
命綱がなく舞台上に置かれた小屋の高所のせり出しで歌った姿にはハラハラさせられたが演技も上々の出来だった。イラッツェ・アンサ&イガール・バコヴィッチ振付によるダンサーたちは、主役の背後で、シャープかつ陰影がある動きで夢遊病の女のキャラクターを際立たせた。
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
エルヴィーノ役を歌唱したアントニーノ・シラグーザ(テノール)は、10月5日に還暦を迎えた世界最高峰のベルカントの名歌手。還暦とは思えない程のシャープで切れが良く爽快な歌唱で聴衆を魅了。ベッリーニならではの超絶技巧な旋律を次々に歌いこなす歌唱技巧に圧倒された。
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
日本人歌手では、ロドルフォ伯爵役の妻屋秀和(バス)とリーザ役の伊藤晴(ソプラノ)が大健闘。新国立劇場常連の妻屋秀和は、豊かな声と的確なフレー ジング、それによる深い存在感が感じられた。
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
ベルカントオペラの名匠マウリツィオ・ベニーニは、久しぶりに恋人に再開したかのような丁重な指揮ぶりで東京フィルハーモニー交響楽団に生き生きとした命と魂を吹き込み、ベルカント・オペラの美旋律を構築。オーケストラの音色は、緩急自在で極めてロマン的。叙情性に富んでおり筆舌に尽くしがたい美しさを創出した。音が鳴っていない間合いでさえも美しく感じられるのは、一種のマジックである。
村人に扮する新国立劇場合唱団の合唱は、歌手の歌声とが重なり合って、ベルカントオペラでしか味わえないような化学反応と臨場感を劇場全体にもたらした。
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
演出はバルセロナ出身のバルバラ・リュックによるものでベルカントオペラの特徴である歌の美しさが際立せた手腕が白眉。全編にわたって優美なメロディが新国立劇場オペラハウスを支配し、ショパン・ベルリオーズ・ワーグナーらから賞賛と尊敬、愛情を得てきたヴィンチェンツォ・ベッリーニならではの美しい旋律と世界観が堪能できた名演だった。新国立劇場周辺では早くも「ベッリーニ・ロス」「ベルカントオペラ・ロス」の声が聞かれる。
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
■新国立劇場2024/2025シーズン
ヴィンチェンツォ・ベッリーニ
夢遊病の女<新制作>
La Sonnambula / Vincenzo Bellini
全2幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉
日時:2024年10月9日(水)14:00
会場:新国立劇場オペラパレス
STAFF:
【指 揮】マウリツィオ・ベニーニ
【演 出】バルバラ・リュック
【美 術】クリストフ・ヘッツァー
【衣 裳】クララ・ペルッフォ
【照 明】ウルス・シェーネバウム
【振 付】イラッツェ・アンサ、イガール・バコヴィッチ
【演出補】アンナ・ポンセ
【舞台監督】髙橋尚史
CAST:
【ロドルフォ伯爵】妻屋秀和
【テレーザ】谷口睦美
【アミーナ】クラウディア・ムスキオ
【エルヴィーノ】アントニーノ・シラグーザ
【リーザ】伊藤 晴
【アレッシオ】近藤 圭
【公証人】渡辺正親
【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
共同制作:テアトロ・レアル、リセウ大劇場、パレルモ・マッシモ劇場
Co-production with Teatro Real of Madrid, Gran Teatre del Liceu, Teatro Massimo di Palermo

▽2024/2025シーズンオペラ公演関連イベント オペラトーク『夢遊病の女』