【公演レポ】ヤニック・ネゼ=セガン指揮 METオーケストラが13年ぶりに来日!〈Aプログラム〉

ネゼ=セガン率いる”METオーケストラ”(メトロポリタン歌劇場管弦楽団)が13年ぶりに世界最高峰の歌手と待望の来日を果たした。6月27日、東京・サントリーホールで名作オペラとシンフォニーが楽しめるプログラムAを鑑賞した。


ⒸNaoko Nagasawa

METオーケストラは1883年MET創立とともに発足。オペラとコンサートの両方で革新を重ね、トスカニーニ、ラフマニノフ、ルービンシュタイン、カザルス、クライスラーなどが共演。今や世界を率いるシンフォニー・オーケストラの一つとして大活躍し、日本国内では北は北海道から南は九州まで映画館で上映されている「METライブビューイング」でおなじみの全米No1のオペラ・オーケストラ。

指揮は、2018年にニューヨークのメトロポリタン歌劇場音楽監督に就任したヤニック・ネゼ=セガン(Yannick Nézet-Séguin)。音楽監督就任後初となるMETとの来日となった。ヤニック・ネゼ=セガンは、40代ながらフィラデルフィア管弦楽団の音楽監督も兼務し、米東海岸を中心に精力的に活動している。かつてカラヤンがウィーン国立歌劇場とベルリンフィルの間を忙しく往復していた姿を想起させる。

ワーグナーの歌劇「さまよえるオランダ人」序曲は、弦楽器のトレモロに乗って、ホルンとファゴットにより「呪われたオランダ人の動機」が力強く鳴り響いた。大荒れの海を航海する様子を巧みに描写するワーグナーの作風の見事さとMETオーケストラの強靭な演奏力に息を飲んだ。ヤニック・ネゼ=セガンのエネルギシュシュな指揮により弦、打楽器の鳴りが凄まじい。金管セクションは壮麗に咆哮し、オランダ人船長の難破と救いの様子が目前に投影されたかのようであった。


ⒸNaoko Nagasawa

ドビュッシーのオペラ「ペレアスとメリザンド」は、王太子ゴローの弟ペレアスと王太子妃メリザンドによる禁断の恋の物語である。印象主義音楽のオペラと呼ばれる作品で、夢の中に眠り込んでしまうような陰影ある世界をしっとりとした木管や繊細な弦で表現していた。

プログラムAの白眉は、後半のバルトーク唯一の歌劇「青ひげ公の城」(演奏会形式)。演奏時間約1時間の1幕形式、歌唱パートを持つ登場人物は青ひげ公とその新妻ユディットの2人のみという凝縮されたスタイルがひとつの売りとなっている。

現代最高のメゾソプラノと評され、METライブビューイング常連エリーナ・ガランチャと磨き抜かれたノーブルな美声で知られるバス・バリトン歌手のクリスチャン・ヴァン・ホーンが独唱者として登壇した。

青ひげ公の古びた城を訪れたユディットは、青ひげ公に懇願し、謎めいた七つの扉を順次開けてもらうのだが、新妻ユディット役のエリーナ・ガランチャは、低音から高音まで響く滑らかな美声と身に迫ってくる圧倒的な演技力に身震いさせられた。ガランチャが青髭公に扉を第七の扉を開くように切実に迫ってくる場面は、同オペラのハイライトだった。絹のように滑らかで光沢のように輝く声は、メゾ・ソプラノとしては世界的にも稀有な存在。しかも舞台姿・立ち振る舞いが凜としており上品かつ美麗。聴き手、とりわけ男性オペラファンをまたたく間に虜にしてしまうチャームに溢れていた。


ⒸNaoko Nagasawa

青ひげ公のクリスチャン・ヴァン・ホーンは、見栄えのする堂々とした体躯で聞き惚れるような豊かな低音を披露。威厳がある舞台上での毅然とした佇まいは、青ひげ公にぴったりだった。


ⒸNaoko Nagasawa

オーケストラは洗練された弦セクションのほか、金管セクションの響きが緻密にしてゴージャス。オペラオーケストラの真髄を聴かせてくれた。これほどの「青ひげ公の城」はなかなか聴くことができるものではない。演奏後のカーテンコールでのスタンディングオベーションの観客に対し、ネゼ=セガンは満面の微笑みで応じ、会場全体はをポジティブなエネルギーで満たしてくれた。


ⒸNaoko Nagasawa

■ヤニック・ネゼ=セガン指揮 METオーケストラ来日公演2024

日時:6月27日(木)19:00開演(開場18:15)
会場:サントリーホール

出演:

MET オーケストラ(管弦楽)
ヤニック・ネゼ=セガン(指揮)
エリーナ・ガランチャ(メゾソプラノ)
クリスチャン・ヴァン・ホーン(バスバリトン)

演奏曲目:プログラムA

バルトーク:歌劇『青ひげ公の城』(演奏会形式・日本語字幕付)
(メゾソプラノ:エリーナ・ガランチャ、バスバリトン:クリスチャン・ヴァン・ホーン)
Bartók: “Bluebeard’s Castle” (Concert Performance, with Japanese subtitles)
(Elīna Garanča, mezzo-soprano / Christian Van Horn, bass-baritone)

ヤニック・ネゼ=セガン指揮 METオーケストラ来日公演2024 <オフィシャルHP>
ヤニック・ネゼ=セガン指揮 METオーケストラ来日公演2024「オフィシャルHP」です。


ヤニック・ネゼ=セガン指揮 METオーケストラ来日公演2024 CM映像