【公演レポ】第17回世界バレエフェスティバル Aプログラム<WORLD BALLET FESTIVAL>


「バレエのオリンピック」と称され、世界最高峰のダンサーが来日し、一堂に会するバレエ界の一大イベント「第17回世界バレエフェスティバル」が、2024年7月27日(土)から8月12日(月祝)の日程で東京文化会館にて開催された。

世界バレエフェスティバルは、1976年に第1回が開催されてから3年に1度東京で開催され、今年で第17回目を迎えた。今年は「パリ・オリンピック」も開催される記念すべき年となり、一層華やかなフェスティバルとなりました。

世界のトップダンサーが一堂に会する場として他に例がない世界を代表するバレエ・フェスティバル。Aプログラムは、7月31日から8月4日に開催され、Bプログラムは8月7日から8月10まで合計9公演が開催された。8月2日(金)のAプログラムを観賞した。

「白鳥の湖」より黒鳥のパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・クランコ
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
マッケンジー・ブラウン(シュツットガルト・バレエ団)
ガブリエル・フィゲレド(シュツットガルト・バレエ団)


ⒸKiyonori Hasegawa

「白鳥の湖」第3幕で黒鳥オディールと王子により踊られたパ・ド・ドゥ。シュツットガルト・バレエの若手ダンサーのマッケンジー・ブラウンとガブリエル・フィゲレドが登場した。二人とも世界バレエフェスティバル初登場。

上品であわい光に包まれているような容姿のケンジー・ブラウンは、黒鳥オディール最大の見せ場である32回転(グランフェッテ・アン・トゥールナン)で時折トリプルを入れるなど見事な超絶技巧に驚かされた。容姿は、若き女王そのもので鋭敏なテクニックとそれに裏打ちされる表現力に鳥肌がたった。

ジークフリート王子役のガブリエル・フィゲレドは、183センチ長身の恵まれた容姿で柔軟性に優れ、躍動感があるダンスを披露し喝采を浴びた。

「マノン」より第1幕の出会いのパ・ド・ドゥ
振付:ケネス・マクミラン
音楽:ジュール・マスネ
サラ・ラム(英国ロイヤル・バレエ団)
ウィリアム・ブレイスウェル(英国ロイヤル・バレエ団)


ⒸKiyonori Hasegawa

ケネス・マクミランが振り付けた物語バレエ「マノン」は、英国ロイヤル・バレエ団のサラ・ラムとウィリアム・ブレイスウェル主役二人の心情を雄弁に語るパ・ド・ドゥの呼吸感がぴったりだった。

ブレイスウェルの端正な体幹を活かしたソロは、神学生の若者が、恋を捧げる様を巧みに表現。バレエは同じ演目でもダンサーが変われば別の作品になってしまうのは、よく知られているところだが名花サラ・ラムによる至芸のマノンは、技術が完璧。自分の感覚に素直過ぎる余りに泥沼に陥っていく乙女心のツボを押さえた演技と表情が感動的でサラ・ラムならではの表現力に胸が締めつけられた。

「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」
振付:ジョージ・バランシン
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
永久メイ(マリインスキー・バレエ)
キム・キミン(マリインスキー・バレエ)


ⒸKiyonori Hasegawa

同作品は、ピョートル・チャイコフスキーが「白鳥の湖」初演の後に追加作曲した第3幕のグラン・パ・ド・ドゥの曲にジョージ・バランシンが振り付けたものとなっている。

2020年、「フォーブス」誌の「30 UNDER 30 JAPAN 2020」に選出され表紙を飾った時期より、より一層脚光を浴びるようになった永久メイが登場。可憐な永久メイが踊る姿はまさに天使そのもの。ロシア・バレエの特徴である上半身の美しさが際立った美麗なバレエを披露し、観客を夢のような世界へと誘った。

今やアジアのスーパースターとなったキム・キミンは超人的なジャンプとダイナミックな回転技、カリスマ性溢れる超絶技巧で観客の目を釘づけにした。マリインスキーバレエ団のこの二人だからこその名演に会場は大いに沸き立ち、感動と余韻をもたらした。

「空に浮かぶクジラの影」
振付:ヨースト・フルーエンレイツ
音楽:レナード・コーエン、ルー・リード、アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズ
ジル・ロマン
小林十市(モーリス・ベジャール・バレエ団)


ⒸKiyonori Hasegawa

オランダの振付家ヨースト・フルーエンレイツがジル・ロマンと小林十市のために振り付けた「空に浮かぶクジラの影」が披露された。ベジャールのバレエ団で活躍した二人による世界初演。フルーエンレイツは、バレエのかたわらチベット大学で仏教を研究している。

「空に浮かぶクジラの影」では、はかない現世にうつろう無常なる現象をジル・ロマンは空に漂う影のような奥行きのある柔らかな動きで描写。ジル・ロマン独自の感性が提示され、影に添う呼吸感は名人芸の域に達していた。

ジル・ロマンと小林十市は共に、多様な音楽と題材を融合させ新しい芸術を創造してきたモーリス・ベジャール氏 亡き後、バレエ団を向上させ、作品を守るために奮闘し続けてきた。2人の意志・生き様・哲学・人生観といったものを感じさせてくれる演目だった。

モーリスペジャールバレエ団は、9月21日(土)より日本公演を迎え、「バレエ・フォー・ライフ」と「ボレロ」が披露される。

「ドン・キホーテ」
振付:マリウス・プティパ
音楽:レオン・ミンクス
マリアネラ・ヌニェス(英国ロイヤル・バレエ団)
ワディム・ムンタギロフ(英国ロイヤル・バレエ団)


ⒸKiyonori Hasegawa

世界バレエフェスティバル ラストの演目としておなじみの「ドン・キホーテ」。

英国ロイヤル・バレエ団プリンシパルのマリアネラ・ヌニェスとワディム・ムンタギロフ2人のパートナーシップが盤石で確固としてものがあった。マリアネラ・ヌニェスのキトリは格別の出来。時折、笑みを浮かべながら遊び心と余裕が感じされるバレエを披露。安定したスキルの高さはさすがでバレエへの深い愛情と敬意が伝わってきた。

昨年6月に自伝「FROM SMALL STEPS TO BIG LEAPS」(小さな一歩から大きな跳躍へ)を刊行したワディム・ムンタギロフは、端正でバランスがとれたスタイルと確かなテクニックで観客を魅了した。ブノワ賞を2度受賞した経験があるムンタギロフはバレエファミリー出身で、スタイルはロシア流とイギリス流のミックス。動きのひとつひとつに輝き・気品・品格といったものが溢れ、理想的なダンスール・ノーブルとしての存在感に圧倒された。

■第17回世界バレエフェスティバル
THE 17TH WORLD BALLET FESTIVAL
<Aプログラム>

日時:8月2日(金)14:00
会場:東京文化会館

プログラム:

「スペードの女王」(ローラン・プティ振付)
マリーヤ・アレクサンドロワ
ヴラディスラフ・ラントラートフ

「マーキュリアル・マヌーヴァーズ」(クリストファー・ウィールドン振付)
シルヴィア・アッツォーニ
アレクサンドル・リアブコ

「椿姫」より第1幕のパ・ド・ドゥ(ジョン・ノイマイヤー振付)
エリサ・バデネス
フリーデマン・フォーゲル

「白鳥の湖」より 黒鳥のパ・ド・ドゥ(ジョン・クランコ振付)
マッケンジー・ブラウン
ガブリエル・フィゲレド

「アフター・ザ・レイン」(クリストファー・ウィールドン振付)
アレッサンドラ・フェリ
ロベルト・ボッレ

「アン・ソル」(ジェローム・ロビンズ振付)
ドロテ・ジルベール
ユーゴ・マルシャン

「アウル・フォールズ」(セバスチャン・クロボーグ振付)
マリア・コチェトコワ
ダニール・シムキン

「マノン」より第1幕の出会いのパ・ド・ドゥ(ケネス・マクミラン振付)
サラ・ラム
ウィリアム・ブレイスウェル

「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」(ジョージ・バランシン振付)
永久メイ
キム・キミン

「クオリア」(ウェイン・マクレガー振付)
ヤスミン・ナグディ
リース・クラーク

「ドン・キホーテ」(マリウス・プティパ振付)
マリアネラ・ヌニェス
ワディム・ムンタギロフ

「ル・パルク」(アンジュラン・プレルジョカージュ振付)
オニール八菜
ジェルマン・ルーヴェ

世界初演 「空に浮かぶクジラの影」(ヨースト・フルーエンレイツ振付)
ジル・ロマン
小林十市

「くるみ割り人形」(ジャン=クリストフ・マイヨー振付)
オリガ・スミルノワ
ヴィクター・カイシェタ

「3つのグノシエンヌ」(ハンス・ファン・マーネン振付)
オリガ・スミルノワ
ユーゴ・マルシャン

「ハロー」(ジョン・ノイマイヤー振付)
菅井円加
アレクサンドル・トルーシュ

「シナトラ組曲」(トワイラ・サープ振付)
ディアナ・ヴィシニョーワ
マルセロ・ゴメス
※上演順不同

指揮:ワレリー・オブジャニコフ ほか
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
ピアノ:菊池洋子、滝澤志野
チェロ:⻑明康郎

概要/世界バレエフェスティバル/2024/NBS公演一覧/NBS日本舞台芸術振興会
CULTURE